第7話『戦闘』
エネ視点です。
エネは急いで王の部屋へ着いた。そこに王女様がいると聞いたからだ。
「……エネ!ナイスタイミングだ!この男の動きを抑えて、地下牢に入れて!」
王の部屋にノックなしで入ると、勇者様が私の方を見る。焦っていた表情に安堵が浮かんでいた。
「……あっ、えっ、わ、分かりました!」
突然の名指しに戸惑ったが、直ぐに気を取り直して犯人に向き合う。ネルロ様の記憶にあったのだろうか、私が戦闘が出来るということを知っているようだ。己の暗殺術を武器に戦闘態勢に入る。
「僕は今から王の救出に向かいます。王女様は王子と共に騎士団に報告をお願いします!」
勇者様は足元に【転移儀法】を発動させ、どこかへ去った。ネルロ様の時と変わらないその行動力に共通点を感じるが、それを口に出す余裕は無い。
「……貴方が王女様と陛下を狙ったのですか。」
「クックックッ、ああ、そうさ!俺の【蟲使役】に勝てると思うかぁー?」
生意気な態度が癇に障るが、いちいち反応すれば、こちらの隙を見せることになる。だが、男の態度が自信に溢れていたため、先程の首にいた蜘蛛を思い出し、自分の首元を見た。
「おっと、隙ありぃ」
男はその一瞬をついて、私の前に移動していた。速い……!
「うっ……!」
男の蹴りが鳩尾に決められる前に手で防ぐ。反動で後方に下がる。性別の差は簡単に埋められるものでは無い。それを補うのが、技術である。私の暗殺術はそう簡単に防げるものでは無い。
「ふっ!」
男が瞬きをする、その瞬間にナイフを投げる。だが、軽く弾き飛ばれた。
「そんなものかぁー?」
男は嘗めた態度を辞めない。ナイフを弾き飛ばれると同時に私は短剣を手に男に駆け寄っていた。
「……!」
男は軽々と避けていく。どうやら男は短剣についた毒に気付いているようだ。
「隙ありだな、【蜘蛛毒】」
いつの間にか男の肩に乗っていた蜘蛛が、私に飛び乗ろうとしてくる。右手でナイフを投げ、蜘蛛を貫く。左手に短剣を持ち替え、体勢を整えつつ、一閃。やはり躱される。
「弱いな、クックックッ……まだまだだ。【蜘蛛糸】」
足元に仕掛けられた蜘蛛の糸に一瞬足を取られる。
「またまた隙だぜ」
再び蹴りを放つが、糸に足を取られた私は動きが遅れた。鳩尾に蹴りが入る。
「くはっ!」
勢いづいて床に転がる。私の暗殺術をきめる隙がない。王子殿下の側近だけある。体術だけでその地位についた、と聞いた事がある。どこかに付け入る隙は無いのか……。
「【蜘蛛地獄】!」
大量の小さな魔方陣が私の周りに展開される。そこからは蜘蛛が溢れてくる。その光景だけでも地獄だが、その蜘蛛は男の指示の元、私を襲おうとする。咄嗟に誰もいない、右側に跳躍した。
「蜘蛛ばっかりですね。それでは勝てるものも勝てないですよ?」
敢えて挑発する。そうしなければ、隙ができないと考えたのだ。だが、男は全く挑発に乗らない。口が達者なだけある。
「ふん、挑発か?よく見るんだな、別に蜘蛛はお前の事なんて狙っちゃいねえよ、クックッ」
不気味な笑いをする男の言った通り、蜘蛛は私に近付いてこない。狙っていたのは私と蜘蛛を挟んで反対側にいる────
「王女様、王子殿下、お逃げ下さい!」
強面達が前に出るが、蜘蛛が吐き出す糸によって、動きを封じられた。
「くそっ!……蜘蛛が私達を狙っている間にお逃げ下さい!」
強面達は訴える。そうしている内にも蜘蛛は強面を糸で包む。遂に強面達は顔以外全てを糸で縛られた。
「早く!」
私は蜘蛛達にナイフを投げる。ナイフの数に制限は無いが、キリがない。蜘蛛は一向に減る気配がない。
「【風刃儀法】!」
儀法で複数の蜘蛛を引き裂くが、たいして差はない。そして、気にすべきなのは蜘蛛だけではないのだ。気付いた時には男がまた近付いていた。ナイフを三本投擲する。男は勢いを削がれる。
