表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/90

第六十九話 風詠みの都・弐

 【五色国】の南方に位置する観光都市【白雀市】は、

人口10万に満たない絵に描いたような地方の小都市であるが、

観光業が盛んであり年間のインバウンド数は国内でも上位に入るほどで活況はあった。

人口が少ないのは自然保護にチカラを入れている事もあり、

管轄区域の8割が自然公園化されており居住区が少ない為である。

観光客のほとんどは豊富な自然環境を体験しにくるレジャー目的であり、

ここ数年は微増傾向にあるという。

印象的なのは街の中心部からもその雄大な姿を拝むことが出来、

市名の由来にもなった白雀山はくじゃくさんだろうか。

雀という名前の割には標高も高く、

どの辺りから雀と来たのだろうと誰もが思うところだろう。

名前の由来についてはいくつか説があるようで、

現在最も有力なのが雀の横顔なのだとか。

今の季節はもちろん、秋の終わり頃から山全体は雪に覆われるのだが、

山の中腹付近の一部分だけ何故か雪が積もっていない部分が存在する。

その部分が雀の頬に見えた為、昔の人はそう名付けたとのだろうと言われている。

白雀神社の宝物殿に残っていた文献にもその仮説を裏付けるような記述が見つかっている。


「雪が降らなくてよかったぁ……。」

「うんと、天気予報ではしばらく降らないみたいだから

 ……恵玲奈ちゃん、今日は絶対に大丈夫だよ!」

「セシルが絶対って言い切るなんて……逆説的に不安になってしまうわね……。」

「泪ちゃん、それってどういう意味ですか!」


 女性陣は電車から降りるや否や空を見上げて雪の心配をしていた。

確かに言われて見れば真冬なのだから、

いくら天気予報が降らないと言っても気にはなるだろう。

それに今いる場所は都会とは違い自然豊かで標高も少しばかり【浅黄市】よりは高い。

星一朗と悦郎は駅備えつけの周辺地図を見ながらルートを確認していた。


「取りあえず午前中は神社だな。

 そんでどっかの飯屋で昼飯ってところだな。」

「神社の近くに小さいが美味いと評判の食事処があるらしい。

 時間的に探す余裕はないだろうから、その店でいいと思うが。」

「だな、ってか昼時にアイツ等を連れ回すのは

 精神面からいって良くないだろうからな。」

「どういう意味だ?」

「忘れたのか、恵玲奈も泪も飯には五月蠅いってのを!

 ……ほんとセシルくらいだぜ、五月蠅く言ってこないのは……。」

「変なところで苦労しているな星一朗は。」

「ほっとけ。

 おーい、お嬢さん方! そろそろ神社へ向かおうぜ!」


 星一朗の声かけに反応して女性陣は星一朗と悦郎の元へ急いだ。

悦郎から今日のスケジュールと目的地の説明があり、

参加者全員には”可能であれば資料の写真撮影”のお願いが出された。

セシルは満面の笑顔で快く了承してくれた。

泪は気が向いたらね、と口では素っ気なく返したが目はやる気満々だった。

恵玲奈は1人ブーたれていた。

元々、強制連行に近い形で引っ張ってきた面もあり、

仕方が無いところではあるのだが。

星一朗は悦郎の肩をぽんと軽く叩き、

任せとけと言って妹の説得へ立ち上がったのだった。


「恵玲奈、提案がある――」


********


 白雀駅からバスで約20分、

中心地から離れると住宅の数も減り人の往来も減ってくるが、

他の街と比べても白雀市は顕著だった。

そんな中、目的地の神社の周辺だけ思い出したかのように住宅が密集して建ち並んでいた。

ざっと見ても百以上の戸数はあるだろう、小さな集落と言っていい規模である。

まるで神社を守っているかのような雰囲気すらあった。

悦郎が電車内で言っていた怪しげな雰囲気の意味が

星一朗は何となくわかったような気がした。


「ところで星一朗、どうやって妹を説得したんだ?」

「食後のデザートで手を打った。」

「涙を禁じ得ない話だ。」


 目的地である小山に辿り着いた5人は

神社の入り口と思われる麓の鳥居の前に立ち、山頂付近をじっと見つめていた。

近くにあった看板からここの山頂が目的地なのは確かのようで、

ずらっと上に向かって積み上げられた階段に少々たじろいでいた。


「小山の山頂に神社ありか。

 うへぇ~……階段地獄の始まりかよ。」

「300メートルくらいの高さはあるらしい。

 さて、気合い入れてこの階段を昇るとしようか。」

「だ、ダイエットにはもってこいじゃないの。

 さ、恵玲奈にセシル、行くわよ!」

「最近運動不足だったし、確かに丁度良いかもねぇー。」

「だ、大丈夫かな……。」


 余談ではあるが、鳥居のある表参道と反対側には楽な道がある。

そちらは自動車でも山頂まで上がれるように舗装された穏やかな傾斜の道になっている。

裏参道という言い方はしない為、単に利便性のみを考慮されたものである。

足腰の丈夫な参拝者ばかりではない為、仕方が無いことなのだが、

道の工事のため山が切り崩された事もあり

当初は近隣住民や神社関係者は猛反対したのだという。

もちろん悦郎は他に道があることは知っていた。

だが取材観点から正道である表参道から入るべきだと思い口にしなかったのだった。


「やっと半分か……ふぅ、流石に汗ばんできたぜ。」

「お兄ちゃんなんで割と平気なの!?

