続・喫茶店のマスターは見ている。
下らなさ全開で「続」を書きました。
余り過剰な期待はしてはいけません。(笑)
カランコロン・・・。
喫茶店のドアが今日も開く。
マスターは何食わぬ顔といったところで
注文されていたホットケーキを焼いていた。
ケース3.
三十路手前ぐらいの微妙な若さ加減の女性2名。
「ねえねえ。ハゲって・・・どう思う?」
マスターはその単語を聞くなり慌てて無意識に
自分の頭髪に手を当ててしまう。
「あー、ハゲ?うちのお父さんは昔から神経質だから
円形脱毛症で小さいハゲならあったみたい。」
「いやいや。そんな生易しいハゲの話じゃなくて。」
「えーと。つまり、本格的なハゲの話か・・・。」
(何だ?!本格的なハゲの話って?!!こんな変な会話する
客嫌だな・・・。地味に嫌だ・・・。俺も最近ちょっと頭髪が
気になってきてるんだからやめてほしいものだ・・・。ひやひやする。)
マスターは青ざめながら頭髪に手を当てたまま固まっていたので
女子店員がそっとマスターに近づき、小声で耳打ちをした。
「大丈夫ですよ?マスターはハゲよりも白髪の方を気にするべきです。」
それはそれで傷ついたマスター・・・。
尚もハゲに関するトークを繰り広げる女性客2人・・・。
「いやうん。だから何が言いたいって。ハゲてても素敵な人って
いるじゃない?これが言いたかった。」
「え?!ハゲてて素敵なの?!基準がよく・・・。」
困り果てる1人の女性・・・。
「ほら、例えば洋画に出てくる少し年を取ったおじ様が
なかなか素敵なハゲっぷりだったりしない?日本人のハゲとは
また違う独特のハゲ!!なんかこう!そこに妙な色気を感じてしまう!」
「・・・・・あんたの基準はおかしい・・・・・・。
まあでも・・・確かに日本人のハゲとは違う気もするなぁ・・・。
なんかこう・・・。昔からいるもんね。外国人でハゲてる人って。
フランシスコ・ザビエル的な・・・。」
「ザビエルはちょっと違うかもな・・・。もっとこう、
自然にナチュラルなハゲ方してるのがいいんだって。
牧師みたいなおじ様が自然につるっと綺麗にハゲてるのがいいんじゃない。」
「え?!ザビエルも牧師みたいなもんじゃないの?!」
「・・・あれ?ザビエルって・・・牧師・・・?ザビエルって、
そもそも何者だっけ・・・?!!」
(・・・物凄く阿呆な会話をしてるな・・・。これが最近の女性の
普通の会話なのか・・・?!おじさん、ついていけないよ・・・。)
マスターは黙々と聞いてないふりでナイフを片付けていた。
「まあ・・・。でもさぁ・・・。ハゲハゲ連呼してるのも変な話だけど
想像してみてよ・・・。仮に自分の物凄く好きな男性がさ・・・。
いきなりハゲ出したところを・・・・・。」
「うわあー・・・私それ嫌だわ!!ハゲたり太ったりされたら嫌だ!!」
「なんでさ?あんたは外見だけで彼氏を好きになるタイプなの?
私なら・・・、好きな人なら別にハゲても好きだよ?多分・・・。
おじいちゃんになってもずっと好きでいると誓えるし・・・。うん。」
満面の笑顔でそう言いだすハゲの言いだしっぺの女性・・・。
「愛があるなぁ・・・。ほんと・・・そこは感服するわ・・・。
愛がなきゃ言えないよね。その台詞は・・・。」
「まあ、好きになった人が必死でハゲを隠そうとする姿にも
こう・・・萌えるものがない?なんかわからないこの気持ちは何?的な。」
(いい話になろうとしてたら、またおかしな方向に・・・。
本当にはらはらするな・・・。おじさんまでハゲそうだよ。これ。)
マスターは新しく入ってきた客に水を出す様に女子店員に小さな声で促す。
おしぼりの用意もしっかり忘れない女子店員・・・。
「ハゲかぁ・・・・・。」
「ハゲなのよ・・・・・・・・。」
(何だこの会話・・・。どこで収拾がつくんだ・・・!!)
「あ、でも1つ訂正。ハゲてもいいんだけど太られたら生理的に無理だ。」
「・・・あんたの基準がよく・・・・・・・。」
(おじさんもわからないよ・・・。どういう事だよ?!)
「そこだけは曲げられないの・・・!!どうしてもね!!」
「そうか・・・。」
(そうなのか・・・。)
その後帰っていく2人の女性を見送る様に見守りながら
「ありがとうございました~・・・。」と挨拶をした・・・。
(やっと帰ってくれた・・・。助かった・・・!!)
