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二度目の天使の幸福  作者: 右枝
本編
1/19

1 お父さん

「へえ、変な色」


 生まれ変わって産声をあげて、はじめてかけられた言葉でした。

 えらく綺麗な金髪の男の人が、私をのぞきこんでそう言ったのです。

 え、お父さんですよね?


 ぴぃぴぃ


 私はかわいい声で、お父さんにひっしのアピールをします。

 これは親の庇護をさそう声でですね、聞いた親はコロッと…

「しかしダメだな。弱い個体だ」


 お父さんは飛び去りました。


 背中に羽根があるので、空へと羽ばたいたお父さんはあっという間に見えなくなります。

 …うわ、本当にもどってきませんよ。


 生まれて三十秒、これは大変なピンチです。…何が悪かったんでしょう。はやばやと父親らしき人物に見捨てられてしまいました。

 現在全裸ですけど、えーと、どうしようかな、どうしようかな。ピィピィ鳴いても誰もやって来ませんねぇ。

 手足に力をこめると、背中がばさばさと騒がしくなり、羽根が動きました――――気づかないふりをしてきましたが、お父さんと同様に、私の背中にも羽根がついているんですよね…。

 その羽根の固くなっている突起部分で卵を割って出てきたときからうすうす感づいていたんですが…。生まれ変わったら、人間じゃなくなっていました。

 なんだか捨てられたことよりショックです。


 ちなみに後から判明したのですが、私が生まれ変わったこの種族は天使族といい、背中にある鳥のような白い羽根が最大の特徴です。

 淡い色素の美男美女ばかりなので、私のように濃紺の髪の毛というのはちょっと異端なのでした。それでお父さんは、出会い頭のあの印象的なお言葉をくださったわけです。


 私はしばらく羽根を動かして驚きに浸っていましたが、寒いので風のあたらないところに這いずっていくことにしました。

 羽根だけは器用に動くので、羽根で地面を這って動きます。

 あー痛い、あー寒い。

 生まれて数分でこの仕打ち。こんなとこでやっていけるかな…。


 たどりついた草むらの中にもぐりこんで、身体を羽根で覆います。

 じっと動かずにいると、寒さと心細さが和らいできました。

 うーん、羽根ってすばらしい。

 温風のようなじわりと温かいものが染みだして、身体を守ってくれるのです。

 このまま死ぬにしても不思議と悪くない気分で……いや、このまま死んだら、なんのために私の記憶をもって生まれてきたんでしょうか。しかし前世の経験をもってしても今後生き残るイメージが少しもわかないような……。


 ま、まあ、こんなこともある。

 うとうとしてきたので、もう起きないかもしれませんが、私は寝ます。




「…生きてるのか?」


 あ、お父さん、お久しぶりです。

 数日ぶりですね。


 お父さんは口元に手をやって私の生存を確かめると、ちょっと驚いた顔で、「へぇ」と言って、私の羽根をつかんでもち上げます。あ、ちょっと、気安く触らないでください。


「これは…治癒か。珍しい」

 はい?

 お父さんは羽根を触ってなにかを確かめるようにしてから、こう言いました。

「お前、死なないと思ったら、自身に治癒をかけていたな」

 なんのことやらわかりませんが、死なないと思ったらって…。

 お父さんあなた、人間だったらクズですよ。


「ふぅん、面白い、変わってる」


 お父さんは今度は私の羽根をつかんだまま飛び上がり、空を飛んで移動しま…もげる、もげる、もげる。

 それにしても空の上は寒いなぁ。全裸だからなおさら骨身にしみるようです。


 けれど見下ろした世界は綺麗でした。


 眼下には大きな柱のようなものがたくさんありました。

 ただその柱がちょっとたとえが思いつかないぐらい巨大なのです。

 柱の上にも木がしげって、いくつも建物があって、どうしてか川さえあって、水が端から地面に落ちていきます。

 そんな柱が何十本も視界を埋め尽くすように並んでいて、お父さんと私が飛び立ったのも、そのうちの一つでした。


 まるで天国みたいです。


 お父さんは高く飛んで、空に届きそうな柱のうちの一つに降りていきました。

 木々の下に朽ちかけた神殿のようなものが見えます。わぁ…立派な廃墟。

 お父さんはずかずかと中に入っていきますけど、あの、天井が崩れてるんですけど…。

 建物は広くて、部屋数がどれだけあるのかもわかりませんでした。

 天井や壁に穴が少ないという意味できれいな部屋へとくると、お父さんはポイと私を放り投げ、すたすたとどこかへ歩いていきます。

 育児はしていただけないようなので、このための前世の記憶だったのだと思うことにしました。そして私は赤ん坊のふりをやめ、以前から気になっていたことを、 その背中に聞いてみます。

「おかーさんは?」

 お父さんはちょっと立ちどまって、私をふりむいて言いました。

「お前を産んで死んだ」

 そしてまたお父さんはいなくなりました。


 そうか、お母さんはいないのか。

 そっか、いないのか…。


 ここが違う世界で、私は一人だと、もう一度自分に言いきかせました。


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