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第七十七話 風詠みの都・拾

 星一朗達一行はそれぞれが疲労の色を隠せないまま、

16時発の浅黄市行きの鈍行列車の座席にようやく腰を下ろした。

幸いにも乗客は多くなく対面座席で全員が座ることができた。

心霊現象のような不可思議に状態を経験したセシルや恵玲奈は特にぐったりしていた。

列車に乗る前に手に入れていたお茶を少し口に含んだ後、

セシルと恵玲奈は目を閉じて数分で静かな寝息を立て始めたのだった。


「よっぽど疲れていたんだな……。」


それでも元気な人間はいる。今回の企画人、鷲谷悦郎だ。

彼は今日あった出来事を決して忘れぬよう持ってきていたノートに

びっちりとイラストや表を使用して記入している。

走り出したペンが止まらないとでも言おうか、書きながら思い出しているのだろう。

途中であれはどうだったか、と星一朗や泪に問いかけたりもしていた。

たぶん大学の講義でもあそこまで綿密にノートに書くことはないだろう。

隣に座って目を閉じていた泪は呆れ顔で悦郎に話しかける。


「ねぇ、悦郎君、あなたは疲れていないのかしら?」

「いや、見た目よりは疲れてはいるが、そこな二人のように疲れきってはいないだけだ。」

「口ぶりとペンを走らせる速度が一致しないと、こう気持ち悪いものなのね。」

「ひと眠りする前に一通り書き留めておかないと後悔しそうなんだ。

 そういう泪さんも疲れているようだ、浅黄まで数十分あるわけだし寝ていればいい。」

「お言葉に甘えなくても、元よりそのつもりだけど……星君?」


 星一朗は列車の窓から流れゆく風景を見つめていた。

ただすでに夕暮れ時、薄っすらと見える程度で星一朗も別段風景を見たいわけではない様子だった。

今日起こった様々な不可思議な現象、子孫に代々語り継がれてきた悲劇……、

理解することは到底難しいだろうが、受け止めることはできそうだと星一朗は思っていた。

阿里沙へどう話そうか、そればかりが彼の脳裏を駆け巡っている。

白雀神社の件が最も理解に苦しむ超展開だったわけで、

あれは何故セシルに憑依したような状態になって言葉で伝えようとしたのだろうか。

感受性が高かったからか、単に気まぐれか、今となっては永遠の謎である。

昼食を取った食堂でセンブリ茶飲ませたあとにセシルへ憑依状態の件を聞いてみたら、

『もぅ、しばらく無理ぃ……。 怖いれすぅ……。』

とか飲んだくれみたいな口調になって怖がっていたのを星一朗は思い出してしまった。


「……(ありゃ当分ホラーゲームとかできんな)」」


 何よりセシルを滅入りさせたのは、その時の記憶が一切残っていないという事実。

後から周りから、あーだったこーだったと聞かされるのは文字通り気分は良くないだろう。


「ん? なんだよ、俺の顔に何かついてんのか?」

「星一朗、お前も寝ておけ。」

「悦郎君の言う通り。

 普段はインドア人間なんだから、明日身動きが取れなくなっても知らないわよ。」

「俺さ……。」


 一呼吸おいて星一朗は続ける。


「阿里沙さんに今回のことは、”ある程度”掻い摘まんで伝えようと思う。

 問題はあの人の好奇心の高さだ。

 あの人のことだ、適当に話したら自分で正解に辿り着きかねんし……。」

「随分と真面目な顔をして何を考えていたのかと思えば……。」


 悦郎はペンを置いて一笑にふしたあと、言葉を続けた。


「腐れ縁をなめるなよ。

 オレはお前の判断に従うさ、と言うよりそれ以外はオレも考えられない。

 当主も言っていたように、この話は公にしていい話ではない。」

「私も星君の提案に賛成。

 世の中にはそっとしておくべきものはあると思うし。

 阿里沙さんへの説明は私達も口裏合わせるわ、そのほうは信憑性も高まるでしょうし。」


 持つべき者は、考え方を共有できる友人達か。いやただの腐れ縁か。


「悦郎と泪が手伝ってくれるなら何とかなりそうだ。」


********


 ここはいつもの喫茶店【箱庭】。

客足も少なくなる夕暮れ前の冬の日、星一朗は阿里沙に呼び出されて普段は座らないテーブル席に、

阿里沙を対面にしながら座ってブレンドコーヒーを啜っていた。

傍らには口裏合わせ済みの頼りになる悦郎と泪も同席。

竜二は今日は珍しい組み合わせだね、と言ってニコニコしていたのは言うまでも無い。


「ごめんね、出来れば旅行から戻ってきた翌日辺りに聞きたかったんだけど、

 どうしても仕事上外せないスケジュールの変更があってね。」

「いや、それは良いっすよ。 うちらもちょっと学校関係でタイミング合わなかったし。」

「そうなの? じゃあ丁度良かったわね。

 で、早速なんだけど悦郎君とかレポートまとめてたって話じゃない。

 お話ついでにそれとか見せてもらえると嬉しいんだけど!」


悦郎は鞄からファイリングされたA4用紙を数枚テーブルの上に置く。

