第13話『決着』
「ふんっ、まぐれで何をほざく」
「お前は勝利を確信した筈だ……だが、僕は無傷。これが意味する事は一つ。簡単だ。お前は弱い。」
僕は事実を突きつける。手加減などするつもりは無い。薄々気付いているのだ。先程までにここで誰かが魔法に焼かれた、と。
「戯言を……!!」
一層激しく掌で魔力が弾ける。男は隙を伺っているようだった。だが、それは逆に男が隙を生む結果となっている。無詠唱で男の足元に魔方陣を展開、発動させる。
「……儀法か!」
男は魔方陣から離れようとする。だが、そこに仕掛けられたのは【捕縛儀法】。足の動きを封じられた男は舌打ちをする。
更に僕は魔方陣を上書き、【爆発儀法】を展開する。男の心臓を中心として、小規模な爆発を起こす。辺りに煙が立ち、男の様子は分からない。
「……まだだ!まだだ!」
どうやらまだ倒れていないらしい。更に儀法を上書き……いや、ここは聖法で決着をつけるべきか。一瞬の迷いが相手に攻撃の隙を与える。
「【雷電】!」
男の魔力は先程よりも強い力で僕に襲い掛かる。それを手で払う。
「小賢しい……」
「何故、効かない!」
僕は次々と儀法を展開する。男は何度も【捕縛儀法】に足を取られ、【爆発儀法】をまともに受ける。身体に火傷が見える。
「手加減してるのか?」
「どうして本気を出す必要がある。」
男が必死に発動してくる魔法を次々と法力を纏った腕で振り払う。
いくら貧民街と言えど、規模が大きくなればすぐに警備隊が駆け付けてくるだろう。僕も男も威力は抑えているが、その為に一向に決着がつかない。
「面倒だ……こんな町など!」
男を取り巻くように膨大な魔力が凝縮されていく。大規模な魔法を発動する気だ。これではこの町どころか、王都にまで被害が出るだろう。流石にそれは勘弁だ。
「……」
「どうした!どうした!防がないのか!」
巨大な魔方陣がこの建物自体を囲むように生成されている。恐らくこの建物には被害が無いのだ。目的は僕ではなく……
「お前こそ、僕を狙え。関係の無い民に被害を与えるな。」
「ふんっ、では止めるのだな!」
やはり聞く耳を持たないか。では、僕も精一杯抵抗させてもらおう。
「……今更、何をしようとも遅い!【崩壊】!」
一瞬、世界に静寂が訪れる。まるで音が無くなったかのように。だが、それは違う。本当はこの魔法から発動されるノイズがとても大きいため、全ての音をかき消すのだ。そして、この建物以外が崩壊を始める。
「感じないか?各地で崩壊が始まっているのだ。終わりだ。私を怒らせたのが、全ての元凶だったのだ。つまり、お前は世界を滅ぼした。」
暴論だな。僕は苦笑する。
「何がおかしい!」
「そう怒るな。今、世界に崩壊など訪れない。机上の空論だ。外を見れば良い。何も起こっていないだろう?」
半信半疑の様子で男は窓を開け、外を見る。夕暮れ、何も起こっていなかった。たちまち男の顔は赤くなる。
「どうした顔が赤いぞー? 外に好きな人でもいたか?」
笑いながら僕も外を見る。勿論、そこには誰もいない。男は激怒している。顔は既にトマトのように真っ赤になっている。
「私の……私の魔法はどこに行った。」
「うーん……どこだろうね。多分、もう少ししたら分かると思う。」
「……何を言っているのだ?」
男は首を傾げる。言われただけでは分からないだろう。であれば実際に試してもらうまでだ。
「【凍結儀法】。」
男の足が凍る。魔法で溶かそうとするが、氷は全く溶けない。
「無駄だよ。これはかなり強い儀法だ。対象を完全に凍結させるまで氷は絶対に溶けない。君の魔力を再利用させてもらったんだ。」
「魔力を再利用……だと?お前は何者だ。どうして人間の身で魔法が使える。」
「どうして……理由なんて必要かい?君はここで終わりだ。教える義理は無いね。」
男の膝元まで完全に凍っている。既に男は為す術もなく、ただただ自分を凍らせる氷を見ていた。
「抵抗しないのかい?」
「抵抗しても無駄なのだろう?」
「ああ、無駄だ。普通の魔法ならね。」
「普通の魔法……??」
男は僕が何を言っているのか理解するのに時間を要した。そして理解する。
「…………どうしてお前は魔法の知識を持っているのだ。」
「知人から聞いてね。」
