第5話〜思い出を引っ張りだして〜
【登場人物】チョコレートブラウンの髪 少年 思い出屋 【名前】リュア
【キーワード】「お祭り」「朝」「良い夢を」
やけに外が騒がしい。
そうリュアは思いながらソッと身を起こした。
「…そっか、今日はお祭りだったっけ…」
朝特有の風の匂いが鼻腔をくすぐる。欠伸をしながら背を伸ばすと、リュアは窓から外を覗いた。朝にもかかわらずお祭り騒ぎのこの町は、今や夏真っ盛りで花が満開だ。しかし、リュアはもう少ししたら働かなければならない。元々癖の付きづらいチョコレートブラウンの髪を手ぐしで伸ばしながら、少年らしさを残した服に着替える。下からは、朝ごはんの美味しそうな匂いが流れ込んできている。今日は朝から肉な気がする。この町では今でも、肉の味噌漬けを瓶に入れて熟成させお祭りごとやお祝い事に食べる風習がしっかり根付いている。昔からの風習だと言われているが、朝からそういう風にがっつり食べるには食べ盛りな年代のリュアは苦手だった。どっちかというと少食なリュアはのんびり下に降りていく。
『あら、リュアおはよう。早いじゃないの』
「仕方ないでしょう。外はもうお祭り騒ぎで…目が覚めてしまう。仕事もあるのだから、もう良いかなと思いまして…」
母親がクスッと笑ったのがわかった。それも理由はわかっている。人と対する時はどうしても年齢の合っていない話し方をしてしまう。友人たちからも、あわねぇぞと笑われることも多く、それが嫌で友人という縁を切っていくので、リュアは学校にもいかず自分が生まれもってしまった才能を活かすべく働く道を選んだ。母親は少食なリュアの為なのか、薄く切って焼いた味噌漬け肉をパンに乗せたものを用意してくれていた。これはありがたいと、いただきますと言うと口に運んだ。今日のお客さんはどんな人か、どんな記憶、思い出を思い出させて欲しいのか。そればかり考えながら黙々と食べる。全て食べきると、お皿を流しに持って行き、「じゃあ表出ていますね」そう笑って踵を返した。
リュアは思い出屋だ。人が無くした記憶を、思い出を思い出させてあげるのが仕事。
店を開き、カウンターも椅子の座り人が来るまでのんびりと本を読んでいるのがリュアのお気に入りだった。いつも通りのんびりと本を読んでいると、鈴の音と共にドアが開き少し疲れた顔の男が入ってきた。
「いらっしゃいませ。思い出屋へようこそ。今回は、どんなご用件で?」
『…家族のことを思い出したい…』
こういうかぞくに何かあったことを受け止められず記憶を失う人もいる。ではこちらへ、と手を引きながらベッドのある個室に連れて行く。男にさまざまな説明をし、横になってもらった。
「良いですか。僕が起こすまで静かに眠っててくださいね。それでは…」
目の上の手をかざすと、男はすっと眠りに落ちた。思い出すと良いな。そう思いながら寝たのを確認し、黄色い魔法の蝶を部屋に離した。蝶が落とす鱗粉きっと思い出すきっかけになるだろう。部屋の明かりを落とし、外に出る前にソッと呟く。
「良い夢を…」
今日もリュアはそういう記憶無き者などに立ち向かう。
たまには、起きた時見た現実に発狂してしまう人もいる
しかし、リュアには記憶や思い出を引っ張り出すことはできても触れれない。カウンセリングはできない。
その事をリュアは心苦しく思っている。記憶や思い出に触れれて気持ち共有できたなら…何度も追い詰められた
それでも、人には大事な忘れてはいけない記憶がある。最後にはありがとうと言って店を後にする人の笑顔が見たいから。
今日もリュアは魔法の蝶を飛ばして、記憶や思い出を引っ張り出していく。
お祭りの騒がしさが聞こえる店の中、リュアはソッと目を閉じた。