 普段家ではゴロゴロしてゲームばっかしてるくせに!」


 恵玲奈は兄の腕にもたれ掛かるようにして立っていた。

普段の様子を知る妹だからこそ驚きを隠せない様子だった。

何で平気なのと不思議がって兄を見つめる妹の視線は、

かなり珍しいものだっただろう。

セシルは持ってきていた暖かいコーヒーを全員に振る舞った後、

座り込み太股を揉みほぐしていた。

普段の運動不足が祟ったのだろうか。

泪も座り込んで下半身のマッサージに勤しんでいた。

髪を短くしたのが功を奏したみたいねと苦笑いを浮かべながら。

悦郎は階段の上で寝っ転がっていた。

石段の上なのに冷たくはないのだろうか。


「ふん、こう見えて俺は普段エレベーターやエスカレーターの類いは

 なるべく使わないようにしているんだ。

 ゆえに階段は昇り慣れているんだなこれが。」

「……く、不覚!

 ……同類と思っていた星一朗とこんなに差が出るとは……はぁ……はぁ……。」

「……星君の謎の努力に乾杯ね。」

「ひ、人は見かけにはよらない、という言葉の意味を正しく実感しました……。

 あたしはもう足が大変なことに。」

「ゴールは見えているんだ、もう少しだし頑張ろうぜ皆!」


 元気な星一朗の号令で疲れの色が見え隠れする4人は、

重くなった足にむち打ちながら階段を昇っていったのだった。


********


 【白雀神社】は建立数百年の歴史を持つ由緒正しい氏神を奉った神社である。

神社の手水舎の近くには石碑もたっており、

そこの碑文には神社に関する伝説めいた記述が見て取れた。

悦郎と星一朗はパシャリと写真を数枚取った後、碑文の内容を読んでいた。

ちなみに女性陣はというと、手水舎で清めた後いつの間にかおみくじ売り場へ直行していた。

神社に来たらやっておきたい事だとは思うが、

と星一朗はジト目で女性陣の後ろ姿を見たのだった。


―― 四方の要地を守りし英雄の魂 心に眠る ――


 風化にも負けずに碑文はしっかりと読める状態だった。

短い文章でわりとあっさりとした内容だったが、

調査という視点で普段と異なる目線を入れて見ると何やら色々隠されている感があった。


「地元の武将を奉った神社か。

 立派な石碑だなこれ、大理石的な何かか?」

「大理石なわけないだろう……花崗岩か安山岩じゃないか?」

「……う、うるせぇ。

 ところでこの碑文にある四方の要地ってのはなんだ?」

「一般的な解釈として、四方の要地とは浅黄市周辺の四都市のことだと言われている。

 現にこの【五色国】は同じ一族の手によって支配されてきた歴史があるからな。

 ここ白雀の地も分家の一門が治めていたようだ。」

「それって、浅黄市の市名の由来になった浅黄一族だろ?」

「ああ、浅黄氏だな。

 特にセイジュン公から二代後の当主までは名君として有名だ。」


 悦郎はこくりと首を縦に振り解説を続けた。


「特に”浅黄正順あさぎ まさむね”は中興の祖として神聖視されているようだ。

浅黄氏は、中央の絶大な支配が及ぶまでの間、

この地に平穏と繁栄をもたらしたという。

正順公は地元民の間ではセイジュン様と呼び慕われているしな。」

「歴史の教科書には出てこないよなぁ

 ……まあ俺達は地元史として少し習ったけど。」

「まあな。

 そろそろ参拝してこようか。」


 星一朗は女性陣を呼びに走った。

おみくじの結果は聞いていないが、表情を見るに答えは出ていた。

どことなくしょんぼりな雰囲気を出している泪、ご愁傷様である。

星一朗は泪に対して元気出せよと声を掛けたのだった。

全員で参拝を終えた後、さっそく本題の始まりである。

悦郎は改まって説明を始めた。


「オレはこれから宮司さんと会って資料関連を見せてもらいに行くつもりだが……。

 同時に神社や周辺環境の素材も得たいと思う。

 なので班分けをしたい。」


 異論は無いようである。悦郎は軽く頷き星一朗に視線を向ける。


「俺も悦郎に着いていくぜ。

 少し神社自体に興味が湧いたしなー。

 恵玲奈、お前は神社周辺の写真撮影を頼む、どうせこっち方面は興味ないだろ?」

「はーい。

 じっとして古い資料見てばっかじゃ飽きそうだし。」

「それなら私も恵玲奈にお供するわ。

 さっき売り子さんに聞いたら、裏手にも見るところあるっぽいし。

 セシルはどうする?」


 泪に問われてセシルはちらっと星一朗を見やり口を開いた。


「えっと、あたしはチェスター君達の方に行こうかな。

 もう足が痛くて……。」

「そう言えばずっと足を気にしていたわね。

 歩き回らずに休めた方がいいかもね。」

「よし、班分けは問題無さそうだな。

 何とか午前中に片をつけたい、急ごうか。」


 星一朗・悦郎・セシルの3人は恵玲奈と泪と分かれた後、

神社内の案内に従って社務所へ向かった。

案内板に張り出されていた地図を見た限りでは思った以上に敷地は広く、

勘を頼りに社務所を探していては間違いなく正午を廻ってしまうことだろう。

本殿から右に左に五分くらい歩いただろうか、

ようやく社務所らしき家屋が見えた。

社務所自体は本殿のように古い建物ではなく、ここ数年内に建設されたものに見えた。


「……結構歩きましたね。

 やっと座れそうかもです。」

「足大丈夫か?

 マジでやばくなったら言うんだぞ。」

「うん、ありがとうチェスター君。」


 悦郎は何のためらいも無く社務所の戸に手を掛ける。

カギは掛かっていないようだった。

中に入るやいなや悦郎の声が社務所内に響き渡る。


「ごめんください。

 宮司さんはいらっしゃいますかー?」


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