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第七十四話 風詠みの都・陸

「お前はどう考える悦朗よ。

 他に候補がない事もあるが、十中八九この家は俺達が探していた、

 ”浅黄を名乗る家”に思うんだけど。」


 眼前のお屋敷を見つめながら星一朗は、何やら腕組みしほくそ笑んでいる悦朗に話しかけた。

ここまで辿り着いたぞと妙な達成感でもあるのだろうか。

恵玲奈やセシルは歩き疲れたのだろう、丁度いい高さの石の上に腰掛けて少し休んでいた。


「オレに聞くまでもないだろう。

 先ほど、恵玲奈が見つけた門の上の紋章が答えさ。」

「じゃあ、やっぱりあれが……。」

「ああ、間違いない。 神社で見せて貰った文献の中に、門の上の紋章と同じ意匠のものがあった。

 あの時は横目で見ていた程度だったが、覚えていて正解だったみたいだな。」


 こいつなんでこの妙な記憶力を趣味以外の部分で活用しないかと、

星一朗は悦朗の言に納得しながらも思っていた。

念のため、悦朗は門の上の紋章を撮影する。

角度を変えて数枚取ったら、泪にデジカメを見せて確認してもらっていた。

無断撮影になってしまっているがやむを得ないだろう。

セシルは星一朗の近くへやってくると小声で話しかけてきた。


「あのチェスター君、少しいいですか?」

「ん? なんだ?」

「あたしが神社で言った内容って、どういうんでしたっけ?

 あたし自身記憶が無いので出来れば改めて教えて欲しいんです。」

「と言っても、断片的な内容でね。

 確か”浅黄ノ血脈ヲ辿レ”だったかな。」

「文字通りあたし達はここまで辿ってきたということですね。」

「まあね。

 まだ答えは出てないけど、これからどーするよ悦朗っておいっ!!!」


 星一朗の制止より早く、ドヤ顔になっていた悦朗はこの大きなお屋敷のインターホンを押していた。

思ったように普通の呼び出しベルが鳴り響いた。

見ず知らずの大学生風情がいきなりインターホンを押すとは何事だと言おうとしたが、

このまま撤退しては何も解らないままなのは星一朗自身悔しさはあった。

言葉にはしなかったが、悦朗の行動は星一朗にとっては好都合とも言えた。


「なんだ、誰もがこうしたほうがいいんじゃないか、と考えていたんだろう?」

「ぐ、ぐぬぬ……その見透かしたような言いぐさ、何か腹立つぞ。」

「ま、まあ、悦朗君の言葉には一理あると私も思うわ。

 せっかくここまで来たんだし、何かしらの成果を上げて引き上げたいじゃない?」


 珍しく泪は悦朗の肩を持った。だがよく彼女の目を見ると泳いでいることが分かる。

どうやら悦朗は自分の意思で押したと言うよりは、

泪に背中を押されて、いや正確には乗せられての行動だったらしい。

星一朗は恵玲奈とセシルは素直にそれもそうだ、と納得顔で泪の話を聞いていたのだった。


「泪よ、……おぬし、悦朗を使ったな?」

「ナンノコトカシラ。」

「白々しいとはこの事だな。

 まあ、やり方はこの際不問にするとして、どうでるかね。」

「なるようにしかならないわよ。

 それにしても大きなお屋敷よね……。」


 待つこと数分。インターホンに動きがあった。


「家人がいらしたみたいよ。」

「む、任せろ。

 対外折衝はオレの役目だ。

 不審がられないよう、なるべく普通に課題に苦労している大学生風情とやらを演じきってみせよう。」

「……いや、それは演技じゃ無くてリアルだろうが。」

「星一朗よ、我々はゲーマーだぞ?

