第8話『真相』
連続投稿です!!
強面達が報告に戻った。
「報告します。犯人を【対技能牢】へと投獄しました。」
「分かった、すまぬな。下がって良いぞ。」
王様は疲れた様子で声を掛けた。強面達は立ち去る。
「お父様、大丈夫ですか?」
そう声を掛けるのは王女様だ。先程まで魔獣の森にいた王様の事を気遣うのは当然の事だろう。だが、王様は大丈夫だ、と言って再び話を再開させた。
「で、勇者殿。あの男は貴殿を一度、殺したのだろう?どうして生き返ったのだ?」
王様は事件の経緯を知らない。僕は一から説明をしていた。
「ええ、そのようです。僕が覚えているのは、毒による苦痛だけですが。」
「その後に人格がネルロ殿に入れ替わった、と。」
「その通りです。今、僕の中には二つの人格が存在しています。恐らく転生したと思われる、記憶喪失の名無しの勇者。そして、姿を晦ましていた、勇者ネルロ。表面には前者が出ています。」
「どうして二つの人格が存在しているのだ?」
当然の疑問だろう。ネルロは元からこの世界にいた。僕は異世界から転生してきたのだ。どこに繋がりがあったのだろうか。
「それは僕にも分かりません。ネルロも知らないようです。僕達は共通の容姿であるので何らかの関連性があるだろう、とだけしか。」
「……ネルロ殿に聞いたのか?貴殿はネルロ殿と会話が可能なのか?」
「どうやらネルロは、僕が死を迎えた時に出現するようになっていたようです。ネルロが表面に出る時間が長くなる程にネルロの人格は強くなります。」
「今はどれ程の割合なのだ?」
「一度ネルロの人格が現れてからは僕の意思でもネルロの人格を表面に出せるようになりました。魔獣の森で二秒ほどネルロに変わったのも含めて、凡そ僕とネルロは8:2と言ったところです。」
二秒の間、ネルロが出現したが、あまり変化は無かった。恐らく僕が死を迎えた時に現れる方が人格を強くするのだろう。果たして転生した時に何が起こったのか。いずれ願いを使う必要がありそうだ。
「ふむ……ネルロ殿が貴殿の代わりに表面に出た時、ネルロ殿はどれほどの力を行使できるのだ?」
「確かめてはいませんが、全ての筈です。」
僕はネルロに尋ねる。
『それで正しいか?』
『ああ、正しいよ。僕は君の代わりに出現すれば、全ての力を発揮できる。』
ますます王様は唸る。決めかねているのだろう。王子殿下もまだ立ち直れていないようだ。これでは国民など更に不安に駆られているだろう。事件は終わりだが、良くない状況に誰もが焦っているようだった。
「これからの事はおいおい決めませんか?」
僕はそう提案した。どうせここでは何も決まらない。それなら他の事に目を向けた方が断然良い。王様を促す。
「まずは国民の皆を安心させる事が大切だと思うのですが……。」
「……それもそうだな。勇者殿が戻られたのだ。それも合わせて国民に知らせる必要があるだろう。だが、準備が必要だ。オリバ。」
「すぐさま準備に取り掛かりましょう。」
オリバと呼ばれた壮齢の男性は宰相だ。見事な手腕で政治を仕切っていたのをネルロの記憶で知っている。
「皆、まずは夕食にしようではないか。」
事件のせいで僕達は夕食を食べれていない。気を取り直して、僕達は食事をする。
「……生き返った気分だ。」
王様はふと呟いた。その言葉に王子殿下や王女様が王様を見る。僕も王様を見た。視線に気付いたのか、言葉を続ける。
「魔獣の森で魔人族を見た時は生きた心地がしなかったのだ。どうにか攻撃する暇も与えず話し掛けていたが、それすらも魔人族には気付かれていた。彼奴にとっては一国の王ですら、遊戯でしかなかったのだ……。」
あの時の魔人族。今も攻撃の感触が手に残っている。互角に持ち込めるかどうか。それが今の僕の限界だろう。更なる力を求める必要がありそうだ。
「お父様……。」
魔人族の恐ろしさは人族全員が知っている。二千年ほど前、魔人族の大侵攻があったのだ。大侵攻と言っても、魔人族は二人だけだった。その二人に人族の広大な領土の三分の二が侵略された。
