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二度目の天使の幸福  作者: 右枝
番外編
15/19

イコ兄さんと末っ子

 

 木の枝に座っているガキのガキを見つけた。末の三番目だ。

 こいつは滅多にないぐらい髪が白くて眼の色も薄くて、なんつーかすげぇ人間うけしそうだ。たぶん人間の教会に放りこんだら面白いことになる。ちなみに俺が言うのもなんだが、人間が俺らを信仰しているのはおかしいと思っている。


「あ、イコおじさん」

 俺に気がついた三番目はこっちに手をふってきた。なんでかこいつは顔が俺に似ている。

「よ。クロティラは?」

「お母さんはお父さんが連れていっちゃいました。そのうち弟か妹ができるかも」

 ――――あのガキ。やっぱ殺しとくか。

 てかこっちのガキはまだ六、七歳だったと思うんだが、なんでこんなませたこと言ってやがる。

「あの、イコおじさんに相談があって」

 顎をしゃくって促したら、ガキは小さい声で話しはじめた。

「なんだか最近、お父さんが僕らを見る眼があやしくて」

「は?」

 クロティラ以外を世界のゴミだと思っているあの気狂いが?


「いつか殺されそうな気がするんです」

 ……そっちか。いくらあいつでもそれはないだろ。たぶん。

「おじいちゃんにも相談してみたんですけど…」

 ちなみにこいつが最初に親父を「おじいちゃん」と呼んだ時の、ヤツの愕然とした顔は忘れられない。俺はアレで一生笑える。

「で?」

「僕の横を見て、上のほうを見て…それから、魔族の方に喧嘩を売りに飛び去って行かれました」

 まぁそうだろう。

「ヤツにあんまり難しいことをきいてやるな」

 三番目は子供らしからぬ溜息を吐いて言った。

「どうしましょう。僕一人でお父さんに反撃したって五秒ももちませんよ。上の兄さんは寝てばかりだし、下の兄さんはおじいちゃんと同じで刹那を生きてるし」

 こいつも天使族らしくないな。クロティラとはまた違うが、あれこれ考えて生きてる感じがする。


「たぶん上の兄さんだけは大丈夫でしょうけど…」

「は? なんでだ」

 外も中も、どう見てもあいつが一番ガキに似ている。もしガキがトチ狂ったとしたら、一番最初に殺すのはあいつのような気がしてた。同族嫌悪で。

「だってお母さんと髪の色が近いでしょう? お父さんてお母さんフェチだから、上の兄さんだけはとっておくと思うんです」

 フェチってなんだ。こいつ賢いな。

「知ってます? お父さん、お母さんの抜けた髪をコレクションしてるんですよ」

「後で燃やしとくわ」

「あとお母さんの食べた後の果物の種を拾って、こっそりそれを食べてます」

「気持ちわり」

「この前はお母さんが寝てる間にお母さんの昔の骨を取り出して、お母さんの横に並べてぼんやりしてました」

「それも後で燃やしとくわ」

 まだあったか。最近あのガキが得体のしれない生物に思えてきた。


 三番目は妙にきれいな眼でこっちを見上げてくる。

「イコおじさん。僕と下の兄さんが突然いなくなったら、お母さんには僕らは長い旅に出たって伝えてくださいね」

「いや、その前にクロティラに言えよ」

 こいつこの歳で悟ってるぞ。大丈夫かおい。

「そんなことしたら、僕は一瞬でお隣とそのお隣のご家族の二の舞です」

「それは知ってる。ってかお前よく知ってんな」


 最近この柱の隣とその隣の一族は全滅した。

 俺や親父も関係してねぇわけじゃねーけど、ほとんどはあのガキがやった。しかもクロティラの見てないところで巧妙に。このガキが言ってるのはそれだ。

 ちなみに隣のやつらは別に何かしてきたってわけじゃなくて、ただの保険だ。


「まぁ…なんかあったら俺か親父を盾にしてうまく逃げとけ。歳くってるだけあってそう簡単には死なねぇし」

「はい」

 ここで素直にはいって答えるのが、このガキとクロティラの最大の違いだな。

 まぁ俺はだいぶこのガキを気に入ってる。本気で盾をやってもいいと思うぐらいに。


「あ、おじいちゃん」

 その時偶然、親父が空中を通りかかった。

 親父はぎょっとしたように三番目のガキを見ると、真後ろに跳ねてから直角に飛んで逃げた……こいつが苦手なんだな。

 しかしヤツの動きが面白すぎる。俺は腹を抱えて笑った。

「あ、あれ、お前…」

「なんで僕は、おじいちゃんにあんなに嫌われてるんでしょうか」

「な、なかなかねぇぞ。すげぇな、お前――」


 あれ? こいつの名前を頭の中で探してみて、そもそも覚えていないことに気がついた。

「そういやお前の名前なんだっけ」

「……」


 ビミョーな空気になった。

 口に出してからなんだが、ちょっとはわりぃなと思っている。

「レイリアです…」

 ガキがなんか言いたそうに口ごもっている。言えよ。

「イコおじさんって…」

「あ?」

「お母さんのことすごく好きですよね」


 はぁっ!? 


「おい、なんでそうなる」

 クソガキはやれやれと言わんばかりに深い溜息を吐きやがって。こいつ…。

「おじさん。お母さん以外の誰かを、名前で呼んだことありますか」

「………」

「ね」


 なにがね、だ。なにが。ガキは首をかしげてもう一度言った。

「ね」

「かわいくねぇガキ」

「ごめんなさい、イコおじさん」


やっぱりこの首ねじきろうかな。



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