幕間六 奏でつづける歌
1
私は、物心ついた時からアメリカに住んでいた。
けれども今日、久しぶりに日本に帰国する。日本に来るのは初めてっていうくらい、日本での記憶はなかったけれど、何故かすぐに日本に馴染めた。
「奏歌はこの後、バスケの試合を見に行くの?」
「うん。間近で"全中"を見てみたいの」
「そっか。なら急ぎなさい。試合っていうのはね、一瞬たりとも見逃していいものではないから」
お母さんは言葉でも私の背中を押してくれた。
「ありがとうお母さん」
ホテルにいた私たちは素早く荷物を部屋に置いて、試合が行われている場所へと向かう。
全色盲という、世界がモノクロに見える病気持ちの私にでさえ日本の景色すべてが色鮮やかに見えた。
2
「東雲中対……? お母さん、相手チームは?」
「久留米第一中、ね」
難しい漢字をお母さんに尋ねて、私は自分がまだまだだと思い知る。リーグ戦の第一試合、東雲中と久留米第一中の試合は、初めから私をワクワクさせていた。
「日本のバスケはどう? 奏歌」
「すごい……すごいよ、お母さん!」
お母さんは微笑んで、観客席から思わず立ち上がる私を座らせる。
「よく見てなさい。あの水色のユニフォームの子たちが、貴方の来年のチームメイトよ」
それくらいはしゃいでいたのに、私は黙ってしまった。
「……奏歌?」
心配そうに私の顔を覗くお母さんに、どう言っていいのかよくわからなくて俯いた。
「どうしたの?」
「……私、よくわからないの。まだ、日本に帰ってもバスケを続けるか決められなくて」
アメリカで傷ついたから
日本でも傷つくとは限らない。
それでも足踏みを続けてしまう。
「そんなことを思ってたのね」
「……うん」
どうしようもなくなって、私は星のように輝く五人を目に焼きつけた。
一時の輝きを放つ流星なんかじゃない。随分前から輝きを放ち、今、その輝きを大観衆の前で魅せる五人を。
「……私も、いつか……。続けていれば、あんな風になれるのかな」
「なれるわよ。だからこそ、人は負けてられないんじゃない。……奏歌、明日も来るでしょう?」
「そ、それはもちろんだよ! お母さん、一緒に最後まで見届けようね?」
「えぇ。そうね」
一緒になって笑い合う。
片親だからお父さんはいないけれど、私は幸せで。ビーっと鳴り響くブザーが、試合終了を告げていた。
「すっげぇ……! 東雲だ! 東雲が久留米に勝った! 拓磨さん見えてる?!」
「見えている。そんなに騒ぐな、赤星」
「赤星くんは今日も元気だねー? コトとリンリンを引き入れたんだから、これくらいの成果は出してくれなきゃって俺は思うけど?」
「これくらいで満足してんじゃねぇよ、黄田。あいつらも東雲の名背負ってんだ、優勝くらいしてもらわねぇとな」
「ちょっとナオ。それって僕たちも優勝しなきゃいけなくなるってことじゃん。ほどほどにしよーよー……いだだ?! 暴力禁止ぃ!」
それは同時に、何かの始まりを告げているようで。
「みなさん、お待たせしましたー……っあ、すみません!」
「あ、いえ。私こそ……」
興奮していた私は、東雲の勝利を喜ぶ集団に向かう少年とぶつかってしまった。羨ましくなるほどふわふわな髪質の少年は、何度も謝って集団に戻る。
全色盲で色が見えなくても、私の世界はやっぱり輝いていた。