第七十二話 風詠みの都・伍
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。
「えらいことになった!」
「一体何が何やら……とにかく今は腹が減った! 飯だ飯!」
「普段、食い意地とか縁の無いセシルと恵玲奈が貪るように麺を啜っている……。」
【白雀神社】から出た面々はお昼時ということもあった為、
空腹を満たすため神社の近くにある食堂【色彩】の暖簾をくぐった。
いわゆる食堂タイプのお食事処で言えば何でも出してくれそうな雰囲気すらある。
昭和時代に建てられたと思われる平屋造りの店舗は、
時間の流れを感じさせる汚れや痛みがあらゆるところで見て取れた。
店内の壁にはメニュー表が所狭しと貼られているのも時代を感じさせる。
結構変わったメニューも見て取れ、
何かお客の注文に従って作っているうちにメニューに入れてしまった感もある。
飲料関連ではジュース類はもちろん、センブリ茶やドクダミ茶など多岐に渡っていた。
なかなか正常に戻らないセシル、
意味不明な状況になっている恵玲奈を何とか引っ張って椅子に座らせ
この食堂のお勧めである焼きそば(大盛り)を注文し二人の前に置いた。
そこからは冒頭の状態である。
恵玲奈はともかくセシルもむくっと起きたと思ったら焼きそばを食べ始めた。
まともな状態である星一朗・悦朗・泪は各々好きな定食を頼み、
待っている間は今後の作戦会議をすることにした。
「よく分からんが、セシルが突然妙なことを口走った。
それも自分の声じゃなくて別人の声で。」
「衝撃的だったがオレはちゃんと覚えているぞ、
確か”浅黄ノ血脈ヲ辿レ”だったはずだ。」
「ちょっと待って!
本当にそんなファンタジーな事が起こったっていうの?」
やはり疑問の目を向ける泪。至極当然な流れだ。
星一朗達がこんな嘘を言うとは泪はもちろん思ってはいない。
ただ実際に目にしていたわけではない為、信じられなかったのだ。
しかし、今回ばかりは目撃者が星一朗達以外にもいる。
あの現象を目の当たりにした宮司は真っ青な顔をしたまま、
急ぎ社務所を後にする星一朗達を見送ってくれた。
「嘘言っても仕方が無い……何せ言っているオレ達が一番信じ切れないよ。」
「……まあ、そうでしょうけど。」
「俺はあの言葉通りに踊ってみるのが良い気がするな。」
するとタイミングを見計らっていたように、注文していた定食が順々に運ばれてくる。
ちなみにオーダーは星一朗は安定の生姜焼き定食、
悦朗は渋めのサバ味噌定食、泪は効果があるかわからない女子力アピールの山菜定食である。
ひとまず頂きますをした上で食事を進めていく。
腹が減っては何とやら、まとまる考えも空腹のままではまとまらない。
「あ、泪さん、そっちの醤油を取って貰っていいですか。」
「はいはい、これね。」
「あ、どうもです。
星一朗、お前の案を聞きたいのだが。」
「さっきも言ったとおり、手のひらで踊ってみるに一票。
と言うか、今回の目的から大きく外れねーし、いいんじゃね。」
「……星君にさ、気味悪いとか、触らぬ神に祟りなしとか、そういう概念はないわけ?」
「だって気になるじゃんよ。
ああやって大げさにやられちゃあ、怖いとかよりも興味が先に来るって。
あ、すんませーん、オカワリいいっすかーっ?」
と言って星一朗はオカワリを要求したのだった。
悦朗と泪は、星一朗の意見を聞いた後うーんと少し考えて、チラリと恵玲奈とセシルの様子を見やる。
いつの間にか大盛りの焼きそばは無くなっており、
腹を満たし落ち着きを取り戻したのだろうか、恵玲奈とセシルはぼーっとした様子で惚けていた。
とても年頃の女子が他人に見せてはいけない顔ともいう。
確かにこうなってしまった原因を究明する必要も無くは無い、という考えもある。
「確かに謎は気になるわよね……。
この二人は何者か乗り移られたような感じだったけど、どうして私は何ともの無かったのかしら。」
「さぁな、感受性の高さとか体質的なもんとか、
まあ、そのあたりじゃねえの?」
「……良かった、と思うべきところなのかちょい複雑ね。」
「うーんむ、なかなかの美味であった。
今日日、このレベルのサバ味噌定食を食せる機会はそうあるまい。」
「マイペースなやつめ……とにかくそこで惚けてる二人を何とかするか。」
そう言って星一朗は椅子に座り惚けたままの二人へ歩み寄っていく。
星一朗は改めて惚けている二人を見て強く思った。
早く何とかせねば、色々かわいそうな感じになってしまうと。
泪も手伝うわと言って惚けている二人のところへやってきた。
「これはしてはいけない顔をしているな。」
「古典的ではあるけれど、強烈な辛みや苦みのあるものを飲ませるとかかしらね。」
「だなぁ、放ってもおけないし試すだけ試してみるか。」
星一朗はメニュー表にセンブリ茶があったことを思い出した。
センブリ茶とは彼の有名な脳天突く苦さで評判の健康にもいいお茶である。
あの強烈な苦さならば朦朧とした状態でも一発で正気に戻るのではないだろうか。
物は試しとばかり早速注文する。
露骨に絶対オレに飲ませるなよと嫌そうな顔をする悦朗であった。
五分もしないうちにセンブリ茶2杯がやってくる。
星一朗と泪はセンブリ茶の入った湯飲みを手に持ち、
星一朗は少しだけお茶を口に含み苦みを確認する。
噂通り狙い通り脳天突く強烈な苦みを感じた。
これならどんな状態だろうと一発で効果が出そうである。
「頼むぜ、正気に戻ってくれよ!」
「お願い!」
惚けている二人の口にセンブリ茶を少しずつ流し込む作業。
悦朗はその様子を見ながら結構えげつない行為だなぁと思いながらも、
二人を止めようとは思わなかった。
「……がほっげほっ! ごほごほっ……!
