第18話『仲間との再会』
あの2人が再登場。
僕は【転移儀法】を展開し、とある場所にいた。
「そう言えば、ずっと『僕』って言ってるけど、なんかネルロと混ざるから嫌だな。」
候補を幾つか脳内で浮かべてみる。『私』、『俺』、『我』、『朕』などなど。多く考えたらネタに走りそうだ。一応、年頃の男だし、『俺』で良いかな。
「お、俺……。」
生まれてこの方、一度も使ったことのなかったこの言葉に少し緊張する。まあ、でも慣れだろう。そう割り切ることにした。
「さて、着いたな。」
僕……改め、俺はとある小屋の前にいた。ちなみにまだ自由都市イグノラスにいる。
「おーい、誰かいるかー?」
少し声を張り上げて、中に人がいるか尋ねる。すぐに足音が聞こえた。出直す必要は無かったようだ。
「はい……。」
恐る恐る、といった様子で扉が開かれた。見覚えのある獣耳が現れた。
「メルナか。久しぶりだな。」
「この声はお兄ちゃん!」
「お、お兄ちゃん……??」
聞き覚えのない呼称に俺は内心戸惑う。
「あ、すみません……。リーナとそう話している内にお兄ちゃんの呼び方が何が良いか、という話になってそう呼ぶことにしたんです。」
「まあ、それは良いんだが……。」
「お兄ちゃん!!!」
話すメルナを押し退けるようにして飛び出してきたのはリーナだった。リーナはそのまま僕に抱きついた。
「リーナか。元気にしてたか?」
「うん!!」
声の調子から何もなかったと分かる。色々、儀法や聖法などを掛けておいたのが良かったのかもしれない。
「立ち話もなんだ。一回、中に入らせてくれ。」
「はい、どうぞ。」
中に入ると、見覚えのある机や椅子が見られる。つい最近の事だが、懐かしい思い出のようだ。
俺はメルナ、リーナと共に椅子に座る。二人の視線が俺に向いたのを確認すると、俺は話し始めた。
「二人に何もなかったようで安心した。俺の方でも色々あったが、大体が終わった。一つ二つほどやるべき事が残っているがな。」
「分かりました。それはそうと、お兄ちゃん。その姿は何ですか?」
メルナは俺の顔を見て言う。正確には俺の額から見える角を指して、そう言っているのだろう。そう言われて、まだ事情を説明していなかったなと思い出す。
「ああ、これか。魔人族になったらあった。」
「それだけですか?」
「それだけだ。」
しばし静寂に包まれる。俺はメルナからのもっと説明しろという冷たい視線をはっきりと感じ取っているが、それには応じなかった。
「あ、そう言えば二人に説明したいことがあったんだった。」
「誤魔化した。」
俺の角に指先でツンツンと触れているリーナが言った。なんか冷静だな。
「それはまた後日、じっくりと聞くことにしましょう。どうぞ話を続けてください。」
「というわけで俺は魔人族となった。勿論、本物の魔人族だ。今までの体は元々の勇者に返した。俺はようやく自分の体を手に入れたという事だ。これで俺は自由の身となった。」
二人は黙っている。恐らく二人にはこの後に来る言葉が分かっているのだろう。聡い姉妹だからな。これに関しては断言することができる。
「改めて言わせてくれ。俺についてこないか?」
俺が期待されていたであろう言葉を言うと、二人は笑った。
「何を言っているんですか? 私達は救ってもらったあの時から、お兄ちゃんについていくと決めていました。この思いは今でも変わりません。」
「それは恩返し、ということか?」
「……確かにそれもあります。ですが、私達はお兄ちゃんの男らしさに惹かれたんですよ?責任取って下さい。」
「何か誤解をされそう言い方をするのは辞めてくれ。普通で良い、普通で。」
俺がそういうと二人は笑いだした。それにつられるようにして俺も笑う。しばらく笑い続けた。
「そうと分かれば、これからの計画を話し合う必要がある。」
********
俺は計画の説明を終わらせると、一息ついた。メルナが入れてくれたお茶を飲む。東洋の国々で飲まれているというが、完全に緑茶だった。
他に転生者がいるのかもしれないな。いつか見つけ出すのもありかもしれない。
