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第七十六話 風詠みの都・捌

 現浅黄家当主は昔話を語った。

どの文献にも載っておらず、ただ一本の絵巻物だけに記された昔話を。


 古よりこの地は度重なる天災に見舞われてきた。

巨大地震に原生林を焼き尽くす山火事、一帯を水没させるような大洪水、

当時の人々は口々に呪われた土地だ、と恐れていたという。

客観的に考えればそんな危険地域に人が集まるわけがないのだが、

災害が多いからこそ成しえる豊穣なる土地がそこにはあった。

他の地域とは比べ物にならない肥沃の大地は、民だけではなく為政者達にとっても魅力的だったのだ。


 天災が多かった理由は地形的な要因もさることながら、風水的要因が主因と言われている。

とにかく山の配置、湖の配置、谷の方角、

それぞれすべてが”良くない気”を集めやすい状況になっているという。

専門家に言わせればお手上げなのだそうだ。


 その事実に気づいた時の権力者達が動かないわけはなく、

合わせて人災も多発するようになっていったのは言うまでもない。

荒れに荒れたその時、人身をもって、力づくでこの土地を安定させたのが

東より流罪となって居合わせた『浅黄一族』なのである。


 当主の言葉に一同黙り込む。どこまで事実なのだろうか。

それとも全部虚言なのだろうか。

それにしても流罪とは当時の罰レベルで考えるとなかなか大きなものになるだろう。

星一朗は挙手をして流罪の件で当主に問う。


「流罪……? 何か悪さでもしたんですか?」

「失礼だぞ、星一朗。」

「いや、構わないですよ。

 普通はそう考えるものですしね。

 正確には罪人だったからというよりは、

 時の権力者にとっては反体制側だったこともあってね改易されてしまったんです。」

「改易ですが……では大きな戦いに……?」

「そうなりますね。」


 流罪となってこの地にやってきた『浅黄一族』はかなり慎ましい生活をしていたようで、

農耕に勤しみ物静かに時を過ごしていたという。

だがその静かな時も長くは続かなかった。

夏の大干ばつ、秋口の大嵐に大洪水が続いたその運命の年、集落の半数近くが死に絶えたという。

あまりに酷い状況を苦慮した時の権力者はこの地に識者を派遣、原因究明に取り掛かったのだという。


 セシルは当主の言葉を補足するように言った。

セシルは見ての通り勉強家であり、歴史ゲーム大好きっこでもある。

当主の言葉にうんうん相槌を打ちながら聞いていた。

泪もセシルに合わせるように言葉を続ける。

各々、考えていることを口に出したかったようだ。


「……あの時代で識者といっても科学者や学者はほとんどいませんからね。

 僧侶や陰陽師など、政治に口を出せる者たちが該当すると思います。

 安倍晴明や賀茂忠行なんかが出てきますよね。」

「そうね。

 派遣された陰陽師だか僧侶だかが有能だったゆえ、

 この土地のやばい状況がはっきりとわかったわけか……。」

「仰る通り、この地の危険度が都でも知るところになったわけです。

 どういった経緯があったかは知れませんが、

 我が一族に白羽の矢がたったのは事実です。

 ”一族の子女の生命を以て鎮めよ”と、さらにこうもあったそうです。

 ”命に準じれば恩赦もあるだろう”とね。」

「ひどい話だ。」

「日々の生活に困窮していた我が一族はその話に乗ったわけです。

 犠牲以て土地の安寧を成した一族、

 この土地で我が一族が奉られているのはそういった歴史的背景があるからなんです。

 土地のためというよりは自分たちが助かるためにやったこと。

 状況は状況ですが、胸を張っていられるようなことがあったわけじゃないんです。

 悪い言い方をすれば”口減らし”だったのかもしれません、まあ推測ですけどね。」

「なるほど。」


そう言って悦郎は言葉を続ける。


「つまりこの地、四方と中央に災いを鎮めるためのかんなぎを置いた。

 それを実行したのが正順公の代、犠牲を払ったがゆえに効果は絶大。

 結界は見事完成し土地は術式的に平定された……即ち繁栄の祖か……。」


 くぅっと言って目頭を押さえる悦郎。

感動するのは構わないが一人で勝手に納得していくのはどうかと。

当主はまあまあ、と言って悦郎にティッシュ箱を渡す。


「そんな歴史がこの浅黄の土地にあったなんて……文献が全く残っていなかったのは、

 時の為政者が記録に残さなかったからってこと? なんで?」

「なんでって……人柱を使って混乱を治めたなんか書けるわけないじゃない。」

「普通に考えればそうだろうなぁ。」

「じゃああの絵巻物は?

