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二度目の天使の幸福  作者: 右枝
番外編
16/19

イコ兄さんと末っ子2

 別に腹が立ったとかじゃなくて単に暇だったので、三番目のガキをひっつかんで下界に降り、人間の宗教の中心地に放りこんでみた。

「イコおじさんひど…」

「行ってこい」

 羽根をつかんで勢いよく投げたら、ガキは教会の色とりどりの巨大なガラスを突き破って、人間が密集している真上に躍り出た。

 重そうな杖をもったじじぃも、これまたキンキラ重そうな鎧のやつらも、口を開けてガキを見ている。

 ははっ、あいつどうするかな?

 三番目はガラスの破片を払うと、下の人間にむかってヤツの父親よりもっと無害な感じで微笑んだ。


「突然お邪魔してすみません。ちょっとおじさんがヒステリーで」


 あの、ガキ。

 人間どもが歓声を上げたのが意味不明だ。全部殺そっかな。


 そして何故か、杖をもったじじぃの前にいたヘンな飾りを頭にのせた男が叫び出した。

「おおおっ天使族さま! 私を祝福しに来てくださったのですね!!」

 なんだそりゃ。ガキも絶対わかってねぇのに、なんか意味深に溜めてから、


「みなさんに、――善きことがありますように」


とよくわからんことを言って、そんで目くらましの魔法を派手に炸裂させて出てきた。

 人間の声がぎゃーぎゃーうるせぇな。


「なんだそれ」

 飛んで戻ってきたガキに言ったら、機嫌よさげに話し出す。

「それが、さっき叫んだ男の人の隣に、ものすっごく暗い顔をした若い男性がいたんですよね」

「ああ、あの魔力の高い…」

「そうその人。『私を祝福しに』のあたりで隣を殺しそうな眼で見たので、最後の言葉はわざと彼にむけて言ってみたんです」

「――で?」

「何か起こってもいいですし、起こらなくてもいいんです」

「ふーん」

 ガキは肩をゆらして笑っているが、何がそんなに面白いのかよくわからん。

 そしてガキはもう興味を失ったのか、自分の羽根を気にしながら言う。

「見てください。イコおじさんが乱暴につかむからちょこっとここが抜けました」

 知るか。

 わざとなのかガキの羽根が俺の腕にばさばさあたる。

「イコおじさん。僕、熟したエルタの実が食べたいです」

「は?」

「採りにいきましょうよ」

 はぁ? 別に俺も食いたいから行ってやってもいいが…。

「なんかお前調子にのってないか?」

 ガキは「え?」って顔して首をかしげたけど、確信犯だろ。


 エルタの群生地がちょっと魔族の勢力圏にかすってたらしくて、三個目の実を食ってたら魔族三匹と遭遇した。

「よ、やってくか」

って手をあげたらノリが悪く、ヤツら逃げの体制に入ってやがる。

 中央の髪が長くて目つきの悪い魔族が、えらく慎重に口を開いた。

「エアターラの一族か…?」

 なんでか親父の名前が出てきたぞ。

「まぁな」

 親父を知ってて俺を知ってるってことは、こいつそこそこのとこにはいるな。中の上ぐらいか? よく見りゃ顔に覚えがある気もする。

「ここは退く。ヤツの幼子を手にかけるのは避けたい」

 はぁ? 誰が幼子だと思ったが、三番目がいたことを思い出した。そういや、いまやったらこいつがまっさきに死ぬわ。

「そっか? 別にいいけどコレは親父のガキじゃないぞ。コイツの親父は青魚みたいな髪の変態だ」

 と言った瞬間に、魔族たちがものすごい速さでその場から跳び下がった。

 限界まで目をあけて、小刻みに揺れる指でガキを示して叫ぶ。


「あ、あ、あ、あの異常者の子供か!?」


 魔族すげぇどもってるぞ。まぁこいつ、あいつと全然似てねーしな。

 母親のしつけの賜物だろう、ガキは殊勝にも頭を下げた。

「お父さんがご迷惑をおかけしてます」

 どうでもいいけど、そこは父が、だな。ほんとにどうでもいいけどな。

「お」

「オト……」

「嘘だ!!」

 嘘だってなんだよ。

「あ、あの、天使族の皮をかぶったオルゼに、こんなまともな子供が生まれるわけがない!」

 そりゃ母親の血だ…。

 ガキが俺の服の裾をひっぱってきいてくる。

「イコおじさん。オルゼってなんですか」

「あぁ…なんだ、やつらの神話で言うところの、最もよくない、めちゃめちゃな、会ったら死ぬみたいな魔物だな」

「お父さん…」

 悄然と、眉と羽根を下げたガキを見て、また魔族が喚きだした。

「ヤツの息子がこんなにかわいいはずがない!」

 とんだ爆弾発言をして逃げやがった。あの野郎。

 遠くでさらに魔族どもが叫んだのが聞こえた。

「気が狂いそうだ!」

 そして魔族はいなくなった。なんかこう、むなしいな。


 帰る途中で、両手にエルタを抱えたガキがつぶやく。

「あんな騒ぎだったのに、上の兄さんぜんぜん起きませんでしたね」


 マジで一瞬、なにを言われたか分からなかった。

「えっ…? いたか?」


「エルタの木の上に、ずっといたじゃないですか」

「あの寝てたやつが? 魔族かと思ってた…」

「上の兄さんは髪が黒いので、まぎれるんですよね。ちゃんと羽根はあるんですけどね…」

 ……紛れるのか。ついふり返ったが、当然エルタの木も、一番目のガキも見えなかった。

「すげぇな…」

「僕は魔族の方たちのほうがすごいと思います。一度お母さんを手にかけて、未だに一族が残ってるんですから」

「…まーな」

「お父さんまだ僕らに『お母さんの羽根を眼の前で魔族にもがれた時の話』をしますからね」

 すんなよ…ガキ相手に。

「あのガキもしつけーな…。実質殺したのはウチのほうなんだけどな」

「魔族も天使族も、お父さんを敵にまわして生き残ってるんだから、やっぱりすごいんですよ」

「そーかもな」

 もーいっそあっちとこっち合同で、あのガキやったほうがいいんじゃないかと思う。


 あーあ…しかし人間はたいして面白い反応しなかったし魔族もやりそこねたし、熟したエルタは美味かったけど、今日はつまんねぇ日だった。

「今日は楽しい日でしたね。イコおじさん」

 ガキがまたその小さい羽根を当ててくる。鬱陶しい。

「そうか?」

「明日は金王種の隠れ里に行ってみましょうよ。僕、竜を見てみたいです」

「それはやめとけ。マジでシャレにならんから」

 あいつらはアホみたいに強いから、楽しむ間もなく殺されるぞ。

「そうなんですか? なら雪狼種の子供を探しに行きましょう。本で読んでからずっとさわってみたくて」

「あーアレな…」

 絶滅寸前だけど、探せばまだいるか?

「約束ですよ」

 てきとーに頷いたらガキは満足そうに笑った。


「明日が楽しみですね」


 別に俺はそうでもない。



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