第17話『僕と僕』
投稿が予定よりだいぶ遅れてしまいました(^^;
僕は自分に『ベリアル』という名を付けた。
ベリアルとは様々な書籍に登場する高名な悪魔。
序列68番の強大な王で、悪魔の位階では第3位階の君主。ルシファー、レヴィアタン、サタンと並んで4人の上位君主として名を挙げた。
堕天使。まさに勇者より堕ちたこの身には相応しい名前だろう。
「まさか自虐とは、な。」
この身体を手に入れて早々、この身を呪うような発言をする、自分に驚いた。まさか気掛かりでもあるのか……?
僕自身に浮かぶ漠然とした感情の矛盾は、消えること無く漂い続けた。
「まあ、良いさ。」
マフラーを揺らしながら、僕は元の部屋に戻った。まだ、ネルロは寝ているようだ。僕もこいつにはもう用はない。
「どうしたものか。魔物の王都進行もあるってのに。」
一人、愚痴を吐いていると、呻く声が聞こえた。どうやら起きたようだ。
「おはよう、もう一人の僕。」
手を差し伸べる。ネルロは意識がはっきりしないのか、辺りを見回していた。だが、僕を見ると同時に目を見開いた。
「まさか……!!」
僕の手を振り払うと同時に剣を抜く。おっと、用心の為に持ってきたのが、不幸したかな。
ネルロは流血の多さに舌打ちをする。
「【再生聖法】。」
斬られた横腹は再生するが、流れ出た血は戻らない。意識の朧気なまま、ネルロは剣を構える。
「【韋駄天儀法】。」
急いでケリをつけるつもりか。それはこっちとしても好都合だ。僕も構える。但し、剣など抜かない。
「僕も舐められたものだな。」
ネルロの姿が消える。僕は後方から来ると予想し、振り向くが、そこには誰もいない。
「前、だ!」
剣が一閃する。斬撃によって風が巻き起こる。
「剣の腕は衰えていないのか。少し残念だな。もっと弱いかと思っていた。」
そう呟く僕の手には、ネルロの剣先が握られていた。血は出ていない。完全に威力を押し殺したのだ。
「お前は何なんだ。僕の中にいた時のお前とは違うな!」
「ご名答。さすが、勇者サマ。皆に望まれている勇者サマは違うね~」
「僕を舐めるな!」
剣先を掴まれた状態でネルロは一瞬剣を手放し、回し蹴りをする。
「ふわぁぁぁ。」
突然、欠伸をするように僕は口を開けると、そこから強風が巻き起こる。その風にネルロの足は押し戻された。
「無詠唱の……なんだ、今の技は!?儀法でも聖法でもない!魔法でも……!」
ネルロの挙げた技にはどれも魔方陣が必要となる。だが、僕は魔方陣など必要ない。
「新世代の能力だよ。」
僕の願った誰にも負けない力は『独創力』へと姿を変えて、僕のものとなった。だが、この力はそれ以前から習得していたものだ。
「新世代だと?笑わせるな。」
落ちた剣を広いながら、ネルロは一笑する。
「どうだかな。それは味わって見ると分かるんじゃないか?ほら、後ろだ。」
ネルロの後方の壁から高速展開された炎の渦が襲い掛かる。既のところで反応したネルロは後方に飛ぶ。
「はい、後ろがお留守!」
その背中をネルロのように回し蹴りする。再びネルロに炎の渦が襲い掛かった。
「【防御儀法】!」
だが、儀法では僕の攻撃は止められない。ネルロは努力も虚しく、炎の渦に飲み込まれた。
「ぐわぁああ!熱い!」
炎の温度は80℃ぐらいだろうか。全身火傷ぐらいで済むと良いな。その光景をのんびり眺める。
もう数分ならば大丈夫だろう。あくまでも傍観に徹していたが、守りを捨てた訳では無い。突然、僕に飛んできた斬撃を躱す。
「ほう、まだ動けるか。……それに飛ぶ斬撃とは。」
炎の渦が消えると同時に魔方陣が現れ、ネルロを包み込む。【再生聖法】か。ようやく本気のようだ。
「……来る」
いよいよ悪役が板に付いてきたか。そんなことを考えながら、次々と襲い掛かる斬撃をいなす。
「はぁああああ!」
ネルロの剣はかつての技を思い出すかのように、徐々にその剣速を速めていく。
「息も、絶え絶えだが、いつまで、持つかな。」
剣を躱しつつ、途切れ途切れに言葉を発する。
「うるさい!まだ本気は出てないぞ!」
威勢が良いだけのようにも聞こえるが、それは本当だろう。まだ、ネルロの本気、最上位の【神理】は使っていない。
相手の攻撃の手を止めるためにもう一度、炎の渦を展開しようと腕を掲げる。
「【聖域】」
だが、それが発動されることは無かった。
「もう本気か?」
落ち着いたように見せているが、ネルロの本気である【神理】がどれほどのものかはっきりしてない状態だ。内心、焦っている。