苦い! 苦すぎる! なにこれぇ!」
「……ごぶっぶぶ……がはっがは……はっ……あたしは一体なにを!?」
思惑通りあまりに強烈な苦さで正気に戻った恵玲奈とセシルは、
口元を拭いながら辺りをキョロキョロと見渡す。
ここが見覚えのない見知らぬところであることを理解したようで、
神社にいたはずなのにどうしてここにいるのかを星一朗達に問いかけたのだった。
斯く斯く然々、と星一朗達は出来るだけ詳細に経緯を説明した。
取りあえず自分たちが置かれていた状況や状態を理路整然と把握してもらう必要があると思ったからだ。
案の定、セシルは青ざめ椅子に寄りかかり深い溜息を漏らしていた。
恵玲奈はというと、ある程度記憶があったらしく、
自分が何者かに乗り移られていたような感覚は無かったが強烈な衝動を抑えられなかったと話した。
「助かりました~、少し落ち着きました~……。」
「でも信じられないよ、
私は多少記憶があるから何となーくだけど理解できるけど。」
肩をさすりながらお冷やを飲む恵玲奈。
憑きものが落ちたような感じだろうか、首周りも一緒に触っていた。
「流石にセシルさんの件は驚きを通り越して、
天変地異の前触れかはたまた異世界編突入とかまで思ったぞ。
なあ、星一朗。」
「何にせよ、このままではセシルも恵玲奈も気持ちが悪いだろうし、やれるだけやってみようぜ。」
全員はこくんと頷いた。このまま退散したところで、胸の支えが残ったままになるのも事実である。
セシルは多少嫌がる素振りを見せたが、星一朗の必死の説得により納得してくれたのだった。
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神社から東に約5キロ地点、お食事処【色彩】の店員さんに聞いた情報や、
神社で仕入れていた情報からこの地区には明治頃より【浅黄】の氏を名乗る一族がいるらしいのだ。
歴史に名を残す【浅黄正順】の直系なのかは不明だが、
血脈を辿るならばここしかないだろうという判断である。
現段階での手がかりはこの情報と神社で聞いたセシルのお告げのみ。
当たって砕けろ、旅の恥は掻き捨てとも言う。
行動するしかない。
「戸数はざっと見ても50もない、手分けして各家の表札をチェックだ!」
「全ての家に表札があればいいのだけれど。」
「ゆ、由緒ある家柄なら、きっと表札くらい出しているさ。」
星一朗達5人は2名と3名の2班に分かれて、この地区にある家全ての表札を確認することにした。
神社の件もあるので、今回は黒瀬兄妹、悦朗・泪・セシルで班分けすることになった。
浅黄を名乗る家があれば、大学の云々かんぬんと
適当にそれらしい説明をしてどうにかして一族に関する話を聞く腹づもりである。
「1時間後くらいに……そうね、丁度そこに東屋があるから。」
「いいんじゃないか? めぼしい家が見当たらないようなら1時間後にあの東屋に集合だな。」
悦朗・泪・セシルは西方面を、星一朗と恵玲奈は東方面を担当する。
悦朗達は星一朗と恵玲奈に別れを告げ足早に表札確認作業へ向かったのだった。
残されたのは黒瀬兄妹のみ。さて今から俺達も頑張るぞと意気込み、星一朗は恵玲奈を見やる。
だがその恵玲奈は背の低い石造り塀の上に座り込んでいた。
色々あって疲れている様子は見えるが。
「おっしゃっ恵玲奈行くぞーって……なんだ疲れたのか?」
「お兄様、わたくし先ほどの件で疲れてますの。
後はよろしくお願いできますかしら?」
「冗談言える元気はあるようだな、ほらさっさと行くぞ。」
「お兄ちゃんの鬼!
というかデザート奢ってくれるって約束はどうなったの?」
「もうちょっと頑張ったら買ってやっから頑張れ。」
「へーい。」
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西方面を探索していた星一朗と恵玲奈は、
間違いなく金持ちあるいはこの地区の地主と考えられる巨大な敷地を持つ民家を見つけた。
白い外壁に四方を囲まれたようになっており、明らかに他の家々とは門構えも異なっていた。
重そうな木製の門と小さな門がある、時代劇に出てきそうな城の門に見える。
表札こそ見当たらなかったが相当な家柄だろうということは明白だった。
「でっけぇ家だなおい……。
念のため、家の周囲ぐるっと回ってきたけど徒歩で10分近く掛かったぞ……。」
「一体どんな人が住んでるんだろう。」
星一朗は真っ白い外壁を見つめながら、
これで実は借家なんですよとか言われた日には、
壁に落書きの一つでもしてやりたいと思っていた。
星一朗は悦朗達に怪しい家を見つけたと連絡を飛ばした。
1時間経ったら何も無ければ東屋に集合する予定だったが、
見つかってしまった以上は呼び出すほかないだろう。
しばらくして悦朗から返信が来て、星一朗達の方へ向かうとのことだった。
「あ、お兄ちゃんちょっとこっち来てっ!」
「どうした!?
表札でも見つかったか?」
「いや、表札は無かったけどさ、門の上の方に家紋っぽいのない?
あれって神社にあった紋と一緒に見えるよ。」
「神社の紋なんて俺は覚えてねぇよ……取りあえず悦朗達を待とうぜ。」
続く




