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鈍感浮かれ王子

 異国から流星祭りを見に来た、セレーネという自称薬師の女性。僕は「巣」に二週間泊まるという、セレーネの説得に成功した。


 彼女の義姉アフロディテ探しを請け負い、城の客間を提供。


 代わりに、セレーネは僕に彼女の故郷の暮らしや薬師としての知識を教える。アングイス、セルペンスの話もする。そういう事になった。


 応接室に、母の秘書ラスティニアンとニールを呼んで、セレーネの事を頼んだ。「巣」の話をするとややこしくなりそう。僕は、セレーネは迷子の観光客、という事にした。


「随分とまあ、大きな迷子ですこと」


「あの、すみません……。あの、(あね)様を見つけるまで本当に野宿するので……」


 威圧感たっぷりなラスティニアン秘書に、セレーネは萎縮してしまっている。


「ですから、年頃の娘さんに野宿なんて許しません。流星祭りが終わるまで、私は城に泊まり込み。家族に会えるまで、その私の部屋に宿泊してもらいます」


「あー、母上。その顔……」


「だってニール! 娘よ娘! このように礼儀正しい娘さんなら、あんな服を着せたり、こんな髪型にしたり……。コホン。私はとても記憶力が良いので、盗みなどをしたら直ぐに気がつきます。悪さをしたら身ぐるみ剥がして追い出しますからね」


 ニヤニヤ笑うラスティニアン秘書は、機嫌良さそう。息子のニールは呆れ顔。


「まあ、目を見れば人柄くらい分かります。無駄に長生きしていません。一応、国王陛下とお妃様に会わせますが、私と同じ判断でしょう。明日、騎士達に家族探しをしてもらいますから一泊くらい問題ありません」


 さあさあ、おいでなさい、とラスティニアン秘書はセレーネの背中を押した。


 軽快なノック音がして、ティアの声。


「失礼します。レクス、お客様にご挨拶に……まあ、とても優しそうな素敵なお姫様。どちらの国のお姫様ですか? (わたくし)はこの流星国国王フィズの娘、ティアと申します」


 優雅な会釈をした後に、ティアがセレーネに笑いかけた。


「お、お、お姫様⁈ ま、まさか! 私は(あね)様の髪結いと祈祷の踊り役と薬師でございまする! えっと、あのティア姫様! (あね)様よりも美人な女の子は初めてです。きょうえくしごつつ? にございますしゅ!」


 真っ赤になって、セレーネはしどろもどろに答えた。噛んだせいか、セレーネは益々赤くなる。少し言い間違いをしただけで、ここまで赤くなるとは、奥ゆかしい。


「髪結い? 祈祷の踊り役と薬師は分かります。沢山、仕事をされているのですね」


 ティアは尊敬の眼差し。セレーネは照れたように、はにかみ笑いをした。しかし、眉毛は困惑というように下がっている。


「髪結いは、あの……髪を綺麗に整えます……。そ、そのような複雑ながらも可愛い髪型では無く……私の村とは随分と形が違っています……」


「私が美人過ぎて緊張しているのね。でも、皆すぐに慣れるわ。佳人は三日で飽きると言いますもの。セレーネ、貴女の村の髪型を教えてくれる? 私、近々運命の王子様か騎士様と出会うの。その最高の日に、貴女の村の髪型かもしれないわ」


 あれよあれよという間に、ティアはセレーネを連れ去ってしまった。ティアはいつもこう。会って、気に入ったと感じると、もう友達扱い。


 ラスティニアン秘書が二人を追いかけていった。


「ニール、僕はまだ全然異文化交流が終わっていない。セレーネさんと夕食を摂って、その後また会談する。オルゴに手配してもらうが、君も……いや、君は勉強がある。励め。僕はセレーネさんと二人で会食、その後に会談だ。勉強時間は睡眠時間を削る」


 セレーネと二人で夕食が良い。会談も同じく。巣、アングイス、セルペンス。そういう秘密の話をするには、二人きりでないといけない。


 僕は自分の世話役であるオルゴを探しに行く事にした。王子世話役と騎士団顧問を兼任していて、今の時間なら城の騎士総本部に居るはず。


「レクス王子、危ない」


 ゴンッ。僕は扉に思いっきり激突した。


「なんで閉まっている扉に、意気揚々と進んだのですか⁈ ずっと赤い顔をして……ああ、そうだ、風邪かもしれないのですよね? カイン様の所へ行きますよ」


 ぶつけた額を撫でる。こんなそそっかしいこと、あまりした事がない。


「そうかもしれない。急に動悸がしたり、熱くなったりする。胸が締め付けられるのに、悪い気分ではない。苦しいけど、苦しくないというか……。突発的な熱や頻脈とは、何の病だ? まあ、僕はおかしい。風邪というか、きっと疲労だ」


