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二度目の天使の幸福  作者: 右枝
本編
10/19

10

 眼を疑った。


 空から白い鳥のように、舞い降りてくる。

 もしや――いや、間違いない、あの時の天使族だ!!


 妖精族の偵察を見たという警告を教会から受け、空を警戒していた。そこで全く別の巨大な気配がひっかかり、ついに街の外れ、城壁の外で見つけたのだ。


 全身に震えが走る。

 まさか、まさか、まさか、俺を探して…?


 天使族は街の外に一本だけ立った木を目指して降りていく。

 木の下に、何かがいるようだった。あれは人か……?

 距離が離れすぎていて確かではないが、子供…髪の長い少女のように見える。

 紺の髪?

 なにかが脳裏に閃いたが、それは驚愕に塗りつぶされた。


 その少女と天使族の男は、確かに言葉を交わしていた。

 天使族とは、人と会話をする生物なのか?

 魔族の首を飛ばしたあの天使族の男が、口を開き、少女の言葉に反応する。

 天使族の気配は凪いでいた。


 遠く離れたその場所を、絵画の中のごとく眺めるほかなかった。

 俺はそこに一歩も立ち入ることができない。


 天使族の男はすぐにまた飛び立った。

 空よりしばらく眼下の少女を見ていたその天使族は、ふり切るように飛び去り、空の中に消えた。

 後には木陰に少女が残された。

 少女はそれを見送ると木陰から抜け出し、街へと歩いてくる。


 その姿を見て鮮明に思い出した。

 教会の、あの時の子供だ。

 少女は俺に気付くこともなく、何事もなかったような顔で路を歩いていく。

 俺のこの感情は?


 少女を追いかけて、すべてを問い正したかった。

 それどころかあの少女を切り捨ててしまいたかった。


 俺のこの感情は。

 この感情は。

 俺は、あの少女が――――妬ましかった。




 あれ…親父が腕なんか組んで考えこんでるよ。


 しかもよりによって、ガキの住処の上だ。親父ってあのガキには毛ほどの興味もないと思ってたけどな。

 それより親父…頭を使うなんて高尚なことできたんだな。ちょっとびっくりした。

「あんたなにやってんの」

「………」

「孫見に来たか?」

 冗談だったんだが、すげぇ嫌そーな顔をした。そんなに嫌がんなって。

 親父はしばらくだんまりで動かなかったから、刺してみようかなぁと剣を抜いたらようやく言った。


「八番目を見た」


 八番目?八番目って―――おい、クロティラか?

「……親父」

 俺は精一杯優しげな声をつくって言ってやった。

「クロティラは死んだだろ」

「見た」

「そっか親父、ボケたのか。けっこういい歳だもんな」

「………」

 なんてこった、何も言い返してこない。

「ま、最悪でクソみたいな親父だったけど、ようやく死ぬと思ったら、そうだな…」

 心底どうでもいいや。

「………」

 なんか言いたげだった親父は、四、五発魔法ぶっ放してから黙ってどっか飛んでった。

 どうしたどうした、なんだ今の気の抜けた攻撃は。ほんとに死ぬのかな。


 なんか羽根がぞわっとしたと思ったら、いつの間にか下から、ガキが不気味な眼でこっちを見てやがった。

 そして危ない感じに眼を細めた。

「やっぱり」

 なにがやっぱり?

「クロティラは生きてたんですね」

 …げろ。

「…おい、親父がボケただけだ、本気にすんなよ」

「ようやく僕に逢いに来てくれるんですね」

 ――やべー、ただでさえ壊れてんのにどうすっかな、面倒だな。

「でも、こんなに待っているのに…どうしてすぐに来てくれないんでしょうか」

 ガキの気配が数十倍に膨れ上がって、大魔法の発動前みてぇになったが、実際は感情が高ぶっただけだ。あー王族はこれだから…。

「そうか!あの時羽根がなくなったからクロティラは飛べないんだ!」

「……」

「僕が迎えに行ったら、きっと驚いて、喜んで…」

 あ…なんかわかったような。

「またあの声で、名前を呼んでくれるでしょうか」

 俺はガキの眼を真正面からのぞきこんで確信した。

「あのさ、おまえほんとはちゃんとわかってんだろ」

「はい?」

「死人が生き返るわけないって」


 喜色満面って顔が、さっと能面になる。

「お前さ、狂ったふりしてても、実は正気だろ。で、必死で壊れたふりしてんだ。あいつが死んだのが嫌で」

 ガキはしばらくじっとこっちを見てたけど、またにっこり笑って

「クロティラを迎えに行かないと」

って言って飛び下りて行った。どこ行くつもりなのかは知らね。


 あーあ…面倒だな。

 命張ったクロティラの手前、今までやらなかったけど、いっそ一思いに殺してやるのが親切かもな。


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