第19話『魔物討伐』
お久しぶりです。
先行したリーナは既に魔物の中にいる。リーナの周囲の魔物は抵抗するもあっけなく倒されている。戦いに乗り遅れた俺もすぐさま参戦した。
「【聖魔ノ法:虚無纏】。」
聖魔ノ法の基本技の一つである【虚無】を自分の身体に纏う技だ。これで触れるだけで相手を消滅させることができる。我ながらチートである。
「ハァ!」
俺は魔核を正確に狙っていった。魔核とは魔物における、人間の心臓や脳のような生きるのに最も重要な器官である。それを破壊すれば、魔物は消滅する。
「一体……二体……三体。」
俺が一体を倒す間に、リーナは三体を倒している。これが魔人族の強さなのだろう。まだ、全然自分の力を使えていないみたいだ。人間の時と戦い方が同じではいけないのだろう。
俺は近づく魔物を足払いで距離を開ける。それと同時に払いのけた全ての魔物の魔核を殴って壊す。
「【聖魔ノ法:闇渦】。」
黒い渦が何体もの魔物を飲み込み、消滅させる。俺は『独創力』の力で新たな技を生み出すことができる。地球という異世界から転生した俺には、この世界の常識に縛られることなく自由な発想が出来る。まさに転生者向けの力だ。
「【聖魔ノ法:夕立】。」
続けて聖魔ノ法を放つ。俺が展開すると、空が曇り、ポツリポツリと雨が降り始めた。その雨は魔物を濡らす。だが、俺とリーナは全く濡れない。
「お兄ちゃん、これは?」
「数分の間、ずっと継続する技だ。この雨に濡れると、体の組織が綻び始め、徐々に体が消えていく。」
細胞や組織というこの世界では、まだ認識されていない生物学の単位であるが、地球に住む俺だからこそ分かる。『独創力』さまさまだな。
「これで一気に片付ける。」
「えー!もうちょっと戦いたかった!」
リーナは不服そうだが、俺は計画を進めるためにもここで時間を取られるわけにはいかなかった。先程は戦いで高揚感に満ちていたが、意外と抑えが効くようだ。頭は冷えている。
「また今度、戦わせてやるから我慢してくれ。」
「うん……それならいいよ!」
どうやら納得してくれたようだ。俺は心の内で安堵する。
俺とリーナは魔物の軍勢から離れ、自由都市イグノラスへ戻った。
「お兄ちゃん、どうでしたか?」
「効率が悪いから一気に倒すことにした。」
本当はチマチマ倒していくのが面倒になったからであるが、そのことは言わない。
「じゃあ、いくぞ。【聖魔ノ法:監獄】。」
空まで届く巨大な檻が魔物の軍勢を囲うように出現する。魔物の数は多いという事しか分からない。それだけ多いのだ。だが、それもひとまとめにしてしまえば手間取ることもない。
完全に閉じ込められた魔物が囲う檻に向かって、何度も何度も突撃を繰り返す。しかし、魔物の攻撃で檻が壊れることは無い。
「終わりだ……。」
俺が手を上に上げると檻が轟音を鳴らしながら、小さくなってゆく。
「お兄ちゃん!小さくなってる!」
「ああ、そういうわざだ。これで一掃できる。」
魔物達の呻き声が遠いここまで聞こえてくる。常人がこの声を聞けば、気が狂ってしまう。その例外が訓練を積んだ冒険者や元々の能力が高い勇者や魔人族である。
「壮絶な光景ですね。」
メルナが背後から気配を殺して声を掛ける。気配を殺しているのは恐らく無意識なのだろう。この姉妹はどこまで強ければ良いのだろうか。羨ましいほどだ。
「じきに終わるさ。」
魔物の魔核が消滅する時、青い結晶のようなものが飛び散る。それは一説には消えゆく命の灯火を表しているとも言うが、まさに魔物らしい最後なのだろう、その青い結晶は赤へと染まり、深紅の結晶は一つの塊になっている。
「何が起こってるの?」
リーナの問い掛けに俺は答える事が出来なかった。勇者ネルロの知識を持ってしても知りえなかった事らしい。これは特異な現象。まさに魔核の欠けた結晶で出来た塊は異形の怪物のようであった。
「ラスボス……と、まではいかないな。中ボスと言ったところか。」
