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#28 アークの休日

 言うべき言葉はただひとつ。

 『どうしてこうなった』。

 俺の驚きの理由が分からなかったらしい榊さんも、耳打ちして魔法コマンド使わせたら、なんかこう驚きすぎて作画崩壊してる顔になった。


 『案内しろ』と言いながらも俺たちの先に立って歩いている女の子。足取りは踊るように軽やかで楽しげ。お行儀良くも、上機嫌ではしゃいだ雰囲気。

 お出かけを待ちわびていた子どもみたいで微笑ましいけど、そもそも彼女は、こんな場所に居るはずのない人物。

 『アリス』とか、見え見えの偽名を名乗ってはいたけれど……


 なんでターゲット(いや別に殺さない)がこんなとこに居るんスか―――っ!?


 なんなんだ、この状況。ローマの休日?(※知識として知ってるだけで、実際に映画を見た事は無い)

 俺は、お忍びのお姫様にローマを案内して、最後に記者会見で質問する新聞記者なの?


 ちなみにお姫様……もとい偽神様から提示された報酬は宝石の首飾り。

 ブリリアントにカットされた大粒の宝石がいくつもくっついてて、どんなに安く見積もっても一般市民の年収を下回ることはないだろう。

 こんなもん悪い奴に見せたら、その場で奪われてジ・エンドな気がするんだけど、そこは何も考えてないのか、それとも何気に計算があるのか。


 俺としては『こんな脳天気そうな連中が悪い事せんじゃろ』に一票。


「カ、カジロ様……どうなさるおつもりで?」

「……様子を見よう。何がしたいのか分からないけど、何か……上手くすれば情報とか引き出せるかも知れない」


 気付かれないよう、俺と榊さんは声を潜めて話し合う。

 情報が引き出せるかも、と言うより、シャルロッテについて知る事ができるだけでも、特A級の大戦果だ。いくら傀儡の神と言えど名目だけは彼女がこの世界のトップなんだから、世界中敵に回してこれから教会ぶっ潰してやろうという立場の俺たちとしては、このチャンスを見逃すわけにもいかない。


「ただ、兵士には注意、かな。誘拐犯扱いされたりしたらえらいことだ。俺らの正体バレてなくても全力で殺されかねない」

「そうですね。気をつけましょう」

「警戒に当たります」


 アンヘルも恭しく頷く。

 俺の周囲10km限定ながら、アンヘルは千里眼・順風耳情報を俺が使ってない間も自動収拾して、並列に処理できる。異変があれば教えてくれるだろう。


「おぬしら、何をコソコソと話しておる。早う来やれ」


 気がつけば、先に行きすぎたシャルロッテ様が戻って来るところだった。


「それで、案内……とは言いましても、どちらへ?」

「名所案内を、と言いたいところだが、あまり目立つ場所には行きとうないな」


 やはりお忍び、見つかるのは嫌な模様。

 俺だって目立ちたくない身の上だけどさ。


「地元の者でなくば知らんような見所は、どこかに無いかの」

「……俺らも地元民じゃないんで」

「なんじゃと!? 使えんのう。声を掛ける相手を誤ってしもうたかの」


 あからさまに残念そうな偽神様。

 ンな事言われても。


「では、ここは私が」


 意外にも、ここでアンヘルが進み出た。


「……この街、詳しいのか?」

「いえ、ですが公共のネットワークにアクセスすれば、飲食店のレビューや観光ガイドからデータを参照できますので」


 本体がシステム上にあるんだから、それくらいお手のものか。

 一応インターネットみたいなものもあるのだ、この世界。アンヘルが存在する場所や、神のためのデータベースは独立してるけど、それとは別に一般人向けのネットワークが構築されている。

 当然そこには普通の人らが書いたアレやコレのデータが存在する。まあ普通にインターネットですな。


「荒らしとか、やらせレビューに引っかかんなよ」

「問題ありません。兆を超えるサンプル学習の成果として、ネット上の書き込みの真偽を99%以上判別可能なプログラムをご用意しております」

「やべえ。マックの女子高生と電車の幼児と旧日本兵のじいちゃんが絶滅する。それで、どこへ行くのがいいって出た?」

「まずは電子ドラッグをキメてハイになるのがよろしいようです」

「よし分かったそのプログラムポンコツだ却下!」


 光の速さ(当社比)で俺は突っ込みを入れた。


「さようでございますか」

「つーかその電子ドラッグって何? なんか話してる人が居たけど」


 シャルロッテ様に聞いたら怪しまれそうなので、小声で俺はアンヘルに問う。


「特殊な視覚的・聴覚的刺激と、脳に働きかける電気的刺激によってトリップ状態をもたらす非物質ドラッグの総称です。魔晶石コンソールやブレインインプラントコンピュータの使用者は直接情報を流し込めますのでさらに刺激が高まります」