 この件を知っている誰かが描いたってことでしょ?」


 恵玲奈の質問について正確に答えられる者はこの場にはいなかった。

あの絵巻物は浅黄家より寄贈されたものだと宮司は言っていた。

先祖の話を聞いて居てもたっていられなかった子孫の誰かが描いたのかもしれない。

星一朗はそう思ったのだった。


「……今回、貴方たちに先祖の話ができてよかった。

 一族の話はなかなか口外することもありませんから。

 もしかしたら”浅黄ノ血ヲ辿レ”という謎の声の話、

 誰かにこの話を聞いてもらいたかった先祖の想いだったのかもしれませんね。」

「そう、かもしれませんね。

 ややオカルトめいた出来事でしたが、かなり勉強になりました。」

「……」


 ピリリリリリリリッ!!


 突然、星一朗のスマホが鳴り出す。

誰からだと見てみると大上阿里沙からの着信だった。

何だ脅かすなよと思いながら着信を受ける星一朗。

いきなり現実に引き戻されたような不思議な感覚に襲われたのだった。


『はーい、星一朗君、元気?

 ってか今電話大丈夫?』

「まあ、大丈夫ですよ、あ、ちょっと待っててください。」


 ぽちっと保留ボタンを押す。

星一朗は電話してくると身振りで伝えると、廊下へ出て廊下を歩きながら話すことにした。

どうせ阿里沙のことだ、星一朗に電話をかけてくると言うことは何か仕事絡みだろう。

はぁぁぁっと深いため息を一つして保留を解除する。


「お待たせしました、でなんすかいきなり?」

『君たちさ、今、白雀神社とかまわっているんだよね?』

「ええ、まあ、悦郎の付き添いってやつで。」

『だったら、そこの神社の宮司さんに話を聞いてくれないかな?』

「はい? 話ってなんの話っすか?」

『歴史に埋もれた知られざる伝説って特集を今度雑誌で組むことになってさ、

 浅黄市も調べてみたらそれらしきものがあるっぽいじゃない?

 んで、私のライターとしての勘が囁くわけよ、白雀神社が怪しいぞって。』

「……なるほど……。」

『ん? どうかした?』

「あー、えーと、俺らは今、浅黄氏の子孫にあたる方の家に来てたりしてましてね。」

『ほんとなのそれ!?

 ってことは何? 君たちも同じような事を調べてたの?』

「いやーまあ、なんていうか、そっち戻ってから詳しく話しますよ(悦郎が)。」

『お、おう……?

 まあ、いいわ、君たちが戻ってくるのを楽しみにしてるから。

 ちゃんと【箱庭】に顔出しなさいよね、って星一朗君はほっといても顔出すか。』

「……へいへい。」


 歴史に埋もれた知られざる伝説の企画か、と

星一朗は自分たちが当主から聞いたことをそのまま阿里沙に伝えるべきかどうか迷っていた。

当主の口ぶりや神社での出来事、文献や絵巻物の存在を考えると、

無関係の自分たちが阿里沙(メディア側の人間)に

あれこれと勝手に言っていいものではない気がしていたからだ。

どうやったもんか、星一朗は浅黄邸の廊下をうろうろしながら悩んでいた。


「こちらでしたか。」

「あ、えーと、小夜子さんでしたっけ?

 あ、すみませんちょっと考え事を……。」

「いえ、当主から言伝がありましたので探しておりました。」

「言伝ですか?」

「”私は所用が出来たので失礼します。

  短い時間でしたが有意義だったと思っていますよ。

  一つ、お願いがあります。

  今回お話した件については出来れば公にはしたくありません。

  ですが、いつかは外に出ていくことでしょう。

  最終的なご判断はお任せしますが。” とのことです。」

「わ、わかりました……わざわざありがとうございます。」


 小夜子はぺこりと会釈して去っていった。

部屋に行ったら星一朗がいないものだから探しに来たのだろう。

しばらく廊下をうろうろした後、星一朗は皆が待つ部屋に戻った。

当主は小夜子の話の通り席を外しており、

恵玲奈たちが暇そうにお茶を飲んで待っていただけだった。


「うーん……。」

「どったの?」

「いや、阿里沙さんからの電話だったんだけどな。

 浅黄市に伝わる知られざる伝説を特集したいって話だったんだ。」


 星一朗はさらに続ける。


「そんでさっき小夜子さんから当主の言伝を聞いた。

 今回の話、出来れば公にしたくないらしい。」

「それでどうしようって悩んでたわけか。

 お兄ちゃんそれ以上悩むと知恵熱でちゃうよ?」

「うっせ。」

「ふむ、阿里沙さんに話せば間違いなくメディアに載って大勢の人間に伝わる。

 正確に伝わるならともかく十中八九、曲解されてしまうのが目に見えている、か。」


 何故か重い決断を迫られる一行であった。


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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