その怪物はやがてその目に光を宿した。深紅に包まれた怪物の目は黒。何の感情も……いや、そこにはたった一つの感情が宿っているのだろう。その感情とは
「――――憎悪だな。明確に俺に対する殺意が浮き出ている。中ボスにしてはやるじゃないか。」
「お兄ちゃん!」
一人呟く俺にリーナが声を掛ける。
「どうした?」
「あの怪物、リーナが倒してもいい?」
リーナの実力は充分に知る事が出来たが、当の本人はまだまだ満足していないようだ。仕方がない。今回は譲ることにしよう。
「……分かった。その代わり、リーナが苦戦したら俺の獲物だからな?」
「いいよ!」
そう言うと同時に地面を蹴って、文字通り飛ぶように怪物へと突撃した。それは怪物が檻を破壊するのと同時であった。リーナの拳は一直線に怪物の胴体辺りへと刺さる。
「グゥォォォオオ!!」
怪物は呻き声を上げる。リーナは一旦怪物から離れると、再び攻撃態勢に入る。
「行くよー!!」
見れば分かるあからさまな攻撃。だが、それは魔人族のリーナの手に掛かれば、音速にも勝るパンチへと変化する。その攻撃を怪物は腕を払って防いだ。正確には腕を払うことによって起こった強風がリーナを押し返したのである。
「リーナ、そんなものか?俺が倒すぞ?」
「待って!!リーナの獲物なの!!」
頑固だな。リーナの実力なら一撃で仕留められる相手だ。余裕な表情のリーナの顔からも分かる通りだ。だが、それをしない。何を躊躇っているのだ。
リーナは魔法詠唱をする。声は聞こえないが、その後にリーナが3人になったのを見て、何の魔法か知る。あれは【影分身】だな。単純な魔法である。だが、自分の意思を持つ者を自分の他に2人も維持するのは大変なのだ。それをやってこなすリーナはやはり天賦の才がある。
「これで3対1だよ!」
3人のリーナが怪物を囲うようにして、怪物との距離をジリジリと詰めていった。あれはケリをつけるつもりだ。どうして、それを速くしないのか、俺には甚だ疑問である。
「この技はどうだー?」
右手に炎を浮かべる3人のリーナ。その炎は徐々に大きくなる。やがて火柱となった。異様な暑さに怪物がたじろぐが、怪物は囲まれているため、途中で止まることとなる。火柱が収まると、手に浮かぶ巨大な炎を怪物に投げ込んだ。
3つの炎は怪物の足元で巨大な渦巻きと化す。逃げられない怪物は戸惑い、苦しむばかりである。
「リーナ、時間が無いんだ。そんな雑魚にかまう時間はない。」
「うー……分かった。」
渋々といった様子でリーナは頷く。もちろん、3人とも。怪物はそれを聞いたのか、今までにない大きな声を上げる。あれはまるで雄叫びのような――――
そう考えていた俺の元へ魔力の弾丸が撃ち込まれる。その気配に前から気付いていた俺はそれを容易く躱す。実際にその弾丸を放った怪物は一瞬動きを止めた。俺はそこへ雷を落とす。
「お兄ちゃん!私が倒すって言った!!」
「リーネが速く倒さないから、怪物が俺に攻撃を仕掛けたんだろ?」
「それはそうだけど……!!」
憤慨しているが、断じて俺のせいではないだろう。だが、俺の放った落雷で体が麻痺したのか、怪物は動きを止めた。その隙にリーナは頭上に巨大な氷塊を浮かべる。炎だけじゃなく、氷もか。様々な属性の魔法を使えるようだ。その氷塊は怪物の上へと移動する。
あれ落としたら怪物は潰れるんじゃないか?そう思った俺の予想に反して、リーナは氷塊をそのまま落とさなかった。氷塊は何万もの氷の礫に。さらに酷いんじゃないか、とも思ったが、わざわざ口を出すほどでもないだろう。我関せずという態度を貫くことにする。
すぐに怪物の断末魔のような叫び声が聞こえてきた。さらにリーナが戻ってくる。先程、怪物と戦っていたとは思えない満面の笑みに俺は少し気圧される。
「よ、よくやった。」
「うん!」
何度改めたか分からないが、魔人族の戦闘意欲は底知れない。くれぐれも敵に回さないようにと思うが、もう売ってしまった喧嘩は仕方がない。あの魔人族だけは倒そう。俺は、人知れず決心するのであった。




