#46 マップ兵器は早めに潰せ
ごうごうと風を受けて地面は移動し続けている。
視界が晴れるよりも早く、俺は魔法で辺りを探った。
チャフの影響で感度は平時の何分の1にまで落ちている。それでも分かるのは、着弾したメテオストライクが……着弾寸前に『天罰』で破壊されたメテオストライクが、それでも甚大な被害を与えたこと。
レーダーをはじめとした機器のいくつかは破壊され、着弾点付近にいた人々は吹き飛ばされている。生きている? それとも……
「ハッハア! 無茶苦茶しやがる」
散乱する瓦礫の中で拳を突き上げる男一匹。
自分にも破片が命中しかけたのに、ムラマサはそいつを斬り飛ばしていたようだ。なんたる非常識。
「カジロ様……」
「止めるな! 足が止まったら向こうの思うつぼだ」
ものすごく俺を助けに入りたそうだった榊さんを制止する。
この巨大魔法動力ベルトコンベアを列車に例えるなら、榊さんが居る場所は戦闘運転席、俺とムラマサがやりあってるのは1両目だ。チャフの圏外に出ている榊さんには移動を続けてもらわなきゃならない。
移動する地面が支流のように分かれ、メテオ着弾で移動圏外に飛ばされてしまった人々を回収する。ナイス榊さん。
「アンヘル、今の攻撃は!」
『10km圏外からの攻撃ですが、飛翔の起動から発射点を割り出しました。『千里眼』による閲覧のご裁可を』
脳内で言葉に出す間も惜しんで了承の意志のみを伝えると、ホログラフ画面が俺の視界左下に別窓表示の如く出現。
浮遊するスクーターに乗っていた、謎レインコートのふたりだ。
レーザーを無効化する外套……
『攻撃の規模からして、少なくとも片方が魔人と推測』
「くそっ!」
Zap! Zap! Zap!
ダメ元でブチこんだ『天罰』レーザーはあっさりと弾かれ、画面の中に居る男をビビらせただけに終わった。
「何よそ見してやがる!」
「つあっ!」
キィン!
ムラマサの次の一撃を、俺は辛うじて受け止めた。
……まずいぞ、これはまずい。
祭司の一族はことごとく魔術師で、いくら訓練を積んでてもサイバネ強化兵の相手は無理だ。それがチャフで無力化されて、さらに魔法の範囲外からは強力な砲撃がビシバシ……
ん?
ちょっと待て、なんでさっきのメテオ攻撃は10km圏外から飛んできたんだ?
魔術師はどれだけ実力があったとしてもシステム上、10km圏内のナノマシンにしか命令を出せない。もちろんほとんどの場合、捜査範囲は実力的な問題で10kmにすら届かないんだけどさ。
『魔術によって投射された後、コントロールを切ったものと推測』
俺の思考に、アンヘルが勝手に答えた。
言われてみればなるほどって感じだ。狙いを付けてブン投げるまでできれば、そこから先は圏外に出ても問題ない。射程10km超の弾道メテオでそれをやるのはクレイジーな話だが……
だがその話を聞いて俺は閃いた。
つまりだ。ナノマシンの限界が魔術の限界じゃあないんだ。
例えば今だって、対ナノマシンチャフが撒き散らされているのに、魔法が打ち消されている部分を引きずるようにして動く魔歩道は進んでいる。
つまり、俺にも同じ事ができる!
「んおっ!?」
俺の魔晶石が光った瞬間、ムラマサは驚いた声を上げた。
足を地中から蹴り上げられたからだ。
正確には蹴り上げたわけじゃない。
榊さんの得意技のまねっこ、土の槍! 命令の発信元である俺がチャフの中でも、命令を受け取るナノマシンが地中ならまだマシだ。
地面から突き出した石と土の槍がドリルのように回転しながらムラマサの足を押し上げ、火花を散らす!
てゆーかブチ抜く気だったんだけど、これあいつの靴とあいつの足とどっちが凄いんだ!?
「フン!」
ムラマサは体操選手のように後転し槍の攻撃を脱する。
そこに槍! さらに槍!
僅かな隙を、俺は会話に使った。ムラマサとじゃない、周囲とだ。
「次にまたメテオ来るとして、魔術で防御できるか!?」
「あらかじめ備えれば!」
なんとか今の攻撃を逃れたらしい族長が応え、それ以上は俺の言葉を待たず指揮を執り始めた。
さっきの攻撃を免れた者達が、ギリギリ地面が流れる縁の辺りに集まって精神を集中。魔法を使う体勢を取る。チャフの効果も届かない位置だ。
よし、と思った瞬間には槍が途絶えた隙を狙いムラマサが迫る。
「うおっと!」
一撃で30人くらい首チョンパできそうな一閃!