 リアルよりもロールプレイの方が、妙なリアリティが出ると思わんか?」


 こいつ何言ってんだろう、と本気でお前の言っていることが理解出来ないんだが

眼差しを星一朗は悦朗に向けたのだった。

対外折衝と簡単には言っていたが、そもそも今回の小旅行はアイツの提案に乗ったわけで、

企画者は悦朗本人だ。普通に考えて率先してやるべき事柄である。


「どちらさまでしょうか……。」


 インターホンからは中年女性の声がした。

声の感じから少し警戒していることが分かる。少しの間を空けて悦朗が返答する。


「突然失礼しました。

 不躾で申し訳ありませんが、浅黄さんのお宅でしょうか。

 表札がありませんでしたので……。」

「はい、浅黄ですが……。」

「良かった。

 実はオレ達、大学の課題で【白雀神社】関連を調べているんですが、

 そこで浅黄さんのご先祖様のお話を耳にしまして。

 可能でしたらご先祖様の事についてお話をお伺い出来ないかと思い……。」

「はぁ、大学の課題で……。

 それで【白雀神社】へいらっしゃったんですね、そこで当家のお話が出たと。」

「はい、何でもこの辺りを治めておられたのが浅黄一族なのだとか。

 是非ともお話をと。」

「……少々お待ちください。」


 そう言って対応してくれた中年の女性と思われる声はすっと気配を消した。

意外な反応だった。

見ず知らずの大学生風情が5人も突然訪問してきたら、普通は門前払いだろう。

手ひどく追い返されるくらいの覚悟はしていたのだが、

家人の反応は星一朗の考えていた事とは真逆のものだった。

少々お待ちください、という事は誰かしらへ報告してくるということだ。


「意外でしたね。

 あたしはてっきり門前払いされるかと思いましたけど。」

「だなー。

 思ったよりも悦朗の対応が良かったのか、はたまた別の意図があるのか。」

「怖いこと言わないでよ星君……。」


 別の意図と星一朗に返されて泪は怖がるセシルに抱きつく。

星一朗的には大した考えがあって言ったわけでは無い。

学生の課題のために一肌脱いで上げようみたいな、

ボランティア精神だったかもしれないと思ったからである。


「言っちゃあなんだけどさ、

 このお屋敷ってホラー映画とかで出てきそうな、良い感じの古さだよねー。

 村の神社と深く関わっていて、村一番の大きなお屋敷で、高い塀に囲まれてさ、いかにもって感じ。」

「失礼なやつだなー。

 妹よ、そういう事は今言うんじゃない。 後で言いなさい。」

「……あ、あはは、それもどうかと。」


 5分程待たされた後、改めてインターホンから声がした。

門を開けるとのことだった。木製の門だったが、黒塗りされている事もありかなり重厚に感じられる。

昔ながらの造りならば開くだけでも大変だろう事は想像出来る。

一体どういう仕組みになっているんだろう、

と星一朗が考えを巡らせていると屋敷へ至る門はゆっくりと開いたのだった。

そこには先ほどインターホンで対応してくれたと思われる女性が立っていた。

彼女は星一朗達を見ると、少し驚いた様子を見せた。


「お待たせしました。

 主人がお招きしなさいと仰いましたので、お迎えに参りました。」

「感謝致します。」

「皆さん史学科の学生さんですか?」

「いえ自分だけです、他の皆は課題に協力してくれている友人達です。」

「ご友人に恵まれていらっしゃるようですね。

 では主人の下へ案内しますのでこちらへ。」


********


【喫茶店・箱庭】では阿里沙がまだ居座っていた。

カウンター席から奥のテーブル席へ移動して打って変わって

真剣な表情でノートパソコンのキーを叩いている。

手元には何かしらの資料と手書きのメモ帳。

メモ帳にはびっしりと付箋が貼られている。どうやらライターの仕事を進めている最中のようだ。

阿里沙の雰囲気から今日は元々仕事をするつもりは無かったことが窺える。

時々、思い出したかのように奇声を上げていた。


「締め切りが1日ずれていたなんてね。」

「だぁぁあーっ!

 あの新人編集、メールじゃ昨日になってんじゃないのよ!」

「頑張って、は野暮だね。」

「そうそう、もう頑張ってるからね。

 ったくスケジュールくらいちゃんと伝えなさいよね!」

「い、忙しそうだね。

 取りあえずコーヒーここに置いておくから。」

「ありがとう竜二君。

 あ、そうだ、悪いんだけどもうちょっとねばっていい?」

「どうぞどうぞ、今日はもう店じまいのつもりだから、好きなだけ居て良いよ。」


 竜二はやれやれといった顔をして

コーヒー入りのマグカップを阿里沙のテーブルにおいたのだった。


「竜二君、そう言えば星一朗君達って今日どこに行っているんたっけ?」

「えーと確か近場だったような……白雀市だったかな。

 あそこの神社とか回ってくるとか。」

「ナイス! 出来たら彼らの連絡先教えてくれない?

 彼らに伝えたい事があるのよ。」

「それは構わないけど、一体どうしたんだい?」

「んー簡単に言えば、取引かな?」


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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