阿里沙がレポートに手を出した瞬間、悦郎はバツが悪そうにレポートについて口を開いた。


「あー、レポートについてなんすけど、

 ほら学業の為に行ったんで成果物として教授へ提出してるんですよ。

 なんで全文は残ってないんですけど、提出前に書いた下書きとかしか手元には。」

「いいのいいの、単に資料として見たかっただけだし、

 学生のレポートをそのまま引用したりしないわよ。

 引用とかしたらライターの名折れというか、業界追放というか、それダメなやつだし。」

「私は写真でしたよね、取りあえずプリントしてきましたよ。」


 テーブルの上に悦郎お手製のA4用紙に書き殴られたレポート(偽造下書き)と、

泪がデジカメで写されていたデータのプリントが並んだ。

レポートについては重要な部分は削除済み、

そのまま出すのも怖かったので実は一度浅黄家にも確認を取っている。

写真については事前に全員でデータをチェック済み、

浅黄一族絡みで写ってはいけないものは写っていないはずである。

ちなみに見る人が見れば、心霊現象的な何かは写っているとかいないとか。


「で、白雀神社の写真がこれね。 うっわ……なんかここ発光してない?」

「……玉響現象とかってやつですかね。 あー、本当だ、光ってますねー。」

「こっちにも写ってる! 何か別方面で特集組んだ方が数字取れそうね……。」


 微妙にワザとらしく言う悦郎。少し気になったのか泪が悦郎を小突く。


「こっちは見せてもらった文献の写真です。」

「文書系は専門家の先生に任せるとして……絵巻物は何か良さそう。

 見た感じおとぎ話の1シーンか何かかしら?

 龍が出ているし、人々が助けを求めているようにも見えるわね。」

「聞いた話によるとあの地域のおとぎ話らしいですよ。

 ただ、誰が書いたのか不明だそうです。」

「へぇ、正体不明の絵師による絵巻物かー。

 一応もらっておこうかな。」


 阿里沙も持ち込んでいたノートパソコンでタイピングしながら、画像はすぐ取り込んだりしている。

その顔はまさに仕事人、当然エディタソフトも立ち上げていたのだろうか。

画像を取り込みつつ同時に記事を作成している様子だった。


「あー、ごめん。

 さっきの宮司さんのインタビューしたところもう一回お願い。

 地元の人達は神社の祭事をかなり大事にしているというあたりね。」

「あ、はい。

 えー、伺った限りでは季節毎に祭事をやっているらしいんですが、

 特に冬の祭事は一年のまとめとして機能しているようで、

 地主の方や周辺の住民の協力を得て厳かに粛々と行うそうです。」

「神社の祭事って別に珍しくはないけど、

 他のところよりも儀式部分でかなり気合いはいっている、ってことかしらね。」


 あれこれと説明しながらゆうに2時間以上話しただろうか。

満足がいったのだろうか、阿里沙は立ち上げていたノートパソコンを閉じて、

すでに冷めて切ってしまったコーヒーカップに口をつける。


「ありがとう、コーヒーが冷えきってしまうまで付き合ってくれて。

 おかげで良い情報を得られたわ。

 色々こちらでもらった情報を精査してからになると思うけど、

 近いうちに雑誌に載ると思うから……そんときは連絡するわね。」

「いえ、しかしなんでまたこんな特集を?」

「編集長から変化球が欲しいって意見がこの前の編成会議で出たらしくてね、

 私の担当から依頼があったのよ。 何か無いかってかなり大雑把に。」

「へ、へぇそうなんですねぇ。

 (どう考えてもゴシップ雑誌の特集だな。

  阿里沙さんには悪いがガチな情報を提供しないで正解だったぜ)」

「じゃあ、私は早速これを清書するからお暇するわね!

 竜二君、彼らのコーヒー代は私につけておいてね!」

「あいよー。」


 慌ただしく阿里沙は【箱庭】を後にした。

残された星一朗達は、ふぅーっと深く息をする。

何とか隠しきった達成感でほっとした様子である。


「何とか……なったのかなぁ、と。

 ったく阿里沙さんはやっぱり手強いぜ……聞いてくる内容に容赦がないって言うか、

 マジ肝が冷えたっつーか。」

「ふぅ……オレは大上さんのあのキリっとした表情、嫌いじゃないぜ?」

「誰もそんな事は聞いてないわよ……私、暖かいコーヒー改めてもらおうかしら。」

「お疲れ様だね。 阿里沙さんは仕事となると手加減なしだからねぇ。

 ああ、さっき彼女も言っていたけどお勘定はもらっているから、

 オカワリとか気にしなくていいよ。」


 これを持って悦郎が企画した小旅行は終了したのだった。

まさかこのような展開になってしまうとは誰も予想していなかっただろう、と

他人事で思いながら星一朗はコーヒーを啜るのであった。


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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