幕間五 衰弱するホタル
1
「いけません」
「ほんの少しだけでも……!」
「いけません。いいですかお嬢様、私は絶対に譲りませんよ!」
ベッドに横たわる私を見下ろす松岡と目を合わせる。松岡の瞳には絶対に譲れなさそうな覚悟と意志があった。
「お医者様に止められているのをお忘れですか」
「……わ、忘れてないよ」
私は顔を伏せた。
これ以上、執事の松岡と意見を対立させたところで私が勝つわけがない。それがわかっていたから。
「申し訳ございません。本日は全中の予選の初戦という大事な日なのですが」
私は首を横に振った。
「松岡が謝ることじゃない。私がもっと強く生まれていれば良かったのに……」
すると今度は松岡が首を横に振る番だった。
「お嬢様は、本当に大事な部分である心はお強いお方です。ただ、お体の調子がよろしくないだけのことじゃないですか」
「体も強くなりたいの」
「弱くても私が守ります。私とお嬢様が初めて会った、あの日のように」
松岡はそっと、右脇腹を撫でた。そこには今もなお消えない傷跡が刻まれていた。
私と松岡が初めて会ったあの日。
私は祖父母の墓参りの後、車に轢かれそうになったことがある。そんな私を守ってくれたのは、ご両親の墓参りに来ていた高校生の松岡だった。
「……ごめんね」
「いいえ。それが私の、"存在理由"ですから」
私にバスケを教えてくれた松岡は笑った。
私は松岡の台詞が頭から離れなかった。