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第六十八話 風詠みの都・壱

 星一朗達が住まう商業を中心とした地方都市の周囲には、

自然環境豊かな街が4つ存在している。

周辺都市からの人の供給はもちろん、農作物や畜産物といった

食料に関する物流も活発に行われており一大経済圏として機能していた。

この衛星都市群が何故寄り添うように存在したのかは、

過去の歴史を紐解くことで自ずと回答を得ることが出来る。


 時は群雄割拠の英雄達がしのぎを削っていた戦国時代、

この地にはとある有力な武家があったという。

類い希なる知勇誉れ高き武家の一門だったようで、

この地域では彼らの功績を称え伝説となって今に伝わっている。

幾多の戦の後、その武家一門によってこの地は平定された。

地政学上、中心部から四方を守護する必要があったことから、

武家一門の血を継ぐ者達が東西南北へ分家し見事繁栄の時を得たのだとか。

この五都市を総じて、【五色国】と称するのであった。


 商業都市から北側に位置し広大な外海と面し海産業中心の【北亀市ほっきし】、

西側に位置しかつて銀鉱山や鉄鉱山で栄え、

現在は交通機関の整備の影響もあってベッドタウンとして認識されている【虎西市こさいし】、

南側に位置し観光業中心で周辺都市の水源になっている巨大なダムや

標高1000メートル級の死火山も存在している【白雀市はくじゃくし】、

東側に位置し畜産・農業中心の田園風景が広がる【龍宮市たつみやし】、

そしてその分家が守り続けた中央部、

即ち星一朗達が住まう商業都市・【浅黄市あさぎし】は今もなお発展を続けている。


 長い間、大きな事件や事故もなく安定して繁栄を続けてきたこの土地に対して、

オカルトめいた噂が立ったことがある。

あまりにも不自然に平和だ、という言いかがりに近いものだった。

とあるオカルト系雑誌にも書かれた事もおり、

その内容とは、この土地は巨大な結界が張り巡らされた

術式的に守護を受けている場所だ、というものだった。


********


 旅行当日の午前9時、浅黄駅の集合場所で星一朗・恵玲奈・セシル・泪は寒空の下、

あれこれと文句を言いながら時計の見つめながら

ある人物のせいで待ちぼうけを食らっていた。

何故ならば今回の企画者でもありメインであるはずの悦郎の姿は

まだその場には無かったからである。

予定では集合は午前8時の浅黄駅エントランス。

同45分発【白雀市】行の電車に乗り約20分程度ローカル線に揺られて

目的地である駅に到着しているはずだった。

つまり予定では今頃電車の中のはずだったのである。


「……あと十分で着くんだと。」


 星一朗はそう周囲に報告した。

恵玲奈は興味なさげにふあぁと欠伸を入れ、泪は素っ気なく返事する。

セシルだけは事故とかじゃなくて良かったですね、

とまるで天使のようなことを言っていた。

遅刻野郎にはもったいない言葉だなと、

星一朗は悦郎に返信をしながら思っていたのだった。


「開口一番、何を言うつもりかしら。

 内容次第じゃ、全員のお昼代を全て持ってもらうってのはどお?」

「泪ちゃんナイスアイディアっ!

 いいと思うよ、だって遅れる方が悪いもん。」

「この人数のお食事代は流石に…………あ、えーと……何でもないです。

 あ、泪ちゃん暖かいお茶とか飲むかな?

 恵玲奈ちゃんも? ちょっと待っててね。」


 今回ばかりは博愛主義のセシルも泪と恵玲奈の説得は無理だと思ったらしく、

悦郎をかばうような事を言いかけて途中で断念していた。

しかも話題を逸らして。


「はい、チェスター君も。」

「お、あんがと。」


 セシルから差し出された湯気が立ち上る小さいサイズの紙コップを受け取る。

焦げ茶色の液体だったが、香ばしい匂いからそれが何なのかすぐに分かった。

寒空の下で飲むこれは最高に違いない、星一朗はそう確認して紙コップに口をつける。


「竜二さんとこのコーヒーだね、もう香りで一発よ。」

「ふふ、常連客の成せるわざですね。」


 セシルは星一朗から飲み終わった紙コップを受け取りながら言葉を続ける。


「あのチェスター君、一つ聞いていいですか?」

「なに?」

「えっと、鷲谷さんはいつもこうなのかなって。

 こう、ちょっと時間にルーズって言うのかな……?」

「あー変に気を遣わなくていいって。

 あいつ、ああ見えて昔っから結構ズボラなんだよ。

 見ての通り時間についてはひどいの一言さ。」

「……お仕事し始めたら大変そう。」

「まあ、そうなったらそうなったでいい勉強になるだろうさ。

 それで遅刻が直るんならいいのかもなー。」


 約十分後、連絡の通り悦郎は浅黄駅に姿を現した。

ボサボサ頭に両のマブタは今にも閉じてしまいそうだった。

上着のボタンは掛け違ったままで、

飛び起きて急いで着替えて家を出てきた様子が容易に想像が出来た。

服装は基本的にきっちりしている悦郎が、こうも取り乱しているのだから、

よほど慌てふためいていたのだろう。


「す、すまん皆……アラームを設定していたはずだったが二度寝をしてしまって。」

「……お前……いらんを言っちまったなぁ。」

「はーい悦郎君、おはよ♪

 遅くなった言い訳とか別に言わなくていいからぁ、

 その代わり今日のお昼代はみーんな貴方のオゴリねぇ。」

「なん……だと!?」

「わーいやったー♪

 悦郎君、ゴチになりまーす。」

「弁明の余地はないのか!」

「ないわね。

 これは決定事項よ、ふふふ。」


 泪の強烈な眼力と同時に無慈悲で衝撃的な言葉を浴びせられ、

悦郎は思わず両膝をつきへたり込んでしまった。

泪と恵玲奈は手を取り合って喜んでいる。

自業自得とはいえ、悦郎の少し情けない姿に星一朗は笑わずにはいられなかった。

悦郎は昔から泪に対して性格的に強く出ることが出来なかったのだが、

その影響が如実に現れている。


「やったー! 今日のお昼はオゴリだー。

 お兄ちゃん、何食べようか?