「凄い会話してましたね・・・。あ、でも私もハゲはともかく
太られたら嫌なタチですね。そこはなんか分かる気がして頷いてました。」
「君もそうなのかね・・・?!!」
女子店員の何とも言えない本音を聞き、またこちらも
何とも言えない気持ちになるマスターであった・・・。
ケース4.
1人で来店した若い大学生男子・・・。見た目はインテリ風の
落ち着いている雰囲気のクールそうな眼鏡をかけた男子だった・・・。
(服装もダサくもなく、そこそこ小奇麗に整えてあるので尚更
インテリジェンスに見えなくもない・・・。)
「いらっしゃいませ~!!」
マスターが口を開く前に女子店員が浮かれた口調で
滑らかに軽やかに物凄い速さで対応していた・・・。
(この子・・・。こういうの好きそうだもんな・・・。
なんか分かるが・・・。あからさまだな・・・。)
マスターは少し休憩しているので新聞を広げていた・・・。
「ご注文は何になさいますか~?」
「・・・・・。珈琲で・・・。」
「かしこまりました~!!」
女子店員はにこやかであった。いつになく・・・。
「君、露骨だよ?態度が・・・・・。まあ、お客様だから
それでいいんだけどもな・・・?うん。」
「だって素敵だったからぁ~・・・!!」
小声で会話をするマスターと女子店員の2人・・・。
「あっ!」女子店員が目を光らせて彼を見つめながらこう続ける。
そう・・・。その見た目的にもインテリジェンスな青年は
鞄から1冊の本を出していた。「哲学書」だった・・・。
「やっぱり頭いいんですよ~!!インテリ美青年!!良いわー!!」
「君。声が大きくならない様にね・・?!」
そして彼は・・・黙々とその哲学書を読んでいた・・・。
が・・・。
(何なんだよ・・・。この本・・・!!!
意味が全然分かんねえよ?!!哲学ってもっと簡単にすっと
誰でも入れそうな気がしてたのに・・・!!!ああ!!もう!!
何なんだ!!!人物名がやたら多い上に「アリストテレス」とか
「ソクラテス」ならまだ聞いた事がある様な気もするけど・・・!!
何なんだ!!何だ?!「イデア」とか!!「アテナイ」がどうのとか!!
大体「ソーマ」って何だよ?!「食戟のソーマ」しか知らねえよ!!
魂なら魂でいいだろ!!何でわざわざ「プシューケー」とか意味の分からん
呼び名で書かれてるんだよ!!ますます混乱してこっちの頭が
「プシュー!ケエエエエーーーーッ!!」て壊れそうになるわ!!!)
本人は・・・全くもって本の内容を理解できていないようだった・・・。
だが、そんな事とは思いもしないとばかりにポーカーフェイスを装っていており、
傍から見ると落ち着きはらった賢そうな青年に見えるのである・・・。
次のページを捲り、少し安堵した様に溜め息を漏らす青年・・・。
「この宇宙は閉じていて、有限の大きさを持ち、中心に地球があり、
その上に住むすべての生物には魂が宿っている。そして、その中でも
最も高度な魂を持つのが人間である。」の一文を読み進め、ようやく
自分でも理解できるレベルの至極真っ当な話の結論が出たからである・・・。
ふう・・・と本を閉じて眼鏡を片手で軽やかに取りながら
眉間に寄せた皺を指でほぐしていた・・・。
「凄い、勉強家なんですねきっと。あんなに疲れるまで
読み込んであるんだ・・・。いつもあんな感じなんでしょうね・・・。」
女子店員はうっとりとしながらも感心した様子で彼の姿を見ながら
独り言を呟き続けていた・・・。
(疲れたな・・・珈琲でも飲むか・・・。)
「あっちぃ!!!」
思わず舌を火傷する青年・・・・・・・。
小声だった為、誰にも自身の間抜けさ加減は知られることもなく、
少し滞在した後にレジを支払い喫茶店を後にした・・・・・。
(今日も色んなお客様がいたなぁ・・・。クレーマーの
おばさんみたいな人には少し参ったが・・・。まあ、安全運転な
日々だな・・・。うん・・・。)
マスターはクレーマーに多少苛ついた為なのか、女子店員に
意味の分からない説教をしていた・・・。
「君は損だな・・・!!ほんとに損なタイプだ!!」
「はあ?!ちゃんと掃除とかもやってるじゃないですか?!
何が不満なんですか?!!」
「い・・・いや。掃除はやってるな・・・。うん・・・。」
(八つ当たりか・・・。このオッサン・・・。客には言えないからって・・・。)
思わず睨み付ける女子店員と委縮してしまうマスター・・・。
マスターは塵取りを片付けながら無言になってしまう・・・。
そんな平日の午後の喫茶店・・・。
これは暫くネタになるので事実も織り交ぜつつも
シリーズとして短編で発表していくつもりです。(まだ未定ですが・・・)
段々と人間の阿呆さと滑稽さが増しています・・・。(笑)