陰陽の鏡
水を張った水盤に映る自分の顔を今日も眺める。
顔にかからないよう後ろで一つに括り、コンコルドで留めた髪の毛先が呼吸と共にかすかに揺れ動く。
私の呼吸と呼応するように、水盤に映る私の輪郭を囲むモヤもゆるりと揺れた。
一般的に、オーラと表現される気の流れを可視化する訓練。
陰陽の術を駆使する家系に生まれた私が実践する、修行の一つだ。
気を自由自在に操れるようになることが、術師に必要な最低条件。
物心つく頃から、一本の線香が燃え尽きるまでの最低三十分間は、水を張った水盤を見る約束になっていた。
この修行を始めてから十数年経った今日の線香は、もう数分で燃え尽きる。
線香から水面に視線を戻し、自分の輪郭を囲むモヤに向ける意識を強めた。
水面に映るモヤは、私の念じるとおりに形を変えるから面白い。
もう、かなり自在に操れる。
「あら! しばらく見ない間に、いい感じね」
背後からかけられた声に、思わず振り向く。
勢いよく障子を片手で開け放ち、陽の光を背負って仁王立ちしているシルエット。
ショートヘアに、くびれた腰。ピッタリとしたパンツスタイルの女性は、私が大好きな姉だった。
「姉さん、お帰り!」
「ただいま、理緒」
私の姉である栗原律は、私が目標としている陰陽の術の使い手だ。
「制服、着替えてからすればいいのに」
障子を閉めて部屋に入ってきた姉は私の横に寝転び、高校の制服のスカートを軽く引っ張った。
「ちょっと、セクハラ!」
「妹のパンツなんか見えたって、面白くもなんともないわよ」
「変態!」
「よく言われるけど、別に感情の変化は起こらないわ」
形のいい唇が弧を描き、目を細める姉の顔立ちは妹の目から見ても美人の部類だ。
私と似ているのは、顎の形と鼻の形くらい。
姉が私と同じ高校三年生の頃は、もっと大人びていた印象がある。
同じ親から生まれた姉妹なのに、微妙に違う容姿。
私には、それが少しコンプレックスだった。