俺は身を沈めてそれを躱し、さらにブレイクダンスのように足を刈り飛ばす回転蹴りを放った。
よくて骨折、悪くすれば足が吹き飛ぶ猛烈なキック!
だがムラマサは縄跳びのようにそれを軽く跳ねて躱すと、着地の勢いをのせて俺を串刺しにせんと刀を突き下ろす!
「させるか!」
ガギン!
俺の目の前で火花が散った。
俺の体の両脇から土の槍が飛び出してクロス。突き下ろす刀を受け止めたのだ。
「ちっ!」
もはや鈍器と言えるプロテクター付きコンバットブーツで俺を蹴りつけるムラマサ。顔面狙いのそれを腕で防御した俺は、蹴飛ばされた勢いで吹き飛んで受身、そして立ち上がった。
『警告! 次弾飛来!』
そこでアンヘルの声が俺の頭の中に鳴り響く!
ふと空を見れば大仏級の岩塊が炎を纏って飛来。
迎撃陣形を組んだ一族の皆さんの魔晶石が一斉に光った。
ガゴン!
空中で嫌な音を立て、燃えさかるメテオは一瞬停止。
やったか? ……いや、やってねぇ。
止まったかと思いきや、スピードを緩めつつも岩塊はこちらへ迫る。着弾まではコンマ数秒。
「天罰!」
即断! 俺は天罰レーザーを放ち岩塊を打ち砕く。破片は連携魔法の力によって押し返された。
それはほんの一瞬。俺がメテオ攻撃を見て、天罰レーザーを撃とうと思考し、命令を下す。それだけの隙とも言えない隙。だがそれはムラマサにとって十分すぎた。
肉薄、そして冗談みたいな速度で振るわれる刀。
速度と体重を乗せた必殺の一撃。避け……られない!
「くそっ!」
俺は持っていた剣を左腕に重ねて盾にした。
勢いを付けて迫る刃は剣と火花を散らし、遂に叩き折る!
さらに俺の左腕を! 肉を裂き、血管を引きちぎり、骨を叩き切り……!
「……っらあ畜生!」
俺は吠えた。
剣と腕一本を切ることでわずかに動きを鈍らせた剣を、俺は辛うじて回避。髪が何本か斬り飛ばされた。
さらに斬り飛ばされて宙に浮いた左腕を右腕でキャッチしつつ身を躍らせ、一回転ひねりでムラマサの背後に着地したその時には斬られた腕を傷口に叩き付けている。ナノマシンが活動開始し、接合!
そこまで行ってからようやく痛みが頭に届いた。繋がったばかりの左腕でムラマサを掴み、超適当な柔道で地面に叩き付ける。
「ぐっ!」
バウンドしたムラマサは後転してすぐに立ち上がる。いくらかはダメージが入ったようだが、まだ余裕か。
ギリギリの悪い均衡だ。榊さんは移動の操作で手が離せない。一族の皆さんはムラマサに太刀打ちできず、メテオの防御も俺の手助けが必要。そして俺はムラマサ相手にかなりの無茶をしてようやく耐えている……次のメテオが来たらその時俺はどうなる?
だが悠長に考えている暇は無い。武器を失った俺はムラマサに組み付き、刀の間合いの内に飛び込むことで不利を相殺した。
息がかかる距離にムラマサの顔がある。獰猛な形相であり、同時に嬉々としていた。
楽しいのか? 楽しいんだ。殺すことが楽しいんじゃない、俺が食らいついてくるのが楽しいんだ。
コンチクショー、こちとら自分の命も味方の命もかかって必死だってのに。
「カジロ様。我ら一部隊、魔人の排除に向かいましょう」
俺はお互いを掴もうと手を出しては払いのける攻防を続けつつ、声を聞く。隙あらば刀を振るおうとするムラマサを、断続的に突き出す土の槍で俺は牽制する。
名乗り出たのは10人ちょいの皆さん。この切迫した状況を打破せねばならないと、顔つきは必死だ。
打開の一手は必要だ。このままではジリ貧どころか、いつどこで均衡を破られてもおかしくない。
相手がサイバネ強化兵ならどうしようも無いが、同じ魔術師である魔人なら対抗もできるはず……
ムラマサの相手をしつつ悠長に考えている余裕は無い! 俺は賭けた。
「神様命令だ、生きて帰れ!」
「はっ!」
言うなり彼らは、ムラマサ達が乗ってきた浮遊スクーターのようなものを持ち出して飛び離れていった。
その瞬間、ムラマサは……笑った。薄く軽く、どこかホッとしたような雰囲気もある、ニヒルな笑みを一瞬浮かべた。
書き溜めてた分が尽きてしまったので、更新頻度をちょっと落とさせていただきます。
不定期になりますがあんまり間が空かないように努力します。
2部エピソードのアイデアばっかりがどんどん浮かぶ……




