おれ
やれやれ。おれはコインランドリーの床に唾を吐いた。最近は煙草の量が増えた。一日に二箱は吸っている。そのせいか、そのせいじゃないかは知らないが、唾の色は茶色かった。タイルに吐かれた唾は泡が入っていて、緩やかに床に広がっていった。アメーバのようだった。
おれはひどく気持ち悪く感じたので、踏み潰し、床に広げた。床が湿った。これでおれが唾を吐いたとはだれも気付かないだろう。
人生に救いが欲しく、SNSに登録した。おれは変態なので、外人の方が気が合うかもしれないと思い、海外のサイトに登録した。ぶらぶら、いろんな奴をみてまわった。海の向こうならば、おれと同じような奴で溢れていると思った。
しかし、海の向こうですら同じだった。おれ自身、外人とおまんこしたい気持ちがないといえば嘘になるかもしれない。しかし、世間は本当に、おまんこがしたいのだ。おれの五倍も十倍も、いや、もっとかもしれない。
外国をみて回っているやつはいう。外国は、価値観が、まったく違う。その世界はおれにとって魅力的で、おれもそっちなら、集団の一部になれるかもしれないと思った。
結論としていえば、なんにも、まったく、変わらなかった。発展とは、残酷なものだ。どこに行っても同じような人間を見る。ベージュのコート、目の下に塗るばかげたチーク、くそみたいなツーブロック。それから? エベレストの頂上だって、17インチモニタのディスプレイに収まってしまう。
日本人の、男を見つけた。彼は、外国の女にもてていた。おれが嫌いなタイプだった。彼は、女たちが日本語をわからないのをいいことに、日本語で暴言を吐き続けていた。世間は嘘を愛する。女も嘘を愛する。おれが女を苦手な理由は、そこにあるのかもしれない。女に好かれるためには、嘘をつかなくてはいけない。それは、言葉だけではない。
ロックを好きなやつはいなかった。みんな、K-popを聴いているらしかった。まったく、病気だよな。
おれはそのあと、白人の女のポルノムービーをみて、射精した。ペニスをしごくと、気持ちがいい。それだけしかない。世界の唯一面白い点というのは、多様性だとおれは思う。死の世界というのは、まったく主観の出来事しかないので、創造の範疇を出ず、面白くない。赤茶けた山が、青や、紫に変わったり、どこかで見た、インドの曼荼羅が自分のいる所に出たり消えたりするのを繰り返し見たりすることを好きな人には、いいかもしれない。
おれは腰かけていたベンチから立ち上がる。コインランドリーにおいているベンチというのは、どうしてあんなに硬くて、ケツが痛くなるんだろう? おれが立ち上がろうとすると、当たり前のようにおれの体は立ち上がろうとし、動き出す。おれは目の前で回っている洗濯機をみる。そうすると、回っている洗濯機を脳が認識する。その、当たり前にも、いい加減、キツくなってきた。
白人の女もどこかでポルノムービーに出て、喘ぎ、おれと同じような人間が、それを見てマスターベーションしている。また、日本の女もどこかでポルノムービーに出ている。
違ったものというのはどこにあるのだろう? おれは本当に、絶望している。