「はっ!」
男が一歩後ろに下がった瞬間に、再び短剣を手に持ち切り掛かる。男の肩にいる蜘蛛が糸を吐く。
「【付与:燃焼】!」
技能の一つ【付与】。対象に能力を付与するという技能だ。私は【暗殺術】と【儀法】と【付与】の技能を持つ。
私の燃焼の能力を付与した短剣は、蜘蛛の糸を切り裂いた。男が体勢を整える前に懐へ潜り込む。
「【付与:閃光】」
短剣で反射させた光が男の目を眩ませる。
「貴方の命、もらいました」
短剣で男の首を切り裂く────だが、それは叶わなかった。
「……!見えてる!?」
「【視覚同期】。お前の近くにいた蜘蛛に視覚を借りたのさっ!それでも王女様の側近なのかぁー?クックックッ。」
折角作り出した男の隙も埋まり、またリセットだ。これでは消耗戦になり、いつ王女様と王子殿下に被害が出るか分からない。
私はナイフに【付与:爆発】を施し、蜘蛛達に放った。蜘蛛はナイフの爆発に巻き込まれ、全て焼けた。これで相手の手札もリセットだ。強面達も【付与:燃焼】で糸を燃やす。
「おい、どうしたぁー?何もしないなら、俺からいくぜ」
再び男は大量の魔方陣を展開する。それと同時に私はナイフを三本、全ての魔方陣を囲むように放つ。それらは魔方陣から出現した蜘蛛を切り裂く。
「【付与:空間構成】と【付与:風刃】か……!」
男は初めて苦々しい表情を浮かべる。【付与】は使い勝手が良い。ここまで来たら、私も手加減できない。体力を消耗しつつ、男の攻撃を捌いていく。
「【付与:閃光】!」
男は目を瞑るが、それすらも私の前には隙だらけだ。男の首を狙った私の刃は止められない。あと数センチ。
「蜘蛛止めろ!」
「今度こそ!!」
男の背に隠れていた蜘蛛が糸を吐き、私の腕を止めようとする。だが、勢いよく振りかぶっていた私の腕は多少的がずれたが、男の肩を切り裂いた。
「ぐわぁぁ!!痛てぇ!」
血が飛び散る。男は痛みに呻いた。私の刃には毒が塗ってある。即効性では無いが、かなり強い痛みを与える。男も数々の戦闘で痛みには慣れているだろうが、強毒であれば違う。流石に起き上がってこれないようだ。
「私の勝ちです。」
私は王女様と王子殿下の安全を確認すべく、後ろを振り返る。どうやら蜘蛛の攻撃は一切当たっていないようだ。
「うっ……死に損ないがっ!ここに勇者はいない……!死ねぇ!」
男の背中に隠れていた一匹が私に飛び付く。短剣で切り裂こうとしたが、あまりの小ささに切り裂けなかった。そのまま私に噛み付く────
「【風刃儀法】」
風の刃が私に噛み付こうとしていた蜘蛛を真っ二つにする。
「くそっ!くそっ!……うっ!」
「【捕縛儀法】」
男の腕を縛り、猿轡を噛ませる。痛みに苦悶の表情を浮かべるが、声は出せない。男は死を待つのみだ。
「させないよ、【異常回復儀法】」
男の毒は消え去る。突如消えた痛みに男は戸惑う。
「この男を技能が使えない牢に入れてくれ。【作製儀法】」
男の手に【対技能錠】を取り付ける。技能を封じる手錠だ。男は【蟲使役】を発動しようとしていたのか、舌打ちをする。
「こいつは体術も使える。二人で連れて行ってくれ。」
「わ、分かりました!」
強面達が男の両側につき、立ち上がらせる。男を引き摺るようにして、牢へと連れて行った。
「僕は一度、王様を連れてきます。」
そう言うと勇者様は【転移儀法】でどこかへ去った。しばらくして王様と共に戻ってくる。
「一件落着ですね!」
王女様が勇者様に言う。優しい笑顔を浮かべた勇者様が返事をする。
「はい、そうですね。死人もゼロです。」
それから勇者様は私の方を向いた。
「エネのお陰だよ。【回復儀法】。」
連発した技能により体力は底をついていたが、勇者様の儀法で回復した。そう、全て終わったのだ。私はどこかもどかしい気持ちがした。