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ティップオフ  作者: 朝日菜
紺野うさぎ 前編
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幕間三 囚われのホタル




 いつの間にか外の景色は雪景色から新緑に変わっていた。私は目を細めて、ぎゅうっと強く布団を握りしめる。そんな時にいつも来てくれるのが、大切な家族の松岡まつおかだった。

 コンコン

 今日も大きくもなく小さくもないノック音。


「どうぞ」


 松岡はいつもそうやって私の病室を律儀りちぎたずねてくる。今日もしわひとつない執事服を着こなして、松岡は私のお見舞いに来てくれた。


「調子はいかがですか? お嬢様」


「絶好調よ。このまま上手く行けば、秋には学校に通えるの」


 私は松岡に頼らずに起き上がる。もう一人でも大丈夫、それを松岡に見せつけたかった。

 松岡は一瞬だけ寂しそうな表情を私に見せて、そして嬉しそうに手を叩く。病室だから音は小さかったが、それが松岡なりの祝福のようなものだった。


「そういえばお嬢様、本日女バスは練習試合があるそうですよ」


「そうなのっ?」


 松岡は「はい」とうなずく。

 試合に出れなくても、観戦くらいはしたい。その有無うむを松岡にたずねると、松岡がお医者さんに確認してくれる事になった。


「ありがとう、松岡」


 すると、何故か松岡が首を横に振った。


「いいえ。お嬢様が頑張っていらっしゃるから、私も何とかしてさしあげたいのです」


 微笑んだ松岡はそして深々と頭を下げて、私の病室を後にした。

 季節は五月。

 入部届けを出しただけで一度も顔を出していない女バスは、どんな女バスなんだろう。


 先輩はたくさんいるだろうか。

 お友だちはたくさん出来るだろうか。


 優しい顧問こもんの先生とちゃんと叱ってくれる監督かんとく。頼もしい主将に……考え出したらもう止まらない。

 私はにやけ顔を止めようと努力した。


「っむ、難しい……」


 部活になればもっと努力をするはずだから、ここで諦めないけれど。

 コンコン


「ど、どうぼー」


 変な顔になって噛んでしまった。


「……お嬢様」


 松岡は笑いもしないでそこに立っていた。


「松岡……」


 松岡は無言で首を横に振る。

 私よりも松岡が悔しそうで。

 だから私は大丈夫だよって微笑んだ。

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