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名もなき勇者の英雄譚  作者: 秋色空
第一章『勇者復活編』
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第1話『目覚め』

「うっ……」


 目を覚ますと、頭の痛みに思わず声を漏らした。


「何だ……頭が痛い。寝過ぎたかな」


 寝惚けているのか、まだ思考がハッキリとしていなかった。辺りを見回して、初めて自分の置かれた状況を知る。


「……!? ここは!?」


 辺りは殺風景だった。何処かの石部屋。誘拐でもされたのだろうか、と言わんばかりに部屋も不自然で家具が無い。それどころか出口があるのか分からない。


「……やっぱり頭が痛い」


 充分に慌てる状況だが、強い頭痛に思考が奪われている。それに何か違和感がするのだ。


「ここが家じゃない……じゃあ、僕は今まで何をしていた?」


 確か眠っていなかったはず……と考えて、その違和感の正体に気づいた。記憶が混濁しているのだ。それに自分の姿をハッキリと思い出せない。


「あれ、家……? 僕はどこに住んでいたっけ……名前? 名前は……何だった?」


 そう、いわゆる記憶喪失であった。どうやら自分に関する記憶以外は朧気だが、覚えているようだ。覚えていないのは、自分の名前や住んでいた所、ここで目覚める寸前までの記憶だ。


「これは……致命傷だな。僕は自分の事を思い出せない。自分が記憶喪失であると分かるのが、せめてもの救いだな。」


 自分の姿を見て、恐らく中高生辺りだろうとあたりを付ける。服装が制服であれば、更に詳しい事が分かったのかもしれないが、過ぎてしまったことは仕方が無い。今は状況把握が大切だ。


「さて、まだ頭が痛いけど、ここから出る方法を探そう。」


 頭が痛いのは、記憶喪失の原因なのだろう、と自分に思い込ませ、それ以上は考えない事にした。ネガティブでいても、誰も救ってはくれない。


 石部屋はどこまでも無機質だが、一つ分かることはある。


「酸素があるのか……。」


 通気口があるのか、酸素が充満しているのか、ここで自分で生きている。それは列記とした事実だ。通気口があるとすれば、ここは何らかの施設内だと分かる。


 改めて部屋の中を見回し、それ以外に分かる事が無いか探すと、すぐに見つかった。


「足元を見ていなかった……これは紋章だろうか? 世界史では習った事は無い……ん? 僕は高校生なのかな。」


 世界史を習うのは高校生。どうやら自分は高校生であるようだ。意外な所で気付くことが出来た。世界史に感謝。


「さて、この紋章は何かな。」


 紋章は魔方陣というやつだ。二つの星を描き、それを二重の円で囲んでいる。その精密さには驚くが、コンパスのようなものでもあるのだろう。だが、これでもはや地球の文明では無いと証明されたようなものだろう。


