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勘違い、支離滅裂王子

 自分の部屋のソファへ座らされた。僕の向かい側のソファには、教育係のオルゴ、父の宰相の一人アクイラ、それから僕の側近ニールが腰掛ける。


「おい、アクイラ。お前が話せ」


「いや、オルゴ。教育係はお前だぞ」


 肘で小突き合う二人。


「ニール、そんなに僕の心臓病は悪いのか? 自分では分からない。こんな症状、聞いたことも読んだこともない」


 ニールが不安そうにアクイラを見上げる。


 その時、コン、バーン! と扉が開かれた。この開け方は……やはりカール。佳人なのに、相変わらず、がさつである。おまけに今日も男性の服装。


「父上! 私が何故、妙ちくりんな庶民の世話役なのですか!」


 男性礼装姿のカールは怒り顔。美人が台無し。


「カール! 妙ちくりんとはセレーネさんの事か! あのように奥ゆかしく、可愛らしく、おまけに優しくて聡明そうな女性を妙ちくりんとは、見る目無しだぞ」


 僕は思わず立ち上がっていた。カールに近寄ってもいた。カールが僕を見上げる。彼女は頬を痙攣させた。


「レクス王子、今のは……。父上、これは……」


「あー、カール。王妃命令だから、世話役をしなさい。アンリエッタは遠ざけるように」


 アンリエッタは遠ざける?


「アンリエッタは遠ざける? アクイラ、何故アンリエッタをセレーネから遠ざける」


 僕は振り返り、アクイラの表情を確認した。苦笑いしている。


「アクイラ、娘のことは妻やラスが気にかけてくれる。カール、気にしなくて良い」


 カールは話しかけてきたオルゴを見て、自分の父親アクイラを見て、それから僕を見据えた。顔を歪めている。


「父上、嫌です。拒否します。私はティア様の護衛騎士隊長。面倒事はティア様の件しか引き受けません」


「カール、お前は侍女兼目付け監視役だろう。また護衛騎士などと。まあまあ、カール。一晩、もしくは数日、お客様の相手をするだけだ」


「アンリエッタと君は、ティア様と三人で大親友だと思っていたんだけどな……」


 ぼそり、とオルゴが呟く。途端にカールはオルゴを見つめ、首を縦に振った。


「その通りです、オルゴ様。このカールはティア様と、一応アンリエッタと三位一体。レクス王子、客の世話役はこのカールがします! 貴方様に手間や、迷惑はかけません!」


 言動がくるくる変わるし、何の話なのか不明。カールは嵐のように去っていった。


「そうだ。アクイラ、この件はニールに頼もう。コーディアル様もそう言っていた」


「励めニール、私達もかつて励んだ。そうだなオルゴ。子供達の事は子供達に任せよう。王妃様からの指名だしな」


「えええええ! そんな、オルゴ様、アクイラ様。それこそ嫌です!」


 オルゴ、アクイラに向かって、ニールはブンブンと首を横に振った。


「目付け監視役なのだから、色々と経験しなさい。王妃命令は絶対だ」


「目付け監視役なのだから、レクス王子の事を誰よりも分かっているだろう? 励め。流星国において、王妃命令は何よりも重い」


 アクイラとオルゴが、ニールに微笑みかける。


「僕が招いた国賓なのだから、僕が責任を持つ。カールもニールも必要ない。いや……カールは女性なので、必要か。ニール、母上には僕から君は不必要だと話をしておくよ」


 歩き出そうとしたら、ニールが僕を掴もうとしてきた。ひらり、と避ける。


「なんで避けるんですか?」


「だから、この件は僕の担当だ。君は不要。セレーネさんに近寄らなくて良い。オルゴやアクイラは忙しいようだし、君も同様」


 僕はニールの肩を軽く叩いた。


「病気については、あとでカインから直接聞く。この若さで覚悟しないとならないのか。まあ、とりあえず僕は会食や会談の手配をしてくる」


 会釈をして退室。


「ニール。一人でなくて構わない。エリニス王子やヴァルに相談しなさい。私達にも報告するように。あのレクス王子からは、なるべく目を離すな」


 退室時に、オルゴの神妙な声が背中にぶつかった。僕は、先の短い命なのか。なら、この国にとって、良い事をうんと残すべき。


 廊下を歩きながら、セレーネの居場所を思案する。玉座の間にまだ居るだろうか?