「僕の【神理】をよく知らないのにそんな口が叩けるとは、さすがだな。」
やはり気付かれていたか。もう一人の僕に対して、侮り過ぎていたと少し反省をする。
「この聖域の中では魔法の類いは使えない。僕の勝ちだ。」
「いや、それについては簡単な事だ。【干渉:削除】。」
僕がそう唱えると、ネルロの展開した【聖域】は消えた。
「どうして、僕の【神理】に干渉できる。」
「生憎と僕の能力の一つでね。【概念干渉】って言うのがあるんだ。」
これは僕の『独創力』で出来た能力の一つだ。あらゆる能力に干渉し、変更をすることが出来る。
まあ、今のところ消すことしか出来ない上に、万全な状態で一日三回しか使えない最終兵器のようなものだ。
そんなことは露も知らないネルロは焦っていた。
「そんな常識破りがあっていいのか……!」
いや、それお前が言うか。【神理】も充分に反則だからな。
「……【聖槍】!!」
一度見た事のある技だな。軽く躱す。やはり焦っているようだ。
攻撃をするとき、敵に視線で攻撃箇所を悟られないように見ないようにする。だが、今のネルロにはそれができていない。当たり前と言えば当たり前の動作。それすらこなせていないネルロなど敵にもならない。
「終わり、だな。」
使用回数に制限のある【概念干渉】をわざわざ使った甲斐があったようだ。僕と意識を共有していた時は、威張っていたが、実際は弱いのか?
予想外の弱さに呆れてしまう。
「再び僕の炎の渦に飲み込まれろ。」
跪くネルロに手を翳す。次の瞬間、高速展開された炎の渦がネルロを覆った。
ネルロの姿はもう見えないが、生きていたとしてもしばらくは戦うことができないだろう。残念だが、王都は終わったようだ。
「さて、僕は行くとするか。」
踵を返す。そして無詠唱で【転移儀法】を展開する。足元に魔方陣が描かれると同時に僕の姿は消える。
誰もいなくなった部屋で、呻く声が静かに響く。古びた小屋の天窓から差し込む光は、ネルロを照らす光ではない。ただ、無慈悲に、部屋を明るく照らすのみだった。
「くそっ!くそっ!」
ネルロは拳を床に何度も打ち付ける。ドンッ、ドンッと音が響くたびに軋む音が聞こえる。勇者の力に古びた小屋は耐えられない。しばらくして、小屋は崩れ始めた。
「僕は弱くない!はず!だ!」
ネルロは戦っていて、全く身体がなまっているようには感じなかった。未知の能力はあったものの、それ以外はただの実力である。あれほどまでに強くなった理由をネルロは知りたかった。
「神よ、僕は間違っているのですか?」
だが、神は応えない。勇者は神から愛され、力を与えられた者だが、その者に対して神はそれ以上の事をしない。所詮は下の世界の争い。それが宗教戦争であれ、人の起こす争いには神は関係しない。よって神の干渉はない。
────と、普段ならば考えるだろう。神々もそう判断するはずだった。一柱の神を除いては。
その神はしばしばネルロと姿形が同じ、一人の人間に祝福を与える小さな神の事を憎く思っていた。どうにかして、その神をやりこめたい。そこで考えた。同じように祝福を与えれば良いのだ。
『勇者ネルロよ────。』
突然、ネルロの頭に声が響いた。
「あっ、神様……ですか?」
『汝の勇ましき行いに仇をなす存在がいるのであろう?』
ネルロの質問に答えが返ってくることは無い。いつもそうだ。常に一方的に神託を告げられるのだ。
「はい……。」
『その者に対抗する、いや、その者を滅する力を汝に与えよう。瞼を閉じよ。』
神託の通り、復讐に心焦がされながら、ネルロは瞼を閉じた。
「くはっ……!」
眼に強い痛みが走る。頬に温かい何かが伝う。それでもネルロは瞼を開かなかった。
『瞼を開けよ。それは全てを見通す【ネムロヴィアの千里眼】だ。使い方次第で何にでもなる。全ては汝の今後の行いによる。その力で憎き者を滅するのだ。』
「ありがとう……ございます。」
ネルロは部屋の隅にあった水溜まりで自分の姿を見る。左目が元の緑眼で右目が蒼眼だった。
「これで……あいつを!」
崩れかけていた小屋は完全に壊れてしまった。ここに掛けられた隠蔽も解かれたことだろう。直に人が来る。早く立ち去ろう。ネルロの荒れていた心は自然と落ち着いていた。【転移儀法】を展開する。
この時、後世で語り継がれることになる、とある勇者と魔人の戦いが始まるのだった────
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