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第6話:修道士リリー

 ミドガルズオルムに隣接して立つ、白亜の巨大建造物。闇夜の中にあってなお白く浮かび上がるそれこそ、〈サクロ教団〉総本山、白教聖堂サクロ・ビアンカである。

 その正門の前に、一人の青年が姿を現した。門の左右に掲げられた魔力光により、青年の影が払われる。

 茶髪茶眼のその男は、ミラン・バーシュ、否、マーク・バスターであった。

 入り口の両端には、(じょう)を持った修道士が一人ずつ立っており、彼が近づくと杖を交差させて行く手を(さえぎ)った。

「止まれ。何者か」

 向かって右側、マークよりやや年下に見える若者が誰何(すいか)してきた。青年が答える。

「マーク・バスター。勇者様ご一行に加わったしがない魔導具屋さ。勇者のことでちと気になることがあってな。リリーといったか? 彼女に用向きだ」

「あいにくだが、リリー様は司教様と面会中だ。後日改めてお越し願いたい」

「リリー様? あれってそんなお偉いさんなのか? あぁ、個人的な崇拝か? ハハッ、青いねぇ」

「なっ、青いとか関係ねぇよ!! とにかく、白黒はっきりしない野郎は通すなってお達しだ!!」

「白黒ならはっきりしてんだろ? リリーの、勇者様のお仲間だぜ、俺は」

「そうは言っても、どこの馬の骨か分からん民草だろ」

「ん……そうか、俺はもうそんな陰口叩かれてんのか」

「分かったらさっさと退け。でないとその息の根止めてやるぞ」

「へぇ、俺を闇に葬ろうってのか?」

 不敵な笑みを浮かべ、己の魔力を体外に放出していくマーク。それを肌で感じ取り、動きを見せたのは、問答していた若いのとは逆に位置する中年の修道士だった。

「お客人、そこまでにしてもらおう。これ以上は、こちらもそれなりの対応をせねばならなくなる」

「大丈夫、大丈夫。今日はこれ以上の面倒は起こさない。いや、起きてない。だろう?」

 そう言ってマークは、中年修道士の方に目を向ける。間髪入れず、目の幻影を解除した。

「ッ、その目は――」

「そう珍しいものでもないだろう? そう、この色だって珍しくはない。知り合いに一人くらいいるだろう?」

「……そう……だな……?」

 マークが仕掛けた『月光妖眼(ルナティック・アイ)』によって動揺する修道士。その(すき)につけ込み、あらかじめ拡げておいた魔力をもって精神に干渉していく。

「そうだ。だからこの目を見たからって何かあるわけじゃない。何もない。そうさ、何もないんだよ。今夜もそうさ。今日は何も起きてない。何も起きてないんだよ」

「何も、起きてない。今日は何も起きてない」

 修道士の意識を書き()えたマークは、魔力を戻して目の幻影をかけ直す。そうしてもう一人の、若い修道士に目を向ける。

「【蒲公英(ダンデライオン)】ダンっす」

「【蜃気楼(ミラージュ)】ミラン。まさかここで草に会うとは思わなかったな」

「若さって武器の賜物(たまもの)っすね。このおっさんならオレが面倒見るっす……どうぞ」

 ダンが中年修道士の服を脱がし、マークへと差し出す。軽く頭を下げると、マークはそれを受け取って奥へと入っていった。




 修道服に着替えたマークは、落ち着いた歩調でゆっくりと廊下を歩く。白と赤と金に(いろど)られた屋内の端々(はしばし)に目を走らせつつ、情報を集めながらリリーの行方を探る。

 集会室にいると断定できたマークは、さりげなく、目立たぬように進んでいく。そうして集会室前まで来ると、マークは端の影になっているに佇んだ。

 人としての気配は霧消させ、壁の石と同化させる。同時に魔力を集中させ、聴覚を強化して室内の音を聞き取ろうと耳をすませた。

「……ええ、そうです。最終的には勇者の決定により、魔導具屋の青年と名乗る者が仲間になりました」

 どうやら話題は自分のことらしい。マークは耳に集中する。

「魔導具屋の男か。ふむ、予想外だが、表向き勇者に主導権を持たせた以上、その決定を否定もできなんだか」

(おっしゃ)るとおりです」

「まぁよい。それで、どうする?」

「ひとまずは余計な事にならないよう、洗脳を済ませておきたいところです。ある程度泳がせて、利用できるならそれでも良し。でなければご退場いただくのみ」

「可能か?」

「えぇ、もちろん。私の『眼』はそのためにあるようなものですから」

「抜かるなよ。マリー、ジュリアと成功したとて、三度目の保証などあるはずもないのだからな」

「承知しております……」

 おおよその情報を仕入れたところで、マークは感覚を元に戻した。そのまま端を(つた)うように、静かに廊下を進んでいく。

(なるほど、黒幕側か。しかも『眼』とは、ねぇ。これは……大博打(おおばくち)だな)

 一つ息をつくと、出口の扉をそっと開ける。ダンと暗黙の視線を交わすと、マークは街中へと(まぎ)れていった。

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