14 次は魔力導線?
「それなら、魔力銀があります。異界ではミスリルって呼ばれているみたいですが、この地球でも架空の鉱物として、お話などに登場するものです。」
「ミスリル?そんな鉱物があるの?」
「はい、あります。ですが、かなり少数です。これがそのミスリル銀なんですが…。」
僕は倉庫から用意しておいた素材のうち、ミスリルを京介様のもとに運んでいった。
「これって、鑑定してみた?」
「え?いえ。これはこういうものだと思ってましたんで特には鑑定していません。」
「じゃあ、いい機会だから一緒に万眼鏡で鑑定してみよう。その組成分析までやってみるんだよ。」
「わかりました。」
僕は京介様と一緒に魔力銀を鑑定していった。すると今まで意識していなかったことまでわかった。
「これって…。」
僕は京介様の方を見て、言った。
「うん。これって通常の銀の構造に、魔素が染み込んでる状態だね。魔素自体は分子レベルで染み込んでるから結晶化はしてないけど、通常の銀より魔素がその構造に絡んでいる分、柔軟性があるようだし、結線には向いているようだね。魔力の損失をかなり抑えることができるだろう。ただ、これって見つかる量が少ないんだっけ?」
「はい、現在のところ地球では産出されていません。ここにあるミスリルはすべて、おばば様たちが大昔に、人から捧げものとして受け取った鉱物です。あやかしが採掘したこともありませんので、これぐらいしかありません。」
「う~ん。…これって作れないかな。」
「え?ミスリルを作るんですか?」
京介様はとんでもないことを言い出した。
魔素を含んだ鉱物を作り出すなんて、どれだけの魔力がいるのやら。
「うん。組成分析したところ、普通の銀と違うのは、魔素を含んでいるかどうかだけの違いだと思うんだ。普通の銀ってある?」
京介様にすぐに銀を持っていった。
「うん。これにこうして圧縮した魔力で包んでやってそれに魔素を込めていく…。これでどうだろう?」
その掌に乗った銀を早速解析してみた。すると短時間だからか、表面だけは確かにミスリル化していた。
「うん、方向性としてはこれで合ってそうだね。問題はかなりの魔力を使うってことか。これって俺にしかできないことかも…。」
京介様を見ていて気付いた。
「今の実験で表面だけは、ミスリル化に成功しています。とすると、もしかしたら銀をもっと薄く延ばして線状にしてからなら、もっと魔力が少なくて済むかもしれません。」
「うん、そうだね。じゃあ、銀線を作っていこうか。」
「はい、わかりました京介様。」
僕は銀の塊を受け取り、造形の魔法を使って、銀の細い線にしていった。しかし、この銀線は折れやすい。ぽきぽき折れちゃう。これじゃ使い物にならないな。
「ああ、やっぱりそうなっちゃうか。じゃあ、造形をしながら少しできた銀線に、僕が魔素を込めて行ってみようか。銀線を作った傍からすぐにミスリル化しちゃおう。そうすれば巻き取り機で巻き取ることも、できるようになると思うよ。」
早速、僕が銀線を作る役をやり、そのできた銀線に魔素を込めてミスリル化していく役を、京介様が行っていく。
これはすぐにできた。でもこれって自動でできるようにしないときついな。
「これはむき出しで使っても大丈夫なのかな…。…接触するとやっぱり魔力がそこから抜けちゃうね。それならゴムのパイプで覆ってみようか。ゴムパイプってある?」
京介様はゴムパイプを探しに倉庫の方に行かれた。
これって、今後ゴムの生成も必要になってくるよね。
じゃあ、あの解体した石油製品の油から精製できれば、一番いいよな。
京介様がとってきたゴムパイプは医療用で使われているようなシリコン製のチューブだった。
それに魔力銀線を通していく。はじめは通すことに苦労されていたけど、魔力を通すことで魔力銀線自体が動かせることに気付かれたようで、それからは面白いようにチューブに魔力銀線が通っていく。
「これって面白い素材だな。魔力を通して魔核で魔法を発動させるだけならかなり細い線にしてもうまくいくようだね。逆に太くしたら、この魔力銀線自体でモノを持ち上げることもできるみたいだね。ゆくゆくは、これの応用でクレーンやショベルカーなんかにも活用できそうだよ。」
京介様は新しい発見に、また笑顔で話されていた。
しばし見とれてしまった。
いや、今は魔力銀線を使って、車を動かせるようにしなきゃ。
「さて、これで魔核をつなぐための線もできたね。電気機器は今のところそのまま使おう。問題はそれらに電力を供給しているバッテリーなんだけど、これには愛が作った魔力変換装置とでもいうべきものを取り付けよう。車は定格24Vだったはずだからそれに合わせて電気を出すように作ろう。車のバッテリーは直流で済むから楽だね。光の魔法で電気は起こるからそれに水魔法を混ぜておこうか。この水魔法には周りの魔素を集めるようにしておこう。水と魔素は相性がいいからね。
…さて、これで普通に車が動くと思うんだけどどうだろうか。」
そういいながら、京介様はすぐに改良に取り掛かっていた。
魔核の電気プラグもどき、今後は魔力プラグとでも呼ぼうか。その魔力プラグに魔力線をつけて、それをアクセルペダルまで持ってくる。アクセルペダルでは操縦者からの魔力の量を調整するだけの機械式だ。操縦者からの魔力はハンドルからとるようにして、ハンドルの素材に魔力銀を融合させていった。
すごい。見る見るうちに改造されていく。
今の京介様は万眼鏡で思考速度が上がったのと、レベルアップで身体能力が上がっているので、とんでもない速度で作業が進んでいっている。
僕たちはしばらく呆けて見ていた。
でも、せっかく京介様が目の前で魔道具を作られているんだから、見逃しちゃいけない。これを今後僕たちで改良して、実用化しなきゃいけないんだから。
そう思い直して我に返り、京介様の作業を見続けた。
みんなもそれに気づいたようで、見逃すまいと真剣に見ている。
「本当は定格の電流を流してやれれば、もっと魔力消費が少なくて済むんだけど、どれも機器が24Vを使う前提で設計されているから、その電圧を各機器に調整して取り込めるように、機器の方で減圧して使うようになってるからね。今の状態じゃこれが限界だろうな。ま、今後の課題ということで。」
京介様はそういって、僕を助手席に乗せ、トラックの運転席に座り、エンジンを始動させた。
さっきマフラーも少しいじってたはずだ。
音がかなり静かだ。
そのまま倉庫の中をしばらく走り回らせ、元の位置に帰ってきた。
「うん。これで完成だね。ご苦労様。」
京介様にそういわれて、僕はうれしくなった。
「僕の方こそいろいろなことが試せて、見せてもらえて勉強になりました。」
「うん?そうなの?じゃあ、今日のヒントがあればまた先が目指せそうだね。」
「はい。頑張ります。」
…あとで聞いた話なのですが、京介様が魔道具を作ったのって、あの時が初めてだということなんですが、本当なのでしょうか…。
…僕は今まで作ってきた魔道具がガラクタに見えてしまいました。ぐっすん。