トモダチ
「こ、ここまで酷いとは思っとらんかったわ」
「トウシくん、高校野球も詳しいんじゃなかったでしたっけ? 確か、高校野球だけでも数千試合分のデータを解析したとか言っていましたよね。それなのに、アカコーの事情知らなかったんですか?」
「ワシが研究したんは甲子園の試合や。出場すらまともに出来てないクソ高校の内情なんか知るか、ボケ」
「ぴよぴよ(そりゃそうよね)」
三人は、部室に向かいながら、
「とにかく、あと三人みつける。一日に二時間立っとるだけのカカシでええんやから、誰でもええ。ツカム、お前、コミュ力高いんやから、三人くらい引っ張ってこられるやろ」
「三人といわず、六人くらいは引っ張っれますよ。運動能力高くてヒマしている友人が全部で十人くらいいますから」
「ぴよぴよ(すごいわね。中学時代の友人が三人しかいなかった私とは比較にならないわ)」
「ホウマさん、すごく美人なのに、友達三人しかいなかったのですか? 意外ですね。かわいい女子は、友達が、最低千人はいるものだとばかり思っていました」
「どんな偏見やねん。つーか、マシなツラしとるのに、友達が少ないヤツなんてザラにおるやろ。ウチのクラスにも一人おるやないか」
「ああ、『暁 樹理亜』ですか。確かに彼女、超絶美人なのに、誰とも話していませんね」
「ワシ、あいつと同じ中学なんやけど、中学の時も、ずっとあのまんまやったで」
「もったいないですね。あの容姿があれば、楽勝で女子の一軍一位になれるのですが」
「ぴよぴよ(ちなみに、トウシくんは? 中学時代の交友関係はどんな感じだったの?)」
「クラスでの現状から鑑みるに、相当少なかったのでは?」
「少ないどころやない。ひとりもおらんかった」
「幼稚園のころから一人もいないのですか?」
「あたりまえやろ」
「欠片も当たり前な事象ではないと思いますが……しかし、逆に、すごいですね」
「まぁの。ワシはハンパやないからな」
「ぴよぴよ(なんで本当に誇らしげなのよ)」
「つか、ホウマ。お前、ほんま大丈夫か? ワシらはテレパシーで分かるけど、他の連中は、お前が何言うてるか全然わからへんやろ。常時白目剥いとるし、肌なんか、まだらやし。親とか心配してへんのか?」
「ぴよぴよ(心配はしているけれど、キャラ作りで通したから支障はないわ)」
「いや、支障あるやろ。もし、自分の娘が、いきなり、キャラ作りで肌の色をまだらに変えて、白目でぴよぴよアヘりだしたら、ワシたぶん、発狂するで。というか、単純に、意思疎通はどうしてんねん」
「がん……ばれば……言葉も…しゃべ……れる」
「ホウマさん、ほんとうに大変ですね」
「マジで気の毒や。かわいそうやわぁ」
「ぴよぴよ(そんなことはどうでもいいわ。それより、トウシくん)」
「どうでもようないやろ」
「ぴよぴよ(数合わせはツカムくんに任せるとして、部活にはいつ顔を出すの?)」
「とりあえず、明日、金曜やから、顔出してシメるつもりや。二・三年がゴチャゴチャ言いよったら、時速200キロぐらいの球で足元えぐったるわ」
「200キロは、秩序的に、投げちゃダメなんじゃなかったですか?」
「足元に叩きつけるだけやったら、地肩の強いヤツくらいにしか思わへんわ」
「ぴよぴよ(というか、そもそもの話として、シメる必要がないと思うのだけれど)」
「ワシらは、一致団結して、豪快な茶番かまさなあかんねんから、最初にガツンと力関係を把握させとかな、色々としんどいねん」
「一致団結して茶番をかますって、なんか、面白い表現ですね。ウケます」
「ぴよぴよ(まあ、魔人が高校生相手に野球やるなんて、メジャーリーガーが園児を相手にするより、状況的には酷いわけだから、茶番と言ってもなんら過言ではないわけだけれどね)」
「確か、僕らの力は、例えると、百メートル走で一秒切る級でしたっけ。だとすると、確かに、高校生なんて話になりませんね……ん? あ」
「どないしたん?」
「幸運の女神さまを発見しました。幸先はよさそうです」
「幸運の女神?」
「あそこです。あの女子」
指をさす方を見てみると、長身の女生徒が肩で風を切って歩いていた。
「『古宮 麗華』。彼女、ウチの中学でアイドルだったんですよ。ファンクラブとかありましてね。アホみたいにモテまくっていて、確か、中学の段階で、キープが十六人いたそうです」
「バブル期かっ。キープ16人って、そんなもん、アホが流した、ただの噂やろ?」
「いえ。自分で言っていたので、事実だと思いますよ。見栄を張っているというより、自信満々という感じだったので、ウソではないと思います。ぼく、目の前の人間が、マジで言っているか、見栄を張っているだけか、見極めるの得意なので、確信を持っていえます」
「……ほな、あいつ、マジで16股しとった言うんか。しんどいな、おい。てか、そういう話聞いたら、ワシ、すごい気分悪なるから、言うな、ボケ」
「トウシくんって、変に純情ですよね」