幕間二 奏でられない歌
1
太陽が肌を刺す。
私は笑いながら日焼けした少年と色白の少年を追っていた。あと少しで掴めそうな、けれど離されてしまう距離はもどかしくて。途中からは笑わなくなって、一生懸命に追いかけた。
「ソウカー! はーやーくー!」
「二人がはやいんだよー!」
「頑張れ、ソウカー!」
日本語で言葉を交わした私たちは、ある場所にたどり着く。けれど待っていたのは、受け止めきれない現実だった。
そんな現実に黙る私に、二人が必死に話しかけてくれる。
「大丈夫だ! また別の場所探そうぜっ!」
「そうだよ。もしくは、エマがいるグラブとか……」
「嫌! 他の場所もグラブも、私には無理!」
二人の提案を私は拒んだ。
「どうしてだよ」
「だって、私……」
そっと、手を目元に持っていく。それだけで二人はわかったらしく、けれどまだ納得をしていないような表情をした。
「……もう、いい」
私は二人に背中を向けて元来た道を戻る。
私を止める二人の声を無視して、私は泣いた。
「ソウカ! 明日もこの場所で……!」
振り返りはしなかった。
けれど翌日、私は心を傷つけながらその場所に戻ってくる。いつもの時間、いつもの場所。
なのにそこに、あの二人はいなかった。
2
「っえ?」
お母さんが驚きの声を漏らした。私は、泣くのを必死に堪えて告げる。
「……だから、もうアメリカは嫌なの。治らなくてもいいから、日本に帰りたい……」
なのに言葉にした途端、目頭が急に熱くった。目元を押さえてるとボロボロと涙が止まる事を知らずに溢れてくる。そのおかげで泣き顔はお母さんに見られていないけれど、泣いているのはバレた。
「……でも奏歌、本当にいいの?」
お母さんはまだ戸惑っていた。
当然だよね、と思いながらコクンッと私は強く頷く。
「奏歌がそこまで言うなら、帰ろうか。日本に」
お母さんは私が頑固だと知っていて。私が辛い事を知っていて、その答えを出した。
私のお母さんが黒崎麻衣果で本当に良かった。それは、今日ほど強く思った日は他にはないくらいにそう思った。
「……ありがとう」
泣きじゃくって泣きじゃくって、私、黒崎奏歌の帰国が決まった。
そもそも私が渡米した理由は、全色盲という目の病気みたいなものが原因だった。
少しでも良くなるようにという事で渡米した私は、数年アメリカで暮らしていた。だけど、事が起こったのはつい最近。
アメリカでの唯一の楽しみだったバスケが出来なくなったのだ。体がどうという話じゃなくて、単純にコートが使えなくなっただけ。それだけ? と思われるかもしれないけれど、私を絶望へと落とすにはそれで充分だった。
その理由を日本では、買い占めや占領、みたいな風に言うらしい。他のコートを女の私が使わせてくれるわけもなく、私はアメリカでの居場所を失ったのだった。
だからこその帰国だった。
なげやりになって、命の危険はないが治るわけのない病気の為にこれ以上アメリカにはいたくなかった。
「じゃあ日本が夏になった時、一回戻って住む場所とかを決めにいこうか」
お母さんはそう言って、私はそれに同意した。