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光芒に溶けゆく一輪の華  作者: 深淵ノ鯱
エピローグ
12/12

天使の階段

 生暖かい空気が漂う公園に、高い音を響かせて、破裂する。佐々木さんが購入してきたという簡易的な打ち上げ花火を僕たちは見ていた。

 今日はさつきの命日。昼のうちにさつきのお墓へ赴き、手を合わせた。その時は誰もいなかったが、入れ替えられたばかりと思しき色鮮やかな何本もの花と、水が風に揺れていた。さつきの家にも挨拶に行き、にこやかに笑う遺影を前に合掌した。そして夜、佐々木さんと二人で、つつましやかに花火を鑑賞している。

「八柳君さ、結構前の授業だけど、覚えてる?」

「何の授業?」

「日本史。確か先生が余談で話したこと」

 日本史の担当教師は比較的真面目な人なので、あまり授業から脱線するような話はしない。ならば、結構数も絞られてくると思うのだが……。

「ごめん、覚えてない。どんな話?」

 はぁ、と佐々木さんはため息を吐く。

「花火の起源の話だよ。江戸時代だったかな? 日本の各地で大きな飢饉が何度も起こったんだって。たくさんの人が亡くなった。生き残った人も苦しい生活を余儀なくされた。それで、その時の将軍が、花火を打ち上げたんだって。生者の生きる希望とするために。そして、死者の弔いとするために」

 白い煙はゆらゆらと遠く彼方へ飛んでいく。空に浮かぶのは、大きな三角形。

「そうなんだ……。じゃあ、もしかして今、佐々木さんが花火を打ち上げたのも」

 照れくさそうに佐々木さんは笑い、新たな筒を取り出す。

「小さな華だけどさ、届くといいね。さつき、ちゃんと笑ってるかな」

 ライターで火を点け、すぐに距離を取る。

「大丈夫だよ。きっと、あっちでいろんな人に囲まれて、いろんな人を笑顔にしてるはず。さつきならそれぐらい、簡単だよ」

 また一つ、夜空に花が咲く。

「ちゃんと私たちを、待っててね。さつき」

 尾っぽのような長い筋を伸ばし、大空へと向かってゆく。もう一度、大切な女の子の名前を呟いた。

 それはまるで、あの日の光芒のよう。

 天使が舞い降りた、奇蹟を生み出す光の階段だった。


END


最後まで読んでくださってありがとうございました。

評価や感想などいただけると励みになります。

次作は10月ごろの投稿となると思います。また、次のお話でお会いできることを心待ちにしております。

ではでは~


深淵ノ鯱

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