その二人の魔人族は当時いた三人の勇者が命と引き換えに滅ぼしたとされる。三人の勇者で二人の魔人族がやっとなのだ。その強さが分からない者はいないだろう。
次に誰かが言葉を発するまでしばし静寂が場を包むのだった。
その静寂を破ったのは王様でも、王女様でも、王子殿下でも、僕でも無かった。静寂は一人の兵士によって破られた。
「お、お食事中失礼します!!」
跪き、兵士は報告する。その表情から相当深刻な事が起こったのか。場に緊張が走る。
「……どうしたのだ?」
王様は出来るだけ穏やかに言ったが、それでも焦燥は隠せていなかった。
「牢に捕えられていた囚人が……ま、魔人族でした!どうやら純粋な魔人族ではないようで、混血のようです!」
魔人族は混血と純血を比べると、圧倒的に純血の魔人族の方が強いのだ。混血は別種族の血が混じれば、混じるほど弱くなるとされる。弱肉強食の魔人族では、迫害も酷いという。
あの男が魔法を使え、強敵であったのはその為であったのだ。恐らく魔人族の血は薄いのだろう。それでも魔人族の血は強さを引き出す。
「僕が向かいます!危険ですから、王様が来られる場合は護衛を複数連れられて下さい!」
僕は報告に来た兵士を置いて【転移儀法】を使う。すぐにネルロの記憶で見覚えのある牢が見えた。
「クックック!勇者様のお出ましかぁ!」
「魔人族だったのか。」
「ああ!この檻も血が強ければ抜け出せたのになぁ!全く残念だ!」
「その割に残念そうじゃないな。」
どうして対技能錠を付けられ、対技能牢に入れられた状態で人族に化けていられたのだ?確かにあの時、魔人族の象徴である角はこの男に無かった。
男を観察する。軽装の男におかしな所は────いや、ある。
「そのネックレスは何だ!」
「流石、勇者様、気付いたか。クックックッ。このネックレスは魔力を込められるという逸物でなぁ!【対技能錠】や【対技能牢】も意味を成さない!これで【変身】を保っていたのさ!」
変身の魔法を常時行使していたのか。だが、そのネックレスにはまだ魔力が篭っている。
「そのネックレスを渡せ。」
「渡せと言われて渡すと思うかぁー?クックックッ。」
男はネックレスを手に持った。兵士の二人が牢に入り、奪い取ろうとする。
「おっとそうはさせねぇ、よっ!」
鍛え上げた体術で兵士二人を殴り飛ばす。激しい音を立てて牢にぶつかると目を覚まさなかった。死んではいないが、気絶したようだ。
「勇者殿!!」
王様達が多くの護衛を連れて降りてきた。
「離れてください、まだ奥の手を残しています!」
ネックレスを指さして言う。牢の中で倒れている兵士を見て、王様も気付いたようだ。距離をとる。
僕は牢に入る。ここで王様の護衛を減らす訳にはいかない。とすれば、男のネックレスを奪い取れるのは僕だけだ。
「そのネックレス、回収させてもらおう。」
僕はネルロの記憶のままに剣を抜いた。異世界に来て、初めての剣である。異世界と言えば、剣と魔法の世界というイメージが強いが、どうやら勇者の僕はどちらも使いこなせるらしい。魔法ではなく、儀法だが。
「……頃合いか。クックック!さらばだ、勇者!地獄で会おう!」
男は突然ネックレスを地面に叩きつける。強い魔力反応に僕は身構える。
次の瞬間、ネックレスは大爆発を起こした。対技能牢の結界が破壊される。同時に僕は自分自身と倒れている兵士に【防御儀法】を張る。
どうにか爆発の余波は防げたようだ。だが、倒れていた兵士は爆発を受けてしまった。すぐに【回復儀法】で助ける。ギリギリ間に合った。
破壊された牢には男の笑い声が残響していた。
「どうなったのだ!?」
王様が牢の外から声を発する。煙で周囲の状況は見えていない。
「分かりません、ですが男が爆発しました。」
男がいた場所を僕は見ていた。そして、煙が徐々に晴れる。
「……誰だ!」
煙に見える影に僕は叫んだ。護衛達も身構える。既に対技能牢は意味を成していない。
そして、完全に霧が晴れた。直後、王様は唖然とした。
「お、お前は……!!」
消え去った男の跡に立っていたのは、魔獣の森で出会った魔人族であった。