 どうせならご当地独特のランチが良いよね。」

「妹よ、急に元気になったな……何故か兄は悲しい。」

「……鷲谷さんご愁傷様です。

 一応、口出ししてみようとはしたんですけど、今日ばかりは無理でした。」

「寝坊したオレ自身を今日ほど憎いと思った日はないっ!!」



 予定よりも30分程押したものの、何とか全員揃い出発することが出来た。

無事乗車し、向かい合いの3人席と2人席を確保するや否やふうっと溜息を吐く悦郎だった。

当然と言えば当然なのだが、今回の旅程は全て悦郎任せである。

主目的はあくまでも次回ゲーム制作の為の取材旅行であり、

デジカメやスマホを片手に素材撮影と関連施設での資料閲覧などである。

泪と恵玲奈はどう見ても物見遊山気分だったが、

星一朗は賑やかしなんだからいいかと思い突っ込みはしなかった。


「悦郎はちゃんと取材の準備はしてきたんだろうな?」

「当たり前だ。

 取りあえず最初はこの土地の神社へご挨拶に行くぞ。」

「ほう、渋いな。」

「……基本的行動だ。

 古より旅人は知らぬ土地へ足を踏み入れたとき、

 土地を守護する神へ最初に挨拶へ出向くのが習わしだ。

 しばしお邪魔します、とな。」

「その次は?」

「挨拶が終わったら、

 宮司さんに神社に伝わる資料や文献を見せてもらおうと考えている。」

「許可してくれるかね。」

「オレ達は学生だからな。

 学生身分を最大限利用すれば何とかなるだろう。」

「ま、卒論の為だとか研究会の資料がとか、適当な言い訳すればいいか。」

「ふ、そういう事だ。

 ついでだ少し【白雀神社】について講釈しておこうか。」


 どうやら最初の目的地は【白雀神社】のようである。

悦郎の説明によると【白雀神社】は氏神を奉った由緒正しい神社であり、

この辺りでは有名な武将が幾人か奉られているという。

毎年十月になると神社が取り仕切る、

何百年も続く厳かで静かな秋祭りが催されるのだとか。

秋祭りと題しているが、

外国の謝肉祭や収穫祭のように参加者を楽しませる雰囲気はなく、

当然の如く華やかさは皆無なのだという。

さらに関係者以外の立ち会いは許されておらず、

その雰囲気はまるで何か怪しげな儀式のようだという。

この話を聞くまで星一朗は気にもしていなかったが、

神社に対して少し興味が湧いてきていた。


「そそる話だろう?」

「一般論を言えば、それは祭りなのかと問いたい。」

「字面の話をすれば”祀り”が意味合いとしては正しいだろうな。

 文字通り祈祷をしたり、巫女が神楽を舞ったりするのかもしれん。」

「なるほどな。

 それはそうと関係者以外立ち入り禁止はどうなんだ?

 別に変な事をやっていなくても、親切などっかの誰かから文句来そうな話だが。」

「以前は伝統の通りだったみたいだが、

 最近は少し緩和されて事前申請をすれば誰でも立ち会えるようになったらしい。

 非公開を続けて変な興味をもたれ、マスコミの玩具にされては敵わんのだろう。」

「お前詳しいな。」

「大学で風土歴史や民族学を学んでいてな、

 その観点から見てもこの土地は楽しいぞ。」

「……まあ、少し【白雀神社】に興味出てきたかな。」

「……(こういうところはやっぱり似た者同士なんだなぁ。)」

「セシルさんのですよ!」

「あ、ごめんなさい。

 じゃあ引きますよー。」


 真面目な顔をして真面目な話をしている星一朗と悦郎の話を

隣で聞きながらセシルは妙に納得していた。

セシルと泪と恵玲奈は泪が持ち込んでいたトランプに興じていた。

たかだか20分程度乗車時間だというのによくやる。

悦郎はそう星一朗にこっそりと突っ込んだのだった。

どうやら面と向かって突っ込む度胸は無いらしい。


「そろそろ到着すんぞ。」

「えー、もう?

 あ、お兄ちゃんこれ持っててね。」

「乗車時間20分なんだから、こんなもんだろうが。

 ってか恵玲奈、何さらっと俺にバッグ渡してんの……自分で持ちなさい。」

「ちぇっ。」


 そう言って恵玲奈は星一朗に渡していた

小さくファンシーな色合いのバックパックを背負う。

セシルや泪も普段持ち歩いているようなバッグではなく、

身動きの取りやすい軽量で小型な手提げバッグを持ってきていた。

一応、取材旅行であるという主目的を忘れはいないらしい。

ちなみに悦郎は黒い腰バッグを装着、メモ用のノートやらデジカメやらを忍ばせていた。

星一朗はというと、財布とスマホをジャケットのポケットに突っ込んだだけで

他は何も持ってきていなかった。

外を歩くのがメインなら手ぶらが一番というポリシーがあるようである。

誰が一番物見遊山なのか一目瞭然であった。


――ご乗車ありがとうございます。 間もなく【白雀駅】に到着致します。

  お降りの際はお忘れ物がないようご注意ください。

  【白雀駅】の次は――


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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