第2話 謎の依頼
今から11年前の3月11日。高校3年生の俺が帰る場所は突然なくなった。
高校を卒業し、バイトに明け暮れていた毎日。
「待って。めっちゃ揺れてんだけど!もぉ~」
経験したことのない揺れに、バイト先のスーパーで思わず叫んだ。
照明は暗転し、商品棚からは雪崩のように商品が崩れ落ち、辺りでは悲鳴が飛び交っている。
これでは商売どころではない。
閉店作業を終え急いで帰宅すると、そこにはがれきの山しかなかった。
「こりゃないよ……」
がれきを前に呆然とするしかなかった。
数分経過して頭で状況の整理がつくと、あることを思い出し身の毛がよだつ。
手から血が流れていることに気づかないほど、必死になって瓦礫の山をかきわける。
母さんは……? いつも俺におかえりを言ってくれる優しい母さんは…??
瓦礫の隙間から出てきたのは、冷たくなった生気を感じられない母さんの腕だった。
救急隊が救助に駆け付けたが、母さんがおかえりを言ってくれることは二度とない。
父さんも仕事から帰ってくることはなく行方不明。
東日本大震災のせいで俺は一人になった。
忘れたかった昔の嫌な記憶を思い出してしまったな……。
福島原発帰還困難区域調査の依頼だと?こんな冴えない中年のナマポ受給者のところになぜ?
詳細はこう記されていた。
『福島原発の事故によって、立ち入りが禁止されている帰還困難区域の調査をあなたを含めた100名ほどに依頼をします。報酬は1億円。あとの詳細は全員を集めた説明会でお話させていただきます。この依頼の内容については他言無用です。もし、情報の漏洩が確認された場合、報酬を獲得する権利は剥奪されますのでご注意を』以上。
い、1億円だと!?
俺のナマポが月12万円だから、えーと計算機……。
約833ヶ月分……。年だと約69年分!!?
途方もない金額に驚くしかない。
原発周辺ってことは放射能で危ないのかなぁ……。
俺に依頼が来た理由は、多少の危険が伴っても1億円を目の前にぶら下げれば食いつくだろうからっといったところかな。名探偵ナマポにはお見通しだね。うん。
調査するだけで1億円か。貧乏な俺に行かない理由はない。
ただ、帰還困難区域には俺の……、いや、俺たちの我が家だった場所もある。
あれから、震災のことからは目を背けてきた。背けずにはいられなかった。
直視したら俺の中の何かが壊れてしまう気がしたから……。
これは俺の人生を変えるいい機会なのかもしれない。金銭的にも精神的にもな。
とりあえず、説明会だけでも行ってみよう。母さん俺逃げないよ……。
次回、第3話「説明会へ」