表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき勇者の英雄譚  作者: 秋色空
第一章『勇者復活編』
3/20

第2話『再会』

「じゃあ、後は頑張ってね。」


 人懐っこい笑顔を最後に浮かべて、子供は消え去った。綺麗サッパリ、と。人が辿り着くことが出来ない存在なのだろう。何一つとして、勝てる要素が無かった。


「僕にあるのは願い事三つだけか。でもこれは後々残していた方が良さそうだ。まずは抜け出そう。」


 改めて何も無い壁に身体を向ける。


「願い事は使いたくなかったけど……」


 恐らくここから抜け出す為に使え、と言ったのだろう。一つ減るが、試してみなくては本当かどうかも分からないのだ。


「コホン……えーっと、儀法だっけ、それを使えるようにしてください。」


 この世界について知っているのはこれぐらい。それ以外にここから出る方法を知らないのだ。筋力が増しても、ここから抜け出せるとは限らない。


『────其方の願いは叶われた。其方の新たな力を試されよ』


 ニュースキャスターのような硬い口調で感情の篭っていない言葉が綴られる。勿論、声の主など分からない。だけど、一つ分かることは。


「何か、出来る気がするんだよな。」


 どこからともなく湧いてくる自信に流され、僕は壁に触れた。それが合図だったのだろうか。


「なっ……!」


 壁に紋章が現れる。床に描かれている紋章と似ている。繊細な魔方陣は寸分も違わないように見える。紋章は一度光を放つと、そのまま消えてしまった。そして、紋章の消失と同時に壁は崩壊した。


 ガラガラと壁が崩壊する音は大きく響いた。ここまで音を鳴らせば、誰かは気付くだろう。案の定、数人の足音がこちらに来ているようだった。


「誰だ!」


 服装を見るに、兵隊だ。最低限の武装しかしていないようだが、抵抗するだけ無駄だろう。僕は無敵じゃない。みすみす命を失うような真似はしないでおこう。


 言葉を通じるようだが、反応に困る。誰だ、と聞かれても、自分が誰なのか覚えていないのだ。しばらく辺りは静寂に包まれた。


「まさか……勇者様ですか?」


 目が悪いのか、目を細めるようにして兵士の一人が尋ねた。いや、この通路が暗いせいだろう。だから、兵士も僕が何かがわからなかったのだろう。


「……えっと」


「勇者様だ!王女様に言伝を!」


「はっ!」


 僕が困っている間に話は進んでいるようだ。いつの間にか流されるままに僕は王女様の元へ連行されていた。最大限の敬意を示されながら。


「王女様、勇者様をお連れしました。」


「……本当に勇者様、なのですか?」


 恐る恐るといった様子で王女様は僕に問い掛けた。だが、僕は首を振る。


「すみません、僕は記憶を失っているようなのです。違う世界からこの世界に転移してきたようなのです。」


 果たして意味が伝わるのだろうか。勇者という存在がいるのであれば……。


 王女様の様子を知る為に、僕は首を上げた。


 ────王女様は泣いていた。


「この方は、本当に勇者様です。勇者様が帰ってこられました。ですが、私達との記憶も何もかも忘れてしまったのですね……。」


「どこかで?」


 王女様のお側仕えから、察しろ、と言いたいのだろうか、冷たい視線が送られてくる。


「失言でした、お許しください。」


「いえ、良いのです。エネ。勇者様をお部屋にお連れして。」


「畏まりました。こちらへどうぞ。」


 エネと呼ばれたお側仕えは、日本で言うメイドだ。王宮に仕えているだけあって、美しい。それに耳が長い。エルフ……なのだろうか。


「どうされましたか?」


「あ、すみません。」


 エネは一定の速度で歩く。全く変化しない。これが鍛え抜かれたメイドなのだろうか。まさに異世界を見せつけられているようだった。


「こちらです。今夜はここでお休みになって下さい。夕食の時刻となりましたら、お呼びします。」


「分かりました。」


「それと……」


「? 何ですか?」


「勇者様。本当に貴方は何も覚えていないのですか?」


 そう言うエネの表情を見て、僕は気付いた。僕とそっくりの勇者様は長い時間を王女様と過ごしたのだ。楽しい時も辛い時も。本当にそれは僕なのだろうか。


「……本当に何も。」


「そうですか……。失礼します。」


 エネはそう言い残して部屋を去った。僕は今この世で最も罪深い人間なんだろう。自分を責めずにはいられなかった。


「はあ、思い出すなら全部思い出させてくれ!」


 願い事を使えば、僕の記憶を取り戻す事は出来るだろう。だが、あれだけ悲しませた後に記憶が戻りましたなどと、どの口が言うのか。使うタイミングを見繕う必要がある。


 ボスッ。僕は豪華なベッドに横たわった。慣れない。だけど、慣れるしかない。ここは日本ではないのだ。今はいい待遇だが、その待遇はいつ終わるかは分からない。


「今日の夕食で何かアクションを起こすべきなのかな……。」


 アクションを起こすとしたら何をするのか。思考はループするばかりで先には進まなかった。そんな自分が腹立たしい。


「うだうだ考えていても仕方ない。何かしよう。」


 ベットに預けていた体を起こす。心做しか体が重い。ここに来る前に何かあったのだろうか。集中して、儀法を使ってみる。すると、体がみるみるうちに軽くなった。


「……これが【回復儀法】か。難易度はあまり高くないようだけど、やはり願い事で叶えたからか、一つもミスが無い。もしかしたら【召喚儀法】も使えるのかな。」


 日本から誰かを召喚できる。そこまで考えて、すぐに実行に移すのを辞めた。僕は日本に返す方法を知らない。


「何故か日本に行く儀法は浮かんでこないな……。」


 原因はあの子供か。もしくは僕をここに転移させた犯人か。最悪、あの子供が両方の犯人である可能性もあるけど、それは考えないようにしよう。何も信じられなくなる。


「ライトノベルとかである、ステータスとか表示させる儀法って……あった。」


 やはり該当する儀法があれば、自然と脳内で情報が浮かんでくるようだ。これは楽で良い。


「【開示儀法】か。使ってみるか。」


 手に力を集めてみる。すると、掌にあの紋章が現れた。そして、文字が浮かび上がるのだった。


「日本語で書かれてるのか……この世界の言語じゃなくて良かったな。」


 平仮名と片仮名と漢字。まさに日本語である。スラスラと読むことができた。ついでに英語まで。



 **ステータス**

【名前】

 Error……


【年齢・性別】

 16歳/男


【職業】

 勇者/Ⅹ級儀法師


【称号】

 勇者/記憶を失いし者

 Error……


【才能・技能】

 レベル - Lv.1

 精神力 - Lv.1


 儀法 - Lv.10

 └ 聖法 - Lv.1

 Error……


【加護】

 勇者の加護

 Error……


 *********



 まさにエラー尽くしだ。まだまだステータスにも秘密があるようだ。それに儀法は最高レベルなのか。最高レベルになると上位技能が現れる、と。色々収穫があった。ステータスを閉じる。


「……少し寝よう。今日は疲れた。」


 再びベッドに寝転がると、そのまま眠りに落ちるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