短編1
少し、この完璧な国について話をしよう。
この国は全てにおいて完璧、完全な国だ。いや、こう言うとやや語弊があるかもしれない。正確にはまだ不完全なのだが、それも含めて1つの完成された世界ができている。衣食住全てがそろい、やりたいことをとことん追求でき、何不自由なく生活できる。ここは人類の桃源郷、永遠の楽園なのだ。実際、私も日々を快適に過ごさせてもらっている。何故そんな夢のような生活ができるのか。それこそが、ここがまだ不完全である理由だ。不完全であるということは、まだまだ改良の余地があるということだ。つまり、この完璧な国をあえて不完全、あるいは未完成とみることで終わり無き成長を続けているのだ。この国は曖昧や否定さえ許容し完全の一部とする。白黒はっきりさせず、曖昧にする適当さも持ち合わせているとは驚きだ。
さて、そんな理想郷を創ったのはとある少年らしい。その少年は、今私が泊まっているこの宿のある町で生まれた。まぁ、小さい頃からいわゆる天才だったらしい。頭脳明晰才色兼備、伝説は数知れないが、1番有名なのはこの街を作った時のことだ。彼がまだ12歳の時、このあたりも戦争に巻き込まれ、故郷を離れなければいけなくなった。そこで、世界の実状、戦争の虚しさを目の当たりにした。彼は世界を憂いた。
ーどうしたら世界は平和になるんだろう。
そうして、その少年は平和の縮図、今のこの街の仕組みをなんと一週間で書き上げた。彼は自分の設計図を、町長や知り合いのつてで各国の首脳達や組織のリーダーに提出した。もちろん、誰一人まともにとりあう者はいなかった。天才といえど、この戦争は個人の力ではどうすることもできないのだ。いや、できないはずだった。いやはや彼のカリスマ性と実行力には畏敬の念を抱くよ。彼は世界中を廻り、技術者や科学者にこの考えを広めた。最終的には街ひとつ造れるまでに集まり、この計画を実行することとなった。創り終える頃には戦争は終わっていた。人々は驚愕した。それはそうだろう。自分達が戦争で必死になったり、貧しさに喘いでいる時に、いつの間にか出来た要塞都市の中で平和で幸せな日々が築かれていたのだから。各国の編入の申し出や攻撃を一切拒絶し、それはもはや街ではなく国と化した。彼は王となった。仕組みや整備がひとしきり終わり、街が自ら機能し始めたのを見届けると、彼は何処かに消えた。殺されたとも、街に潜んでいたとも伝えられている。その街は以後100年程、度々起こった戦争にも屈することなく、平和を守り続けた。
実は先日、私はその少年に会った。そう、殺されたのなんだのというのは全て真実ではなかったのだ。彼はその若さを保ったままだった。一瞬亡霊かと思ったくらいだ。100年たったというのに全く伝承通りじゃないか、神にでもなったのかと私は聞いた。すると彼は、
「いやいや、とんでもない。神になるなんてそんな恐れ多いことなどできない。僕はただまだやりたいことがあるからね、ちょっと裏技を使っただけだよ。」
なるほど、12歳にして街ひとつ創る天才少年だ。不老不死など容易いに違いない。ところで、やりたいこととは一体なんだろうか。人類の研究でもするのかね。
「不死ではないよ。死ににくいだけ。まぁそんなとこかな。この街の行く末も見ていたいしね。」
私がまた口を開きかけた時、彼はふと思い出したようにもうこんな時間だ、と呟くとふらりと何処かへ行ってしまった。
さて、今日は世界が終わる日。彼が創ったこの街が一体どうなるのかー私は少し楽しみだったりする。