「違法じゃないの?」

「脳と精神に不可逆的な損傷を負う可能性はありますが合法です。また、電子ドラッグには高い税金が課せられており、教会の収入を支える『税金の優等生』とも言われています」

「ひどい」


 仮に副作用が無いとしてもやる気にはならない。


「……どっかに観光ガイドの本とか売ってないかな。それか観光案内所とか」


 とりあえずネット情報は諦めた。

 でもどうすりゃいいんだコレ。

 一応ネット上に観光情報があるって事は、この世界にも観光の概念はあるはずで、だったらなんかそういう系の情報はどこかに……


「観光情報をお探しかい」

「そうなんですよ……って誰!?」


 若い男の声がして、俺は答えてしまってから、見知らぬ相手だと気が付いた。


 見ればそこには20ちょいくらいの歳の、ヒョロいオニーサンが立っていた。

 格好は、ジーパンにありきたりのポロシャツという、まさしく休みの日にその辺ブラついてる人という感じ。話し方は威圧的でこそないが威勢の良さが感じられて、技術系労働者ブルーカラーっぽい雰囲気だ。


 ……いや、本当に誰だよ。


「やぁ失礼。実は俺、観光ガイドをやってるんだけど、よかったらどうかな?」


 謎の兄ちゃんは、純度50%くらいの未精錬な営業スマイルで仕掛けてくる。

 ……実にうさんくさい。付いていったらやたらと高い絵とか変な健康器具買わされそう。視線をさまよわせて、ふと壁を見れば『詐欺に注意!』のポスター。


 そんな視線に気が付いたのか、観光ガイド(自称)のお兄さんは、プラケースに入れて首から提げる職員証みたいなものを取り出した。


「……ごめん、ほらこれ! 俺、ちゃんとした市の認可ガイドだから! 安心! 祝福的!」


 よく分からんチップが嵌め込まれたカードには、目の前のお兄さんと同じ顔がプリントされていた。


 とりあえず『本当かどうかネットで調べてくれ』と言うつもりでアンヘルの方を見るとゼロコンマで返答が来る。


「ネットワーク上に情報がありました。街の振興策として、認可制の観光ガイドを制度化しているようです。

 無認可で報酬を受け取った観光ガイドは、罰として汚染地帯で奇形魚の目玉の数を数える仕事をさせられるとか」

「その仕事実在したの?」


 じいさんのディストピアジョークかと思ってた。


「データベースを検索。IDおよび顔写真、相違ありません。

 氏名:レオン・マイヤール 年齢:22 本業:機械整備師 ガイド歴:2日」

「……ふつか」


 いわゆるジト目というやつで、俺はお兄さん改め超新米観光ガイドのレオンさんの方を見る。


 対するお兄さんは、いわゆるバツの悪そうな顔。


「どうやって調べたんだよ、一瞬で……

 参ったな。ガイドなのは本当だけど、実はなりたてでこれが初仕事なんだ。

 でも! ガイドにはなりたてでも、ここは俺が育った街だからよく知ってるぜ。なんならお安くしとくよ」


 『キラーン!』と効果音が付きそうな笑顔でサムズアップするレオンさん。

 このポーズだけやたら堂に入ってて、鏡を見ながら練習とかした感じだ。


「どうします?」


 俺としてはなんだって構わないのだが、ここはクライアント、すなわちシャルロッテ様に聞いてみる。


「構わん、このままでは時間が惜しい。あやつは、どこか危うい・・・が邪悪には見えぬ。

 代金はおぬしらが立て替えておけ。あの首飾りを売れば元は取れるじゃろ」

「取れるどころか山ほどお釣りが来るよ」

「なんぞ面倒があれば、おぬしらが対処せい」

「了解」


 俺は仕事を下請けにぶん投げることに決めた。


「それじゃ、お願いします」

「毎度あり! それじゃ、まず最初に……」


 どこからか取り出したタブレットPCみたいな端末を操作しながら(ネット経由で仕事の受諾を登録しているようだ)レオンさんが聞く。


「電子ドラッグ目当てに来る奴が結構居るんだが、あんたら、そのクチかい?」


 …………俺達の間に、妙な沈黙が流れたのは言うまでもない。


「ごめん、アンヘル。情報正しかったんだな」

「私は世界運営サポートシステム。あくまで賢様の補佐として情報を提示するのみであり、その先の判断をなさるのは賢様です。ゆえにお気遣い無く」


 全くいつも通りの口調のアンヘルだが、ちょっと拗ねているようにも見えた。

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