「嘘をつくな。魔族、魔人族は魔法についての情報を他種族に明かす事を一切禁止している。言葉自体に強い呪いが掛かって、バラした者に待つのは死のみだ。」
「まあ、良いじゃないか。」
魔法には幾つかの等級が存在している。だが、それを大きく分けた時、普通の魔法、と強力な魔法と分ける事も出来る。僕はそれを言ったのだ。まさか人間の僕からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。
「助言をくれるとは思わなかったな。」
次の瞬間、男を包んでいた氷は消え去った。辺りに氷の欠片が舞い、幻想的な風景を作り出す。
「キレイだな。お前の死に場には丁度良い。」
「まだ舐めた口を。私を倒せるとでも。あの時、殺しておけば良かったと後悔するのはお前だ。」
「それはどうかな。君の足元の魔方陣は消えてないよ。」
男は下を見る。そこには鮮やかな青色の魔方陣が残っていた。男は飛び退くが、空中で何かにぶつかり、魔方陣から出られない。
「何だ、これは。」
よく目をこらすと何かが見えるのがわかる。あれは僕の法力だ。それを具現化させ、透明なまま男の周りを囲んでいた。言わば、見えない壁だ。かなり体力を消費するが、その分だけ能力としては優秀だと言える。
「質問する前に逃げたらどう?」
男は拳に魔力を纏って、法力の壁を殴る。何度も何度も。だが、法力が削れている様子はない。男を囲む法力の壁は時間を掛けて凝縮させた密度の高いものだ。そう簡単には破れない。
「恐るべき強度だ。だが、お前はこれを維持しつつ、攻撃が可能なのか?」
「勿論、不可能だ。」
「……では、意味がな────「ただし。」……何だ?」
男の言葉を途中で遮る。わざわざ聞くまでもない。それより忠告をするとしよう。
「僕が攻撃が不可能なのは、これを維持したまま、新たに儀法を発動させる事だ。だが、壁を維持する前は関係ない。後は分かるだろ────?」
「くそっ!」
もう何度目か分からないが、男の足元が光る。既に構築済みの儀法は発動するのが今か今かと待っている。
「これが本気だ。【爆発儀法】。」
敢えて同じ魔法で仕留める。手加減少なめの【爆発儀法】だ。さすがに本気を出せば、街が危険な事に成りかけないので自制している。
「さらばだ、魔人族。」
魔人族の男は建物と共に爆発した。僕は既に【転移儀法】で建物から遠く離れた場所にいる。場所は古びた小屋。あの姉妹の家だ。
「あ……!」
「リーナ、か。誰も来なかったな。」
「は、はい。お姉ちゃんも私もだいじょーぶだよ。」
僕は家の中に入り、メルナの姿も確認する。すっかり元気のようだ。だが、一応体調を聞いておく。
「メルナ、体調はどうだ?」
「完全に治っています。……ありがとうございます。」
すると姉妹は何か思いつめているような顔をする。
「ん?どうした?」
「救ってもらったのに私達に出来ることはありません……。」
「良いよ。別に何かをしてもらおうと思ってした事じゃない。元気になったならそれで充分だ。」
「ですが……。」
何かをお返しをしないと気が済まないのか。律儀な姉だ。どうしたものか……。僕は考えるが良い案は出ない。
「……あっ、そう言えば、これから二人はどうするんだ?」
話が続かないので、違う事を尋ねる。二人揃って気まずい顔をする。良い事を思いついた。
「ここにいたって何にもならないだろう。────僕についてこないか?」
二人は僕を見る。顔色を伺うようにして聞く。
「……本当ですか?」
これだけの事があったのだ。疑心暗鬼になっても仕方ない。僕は頷く。
「本当だ。」
すると二人の顔は輝いていく。感情が分かりやすいな。まあ、それはそれで良いところだとは思うが。
「────だが、今からは無理だ。数日待ってくれ。それまでに全てを終えて、ここに戻ってこよう。それからの事はそこで考える。良いな?」
「「はい!」」
僕は【転移儀法】で街を去ろうとする────その前に一つ。
「ああ、思い出した。敬語は無しだ。心休まらないだろう?普通に話してくれて構わない。じゃあな。」
軽く手を振ると【転移儀法】で街を去った。次に来る日はすぐに訪れるだろう。
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