実現に近付く目標
修行と勉学の両立は、自分でもよく頑張っていると思う。
答え合わせを終え、赤丸が八割を占めるノートを満足に眺めた。
短大の推薦入試まで、もうあと少し。
これに合格したら、安心して修行に励める。
「理緒ー。勉強どう?」
「あれ? 姉さん来てたの?」
時計に目を向ければ、時刻は午後十時。家に来るのは珍しい。
「父さんに用事があってね」
「急な用事?」
頷いた姉は障子を閉め、襖を開けると私の布団一式を取り出した。
「……寝るの?」
「寝ないけど、畳に寝転ぶのは寒いでしょ?」
だからといって、勝手に私の布団を出すのはいかがなものだろう。
姉は敷布団だけを敷いて、その上に腰を下ろした。
「懇意にしてる仲介業の人から情報が入ってね。ある特殊ケースにリーチがかかったっぽいのよ」
「特殊なケース?」
「そうよ。何年何十年に何回起こるか分からない、レアなケース」
私も敷布団の上に座り、姉の瞳を覗き込む。
「それは、私に話しても大丈夫な内容なの?」
姉は器用に片方の口角だけを上げ、私の額を人差し指で押した。
「期待満々って顔してる」
「だ、だって……!」
出過ぎた真似をしてしまったのだろうか。
恥ずかしさに、顔中が赤く染まっていくのが分かる。
姉は小さく笑い、私の頭に手を置いた。
「知ってる? 私って、理緒に話せないことは絶対に話さない主義よ」
と、いうことは。
「さっき父さんに話をして、了承を得てきたの」
なんの了承だろうかと、胸の中で複雑に混ざり合う期待と不安を呑み込むように生唾を飲んで、姉の言葉の続きを待つ。
姉は私の頭から手を下ろし、人差し指を一本立てて下唇に軽く添えた。
「今回の件がゴーになった場合、私は何年か前に経験してるから、次は理緒に任せてみるのはどうかしら? って」
「それで……父さんは、なんて?」
だんだん、心臓の鼓動が早くなる。
焦らされる沈黙は、不安をあおられるばかりだ。
しばらく私を焦らした姉は、心底嬉しそうに白い歯を見せて笑った。
「任せてみるのもいいだろう、って。無事にオッケーが出たわ!」
「や、やったぁ……!」
父からオッケーが出たということは、私が担当させてもらえるということだ。
姉は私の手を掴み、強引に引き寄せてギュッと抱き締めた。
柔らかな胸が当たって、少しだけ緊張する。
姉は私の頭に頬を寄せ、ふふふと楽しげな笑いを漏らす。
「父さんは、ちゃーんと理緒の成長を見てるわね」
ジワジワと嬉しさが込み上げ、目に涙が浮かんできた。
嬉しくて涙が出てくるなんて、そうめったにない経験だ。
姉の腕の中で頷くと、幼い子供をあやすように、姉は私の背中を優しく擦ってくれた。
「実際に行動を起こすときは、まだいつになるのか皆目見当がつかないけど……やっぱり駄目って言われないように、勉強も修行も今までどおり頑張んなさいよ」
「うん、頑張る!」
決意を込めて返事をすれば、言霊が自分の味方になってくれたような気になる。
いつそのときが来てもいいように、一日一日を悔いなく過ごそう。
それが今の私に、唯一できること。
まず一番に力を注がないといけないのは、もう間近に控えている短大の推薦入試だ。