「おお、フェンリス。その花は……素晴らしいなフェンリス。君は誠の友だ。セレーネさんは花を好んでいた」


 廊下の角から、フェンリスが現れた。尻尾に白いコスモスを何本も掴んでいる。フェンリスは僕にコスモスを差し出してくれた。有り難く受け取る。


 来い、というようにフェンリスが頭部を動かし、元来た廊下を戻り出した。頷いて、後ろに続く。


「白いコスモスの花言葉は、優美だフェンリス。優しく、美しい。セレーネさんにぴったりだ」


 軽い吠えが返ってくる。僕はフェンリスの隣を歩き、彼の背中を撫でた。何処へ行くのかと思ったら、フェンリスは階段を降り、廊下を進み、玄関ホールまでやってきた。


 誰も居ない。


「フェンリス? 誰も居ないぞ……」


 スタスタ、スタスタ。フェンリスは中庭方面へ向かっていく。


「中庭かい?」


 返事の吠えが返ってきた。フェンリスについていくと、やはり目的地は中庭。噴水周りに、花びらが撒かれている。噴水近くのベンチには、毛皮製の白い膝掛け。


「フェンリス! これは素敵な会談場所だ。静かで、綺麗で、話が弾むだろう」


 フェンリスの尻尾が、僕の背中を撫でた。


 さて、セレーネはまだ玉座の間だろうか? フェンリスがまた、ついて来いというように歩き出す。僕は素直に従った。フェンリスはいつも、僕の味方をしてくれる。


 フェンリスが向かったのは、玉座の間ではなく客間だった。


「良いか、田舎者。一晩泊まるのは許そう。何せ、王妃様の決定だ。明日の朝までは世話をしてやる。この部屋から出るな」


 この声、カール。僕は客間をコンコンコンコンコンと、せっかち気味にノックして、すぐに入室した。


「カール! 僕の大切な賓客に対して、田舎者とは何だ!」


「レクス王子! 淑女の部屋に、招かれてもいないのに入室しないで下さい! というか、絶対にそういう事をしないのに、どういう事です?」


 小走り気味にカールの前に立つと、僕は自問自答した。カールの指摘通りである。セレーネは困惑した様子で、カールを見つめている。


「確かにそうだ……。いや、カール。目の前に罵倒された者がいて、見過ごすような男には育てられていない」


 腰に手を当てて、カールを見下ろす。彼女は、女性にしては背が高いけれど、僕の方が身長がある。女性にこういう態度は良くないが、勝気で負けん気の強いカールには、このくらいが丁度良い。


 案の定、カールは僕の態度に、まったく気圧されていない。


「いきましょうセレーネさん。彼女は、少々気難し屋でがさつなんです。貴女の世話は僕がしっかりとしますので、大丈夫です」


 セレーネの手を自分の腕に招き、エスコート。流星国の王族や、城勤めの者が礼儀正しいと伝えないとならない。


「レクス王子! 行くとは何処へ? コーディアル様から、その田舎……そのセレーネの世話を指示されたのは私です。レクス王子は、来週の舞踏会の準備をして下さい。他にも色々と仕事がありますよね?」


 カールが僕とセレーネの前に立った。美人に似合わない、怒り顔。


「ああ、そうだ。舞踏会の最終準備と、国立病院の増築計画書の確認に、孤児院予算修正……」


 僕は足を止めて、時間配分を考えた。それから優劣。


「僕は賓客との会談を優先しないとならない。会食準備は……ああ、ニール。ニール!」


 出入り口の所に、ニールの姿が現れたので、声を掛けた。


「ニール、君とカールで僕達の会食準備をするように。ニール、孤児院予算修正の確認は君に頼む。たまには別の視点も必要だ。残りは、寝る時間を遅くすれば良いだけ」


 僕を睨むカールを見つめて思案。


「カール、世話役は君よりもアンリエッタが適任だ。品があって、穏やか。気配り上手だ」


 完璧。僕は再び足を動かし始めた。


「セレーネさん、薬草園を見せます。それから医務室や図書室。感想は中庭で聞きます。いや、寒くなるから先に中庭で君の村の話を聞こう」


 セレーネの顔を覗き込む。困った顔をしている。


「あの、私……やはり……」


「ん? やはり、ああ! 海へ行きたいと言っていましたね。先に海へ行こうか」


 海。僕がその単語を発した時、セレーネはパアッと顔色を明るくした。


「海? 海へ行けるんですか? 憧れの海へ?」


 セレーネはとっても嬉しそうな微笑み。海に憧れているのか。これは、行き先決定である。


「フェンリス、君の速さなら日没までに帰れるだろう。帰ったら、君が用意してくれた特等席を使う」


 僕はセレーネの手を引いた。足を進め、ベランダへ出るために窓を開け放つ。ベランダへ出る。


「日没までに帰る。ニール、カール、頼んだ。よろしくフェンリス」


 僕はサッとセレーネを抱き上げて、フェンリスの背に乗せた。フェンリスに跨り、セレーネを支える。フェンリスが風よりも速く走り出した。


 カールとニールが何か叫んだが、フェンリスが速過ぎて、聞き取れなかった。

「おいニール! 止めろ!」

「あんなに速いのに無理だろ⁈」


 ニールはレクス王子を止められなかった。カールも同様。カールとニールは顔を見合わせ、大きな溜息を吐いた。


「あんなレクス王子……。アンリエッタから隠せ。泣く。絶対に泣く! 続々と来訪する姫君達からも隠せ! カール、頼んだ!」


「私に出来る訳が無いだろう⁈ ティア姫を上手く誘導して、姫もアンリエッタも全員相手させよう。今のレクス王子のセレーネさんに対する態度を知られたら……地獄絵図だ」


「あーあ、行っちゃった。カール……。エリニス王子だ。エリニス王子に相談しよう」

「いや、シャルル王子に相談しよう。もう、いらっしゃったのだろう?」


 カールとニールは、再度長く息を吐いた。


「よう、ニールにカール。何してるんだ? 探す手間が省けた。俺はこれからシャルルやヴァルと隣街へ行く。土産を買ってくるからな」


 廊下から、エリニス王子に声を掛けられた。通りすがったついでの発言という様子。告げるとすぐに、エリニス王子は去っていった。


「そうだった! エリニス王子は、いつもの流れだと、自分達の派閥と隣街に宿泊だ!」


「お、追えニール! 私はティア姫だ! そうだった。今年も舞踏会の練習をする話を来賓の姫達にしてしまう! レクス王子とティア姫主催の練習会なんて止めねば!」


「「急げーーーー!」」


 客間に二人の絶叫が轟いた。

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