一押し
妹の部屋のドアを遠慮気味にノックする。
しばらく待つと、部屋の中から妹の明香里が答えた。
ゆっくりドアを開けて中の様子を窺うと、折り畳み机に問題集とノートを広げて、怪訝な表情を浮かべている妹と視線がかち合う。
「なに? 寒いから、早く閉めて。もしくは、用がないなら早く出てって」
態度は少し緩和されたけれど、明香里は相変わらず素っ気ない。
いそいそと部屋に入り、ドアを閉めると妹のベッドに腰を下ろす。
嘆息吐いた明香里は、ノートに視線を落としてシャープペンシルを動かした。
「あのね。一月二日に駅前のショッピングセンターで神楽の公演があるの」
「私、行かないよ」
明香里は、会話をぶった切るタイミングで言葉を挟んだ。
予想を裏切らない明香里の反応に苦笑いを浮かべる。
「分かってる。誘うなら、他の人」
「だったら、花火の人と行けば?」
「花火の人って、直輝君?」
名前を口にすると、明香里は頷く。
館田神社の宵祭りに誘ったときも思ったけれど、青陵祭の花火会場でたった一回会っただけなのに、思いの外、明香里には直輝が深く印象付けられているようだ。
「誘っても、迷惑じゃないかな?」
明香里は肘を突いてシャープペンシルを持つ手を顎に添え、私に呆れた眼差しを向ける。
「そんなの、その人に連絡して返事が返ってこないと分かんないでしょ。悩んでるだけ時間の無駄。ほら、さっさと送る!」
「は、はいっ……!」
妹から発破をかけられ、慌てて文面を作り、画像を添付してメッセージを送信した。
「あ~っ! 明香里~! 送っちゃったよー」
ベッドに倒れ込み、布団の上をゴロゴロ転がる。
何度ベッドの上で転がっても、悶絶したい気持ちは治まらない。
『既読スルーだったら、立ち直れないわね』
マカゲの言葉が、グサリと刺さる。
もし、マカゲの言うとおり既読スルーされたら、私の心は直輝に対して防御壁を作ってしまうかもしれない。
「返事、オッケーだといいね」
転がるのをやめ、珍しく優しい言葉をかけてくれた妹の顔を見つめると、明香里は怪訝そうに眉根を寄せた。
「なに?」
「え? うん……気にかけてくれるなんて、珍しいなぁ~と思って」
素直に思ったことを口にすると、明香里の頬は見る間に赤くなる。
事あるごとに憎まれ口を叩くけれど、私はこんな妹が可愛くて仕方がない。
明香里を愛でて和んでいると、スマートフォンがメッセージの受信を知らせた。
緊張が走り、二人で表示を恐るおそる確認する。
「あ! やったぁ」
直輝から、行く! というメッセージとテンション高めなスタンプが送られてきた。
『まったく……余計なことして』
マカゲの呟きが誰に向けられたものかは分からない。
けれど、とりあえず私は、直輝が了承してくれたことにホッと胸を撫で下ろした。