「僕をここに送ったのは他でもない、この紋章だろう。ここは地球では無いのか。じゃあ、物理法則が適応しないのかもしれないな。」


 高校で学んだ勉強内容は意外と思い出せるようだ。自分の選択していた物理で習った知識を思い出してみる。


「確認しようにも確認する為の道具がここには乏しい。しかもここから出られなければ、意味の無い事だからね。」


 誰に言い聞かせているのか、独り言を漏らす。


 気紛れにコンコンと壁を叩いてみる。音の違いで壁の向こう側が空洞かどうか分かるあれだ。だが、壁が厚いのか、向こう側が無いのか、無慈悲にも音は至って均一であった。


「はぁ……ダメか。誰か来ないかな……」


 早くも諦めていた。酸素はあるが、食べ物は無い。数日ともたないだろう。動けば早死するだけである。自分の命は大切に、である。


 * * * * * * * *


「やぁ」


「ん?」


 思わぬ声掛けに目を開く。することも無い為、寝ようとして目を閉じた直後だった。目の前には一人の子供が立っていた。


「やぁ」


「それは聞いた。」


 子供はニコニコとしている。子供特有の何を考えているか分からない表情だ。それよりもこの子供がどこから入ってきたのか、石部屋を見回してみる。


 だが、前後左右上下のどこを見ても入口は存在しない。超自然の何かなのだろうか。関わらない事にする。静かに目を閉じた。


「もう、ボクが目の前にいるのに無視しなくても良いじゃないか。」


「嫌、眠いから。」


 断じて目は開かない。目を開いた負けだ。こんな子供の言いなりになるのは、何となく嫌だった。


「頑固にならないでよお兄さんー。」


「……ブチッ」


「何でわざわざ言葉にしたの?」


「自分の気持ちを伝える為だ。」


「ふーん、お兄さん、面白いね。」


 この子供は黙ってはくれないようだ。嫌々ながら目を開く。


「誰?」


「んー?ボク?それともお兄さんのこと?」


「両方。」


「お兄さんの事は誰かは知らないよ?でもボクの友達に似てるね。まあ、どうでも良いだろうけどね。」


「ああ、どうでも良い。」


 子供は絶えずニコニコと表情を笑顔のまま変化させない。その薄気味悪さに体が震える。


「次はお前。お前、誰だ?」


「んー誰だろうね。少なくとも現時点では、お兄さんとは違う存在なのは分かるよ。」


「現時点?」


「目敏いね、お兄さん」


「それは褒め言葉と思っておく。」


「いや、違うからね。」


 ニコニコしながら嫌味を言うのだから、より一層恐ろしさは増す。このまま目を瞑ってしまえば、全てが終わるのだろうか。


「それよりもお兄さん。ここがどこだか知りたくない?」


「ああ、知りたい。」


「んーお兄さん、食い付きが凄いね。焼き鳥渡したら、お兄さんの手はすぐに串だらけになりそう。」


 よく分からない喩えに眉を顰めるが、子供は気づかなかったようだ。話を続けた。


「ここは地球じゃないよ。異世界さ。そして、ここは中立国のエルドルゴ王国。その王宮地下。どうするメモでもしとく?」


「別にいい、覚えた。続きを話せ。」


「もう、せっかちだなー、まあ、いいや。この王宮に住む人達、つまり王家には古くから【召喚儀法】というものが伝わっているんだ。儀式だね。」


「僕はそれで?」


「いや?お兄さんは迷子さんだよ。時空の歪みに吸い込まれて、ここまでやって来た、迷子さん。この世界や地球でそんな事を言っても誰も信用出来ないだろうけどね。つまり、ボクとお兄さんの秘密って訳さ。」


「どうしてそこまで丁寧に教える。」


 ここで子供は一層表情が明るくなる。


「ボクが誰なのか、お兄さんは気付いているんでしょ?それなら納得してくれない?」


「ああ、気付いている。そして、僕に似ているお前の友達が何なのかも。」


 この子供の言葉の信用度はゼロに等しいが、滲み出ている存在感は否応なしに納得させられるものだ。


「あ、このオーラ的なのはボクの力の搾りかすのようなものだからね。」


 そして、思考は読まれている、か。警戒心を最大で維持しておく。この子供がなんであれ、油断してはならない存在であるのは確かだ。


「どうしたの?もっと明るくいようよ。お兄さんの表情暗いよ」


「元からだ。」


「じゃあ、お兄さんに搾りかすをあげよーっと」


 子供がそう言うと共に子供に纏わりついていた、オーラのようなものが移ってきた。同時に力が漲るのが分かる。


「どう? 搾りかすでも凄いでしょ?お兄さんの願いを三回叶えるから。」


「例えば、願いを無限に叶えられるようにしてくれ、と言ったら?」


「お兄さんの思考は子供なの?それは出来ないって分かってて言ってるでしょ?」


「無論だ。」


 一応聞いてみたが、無理なようだ。考えて使う必要がありそうだ。


「一つに複数の望みを重ねるのは可能か?」


「んー使い方次第だね。付け足すような祈り方をしなければ大丈夫だと思うよ。」


 考えて使えばいかようにも出来ると言う訳だ。これは良い事を聞いた。

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