「……。レクス王子、今もそういう症状はあります?」


「いや、今は無い。実に元気だ。熱発がこんなに早く引くとは思えないが……。今は大変良い体調だ」


 嘘をついているんじゃないか? ニールはそういう、不審そうな表情。


「ニール。仮病なら、今も具合が悪いと言うぞ」


「あー、レクス王子。セレーネさんとの交流、会食、会談はティア姫が良いと思います。二人の歳は近く、もう交流を始めましたし」


 はあ? ニールは何を言っているんだ。


「ティアに薬や医学知識は無い。ティアだと、中身のない、ふわふわした話ばかりするに決まっている。まあ、たまに良い提案もするが……。いや、ニール。ティアでは役不足。セレーネさんには、この僕が必要だ」


 全く、目付け監視役なのだから、僕よりも良い状況判断をしてくれないと困る。


「女性には女性ではないですか?」


「まあ、一般的にはそうだが……。僕でないとならない。僕は誠心誠意、彼女をもてなす。不自由させない。セレーネに必要なのは僕だニール」


 ニールがあんぐりと口を開けた。何だ?


「何だい、ニール」


「レクス王子。彼女の事、どういうつもりで城に呼んだのですか?」


「だから、互いを高め合う相手だと思ったから呼んだ。大袈裟に言えば、国際交流だ。今日の君は変だぞ、ニール」


 えええええ、とニールが呻いた。頬を引きつらせている。いつもは真面目で気の良い男なのに、今日は変な奴。疲労だな疲労。毎日、医者の卵として励み、僕の側近としても働いていて多忙だからだ。


「僕はオルゴの所へ行く。ラスティニアン秘書が父上の許可を取るだろうが、オルゴと僕からもきちんと話をする。夕食や彼女の衣服の手配をせねば。君は疲れているようだから、休むと良い」


 歩き出すと、ニールが付いてきた。


「いやいやいや。夕食はともかく、衣服の手配などは母がしますよレクス王子。先程のあの顔、着飾る気満々でしたから」


「貸出ではなく、手土産の方だ。色々と学ばせてもらうのだから、お礼が必要。交易にも役に立つ。あれだ、母上に新作の染物で作った服を譲ってもらおう。この間、あれこれと良い物を作っていた」


 体調不良なんて嘘のようだ。足取りが軽い。やるべき事があると、病に打ち勝てるのか。


「コーディアル様から服を譲って貰う? まさか!」


「セレーネは煌国以外の、大陸中央部にある村から来たそうだ。彼女が褒め称えると、新しい交易に繋がるかもしれない」


 ニールは理解不能という雰囲気。ニールには先見の明があると思っていたが、この件に関しては話しても無駄そう。僕はニールを追い払った。何やらブツブツ言っていたが、妙なのと煩いので無視。


 廊下を歩きながら、ふと花瓶に生けられた花に気がついた。普段は流し見していたが、そうだ。花が生けてあると華やかだし、和む。何より、女性は花好きが多い。セレーネは特にそんな感じだった。


 応接室を飾ったように、セレーネが泊まる部屋も花で飾るべき。


 髪結い……要は義姉の侍女のような仕事なのだろう。侍女で薬師、おまけに祈りの際に舞を依頼されるとは、素晴らしい生き方をしてきているのだろう。


 ショールに似合う、花を模した髪飾りが必要だ。髪飾りはセレーネの義姉とその侍女の分の、三人分にしておこう。一つだけ贈って、彼女が仕事で使ってしまったら、セレーネの髪飾りが無くなる。


 城の一階、渡り廊下で続く別塔。騎士総本部で、僕はオルゴに一通りの事を報告した。彼は事務所で書類に埋もれていた。


 流星祭りの市内警備、要人警護体制の最終調整だろう。あれこれ手配を依頼するのは、気が引ける。僕はこの件は自分でする、とオルゴに宣言した。


「レクス王子。その女性と異文化交流、会食、会談、私には他の意味に聞こえます」


「他の意味?」


「……。フィズ様へ報告、相談に行きましょう。ラスも話すでしょうけど、ご自分で話した方が良いと思います」


 オルゴは書類の山を置いて立ち上がった。これは、申し訳ない。もう成人になるのだから、教育係に迷惑を掛けてはいけない。


「オルゴ、僕はもう間もなく成人。話なら一人で出来る」


「いいえ、一緒に行きます」


 幼少から世話になってきた、教育係のオルゴに背中を押されると、否とは口にし辛い。僕はオルゴと共に、父である国王の元へ向かった。

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