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Will  作者: 万 紫紅
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出会い


 2010年秋。吉野は自宅から少し離れた公園に行くのが日常化していた。三年前に両親の事故死をきっかけに何もかもが不調になり、大学生だった吉野は引きこもりへ早変わりした。親戚とは疎遠で頼れる人間は誰もいなかったため、そのまま大学は辞め、慰謝料やら保険金やらで生活していたが、それも底をつき始めていた。

 公園には椅子もトイレも水道もある。最寄りの図書館で借りた本を持っていけば、光熱費のかからない時間を過ごせた。別に自宅で過ごしても大した額はかからないのかもしれないが、塵も積もればなんとやらである。

 半年ほど前までは完全な引きこもりだった。用事はネットで済ませ、寝て起きてぼーっとして、ネットサーフィンして、お腹がすいたらインスタント食品か出前を取って食べてという自堕落を極めていた。

 外に出るきっかけとなったのは運転免許証の更新だった。数年間の身分証となるため、久しぶりに理髪店に行き髪を整えてもらい、入学式以来のスーツに袖を通すと、サイズが合わなくなっていた。

 そのことを認識した瞬間、「ふっ」と笑いがこみ上げ、涙が頬を伝った。両親が死んで以来の涙だったかもしれない。何やってんだろう、そう思った。免許証には目を腫らした不細工な吉野誠治が、顔のサイズからは考えられない肩幅のスーツに身を包んでいる。

 久しぶりの扉は少し重かったが、開けないほどの重さじゃなかった。

 久しぶりの太陽は眩しかったが、暖かな光だった。

 久しぶりの人込みは窮屈だったが、安心感があった。

 何もかも変わってしまったと思っていたけど、変わったことなんてほんの少しだったんだ。そうして吉野のひきニート時代は終わりを告げ、ただのニートへと進化した。就職活動を始めようとしたが、ほとんど人と会話していなかったせいでうまくいかなかった。貯金が底をついてからにしようと決め、とりあえず毎日外出しようと決めた。

 そして公園通勤を始めて半年。毎日同じ公園に行くのは周りの目が気になるので、三か所に週二日ずつ行き、日曜は家で過ごすと決めていた。夏が終わり、風が少し冷たく、日が落ちるのが早くなったなと感じ始めたとき、香織と出会った。

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