「さて、まずは計画第一弾だ。二人ともこのマントを着ろ。この都市では二人の事を知っている者がいるかもしれない。フードを深く被って、誰にも姿を見られないようにしろ。」
「分かった!!」
リーナは渡されたマントを見て、はしゃいでいる。見るのは初めてだっただろうか。
「よし二人とも着たな。外に出るぞ。ここから出れば、守ってくれるものは何もない。何かあれば、まずは自分の事を考えろ。余裕があれば、他人の事を考えろ。」
二人は頷く。俺は二人の頭に触れる。驚いたのか肩を震わせるが気にしない。【転移儀法】を使う。
転移した先は自由都市イグノラスの外壁の外側だ。つまり都市の外。今、都市から出ることは禁じられている。その原因は目の前にある。
「魔物がいっぱいいるよ!」
リーナはジャンプしながら俺に伝える。まだ肉眼では見えない。だが、魔法であればそれは可能だ。
純血の魔人族であるリーナは魔法に長けている。息をするように、とはこのような時に使う言葉なのかもしれない。メルナは獣人族との混血だが、魔法は充分に長けている。リーナには劣るものの、それを補う身体能力がメルナにはある。
「了解。魔物は全方向から来るだろうが、入り口はここだけだ。だからここを守れば良い。」
「壁を壊すことは?」
「無い。何故なら俺が今から入れないようにするからだ。」
こんな時【概念干渉】を使えば楽だが、まだ応用力が足りない。それに実力も不足している。今回はあれを使う。己の魔力と法力を混ぜる感覚で……。
「【聖魔ノ法:不可侵】」
俺が勝手に名付けたが、聖の力である法力と魔の力である魔力。その二つを掛け合わせたものだから聖魔。日本人だし、カタカナの『ノ』を入れてみた。ちょっとした出来心だから気にする必要はない。
明らかに異質な力が自由都市イグノラスの外壁を覆った。触れた者は瞬く間に消滅する呪いのようなものだ。
「メルナとリーナ、これに触らないでね。死ぬから。」
「わ、分かりました……。」
死ぬ、と言われれば自由奔放な性格のリーナも息をのむ始末だ。聞いてくれて良かった。さて、戦闘開始かな。
「こちらから仕掛ける。メルナは中から人が入らないか確認してくれ。手が足りなくなったら呼ぶ。」
「はい!」
俺は再び【聖魔ノ法】を展開する。
「【聖魔ノ法:消滅】!」
肉眼ではまだ豆粒ほどの大きさでしか見えないが、射程は関係ないから大丈夫だろう。少し数が減ったか?
聖魔ノ法は俺が旧世代と称する儀法や魔法などを軽く超える威力を誇る。機関銃が、連発できる大砲になったと考えれば分かるだろうか。同時に儀法や魔法よりも法力、魔力の消費量は少ない。
それでも何回も使えば、かなりの消費量になる。更にこの能力の特性上、法力と魔力の両方を消費することになる。考えるだけで頭が痛くなることだな。
数回【消滅】を使って、数百体の魔物を消した。だが、それでも遠くから魔物の雄叫びが聞こえてくる。キリがないな。他に効率の良い方法はないものか頭をひねる。
「お兄ちゃん!」
俺が考えつつ、攻撃を続けていると、リーナが話し掛けてきた。
「遠くから倒してるだけじゃ、面白くないから向こうに行ってくる!!!」
リーナが地面を強く蹴ると、一気に見えなくなった。さすが、魔人族。魔力で補助しているだろうが、それでも元の身体能力の高さがあってのことだろう。メルナは……考えるだけでも恐ろしいな。
遠くで何かが墜落した音がする。十中八九、リーナだろう。どうしようもない仲間ができたものだ。俺も加勢しに行くとしよう。
「メルナ、ここは頼むぞ。」
「了解です、お兄ちゃん!」
メルナは微笑んだ。俺も笑う。【韋駄天儀法】を展開する。やっと俺の本気が出せそうだ。
近い未来を考えて俺はワクワクしていた。こんな感情は初めてかもしれない。魔人族だからだろうか。溢れ出る強い高揚感を必死に抑え込む。まだ俺は飲まれるつもりはない。体は魔人族になろうとも、心は人間のままでありたい。いつかそうでなくなったとしても。
俺は駆け出した。
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