第六十七話 頂きはまだ見えぬ
「で、結果はどうだったんだよ悦郎。 あれから報告一つ寄越さねぇでよ。」
「だからこうやってわざわざ顔を見に来たんだ。」
「いや、それは答えになってねーっての……。」
星一朗と悦郎の不毛な会話が続いている。
何やら芝居がかった言い回しを続ける悦郎に対して
星一朗は毎度突っ込みを入れていた。
心の中でこの野郎面倒掛けやがってと思っていたし、顔にも思いっきり出ていた。
しかしここで悦郎をスルーしようもんなら
何の話も出来ないまま時間が過ぎてしまうのはわかっていた。
故に星一朗は悦郎の話につきあうことにしたのだった。
こう芝居がかった言い回しを悦郎がするときは、
たいていテンションが上がっていたり、何か良いことがあったときだけである。
セシルと泪もその様子をしばらく眺めていたが、
あまりにも話の進展が見られないこともあり、
コレクションルームの散策へ行ってしまったのだった。
「はぁ……お前がそんだけ面倒くさい状態になっているんだ。
意外と結果はよかったんだろう?」
「ふ、流石は星一朗だな。
結果は二次選考までは残ったぞ。」
「は?」
悦郎はもしかして二次選考と言ったのか、
それはどう考えても上成績とは言えない位置づけだと思うんだが、
どうして悦郎は嬉しそうなんだ、
と混乱し始めた星一朗は改めて我が耳に聞こえた言葉を発した。
「二次選考……?」
「なんだその鳩が豆鉄砲みたいな顔は。
二次選考だぞ二次選考。
初参加・初作成・初ディレクションで二次選考は大したもんだ。」
「……いや、まあ、なんだお前自身が納得してるなら俺は何も言うことねぇわ。」
「まさか優秀賞とかを期待していたのか?
そんな無謀な期待をするほどオレはロマンチストじゃ無いぞ。
自分の実力も置かれている環境や状況も全部理解している。
その上で、二次選考まで残れたんだから、オレとしては御の字なんだ。
関わってくれた人達それぞれはどう思っているかわからんがね。」
「でもよ、どうせ応募したんだからトップ取りたいだろ?」
「ふ、それはそうだ。」
だよな、と星一朗は天井を見上げる。
幼馴染みとはいえ、他人の考えていることは全部はわからんもんだよな、
とほくそ笑むのであった。
一番分かっているはずの家族、
それも妹である恵玲奈に対しても同じことが言える。
「……ま、その様子なら熱意とか失ったわけじゃ無さそうだし、安心はしたぜ。」
「だが、まだそこに至る為にはオレは……。」
悦郎は話の途中でふぅっと深く息をし間を置いて言葉を続けた。
「いやオレ達は絶対的に経験値が足りない。」
「なんで言い直した……、
それはともかく、たかだが二十歳少し過ぎた程度の若造達だけで創ったゲームが、
いきなりトップ取ろうもんなら俺でも色々と疑うわ。」
「そこでだ。
来週あたり取材旅行に行こうと計画している。」
経験値が足りない=取材旅行に行く、
毎回色々すっ飛ばして回答をくれるやつだなと星一朗は渇いた笑いを返す。
この辺りの思考回路は把握してるようで、大した驚きを見せない。
しかし取材旅行か、と星一朗は行ったことも無い
外国の史跡や古い町並みを想像していた。
カメラ片手に気に入った場所をぱしゃぱしゃ撮り続け、
怪しい外国人だと何かの建物の警備員に目をつけられ、
あれこれと質問攻めに合うまではテンプレ、
と悦郎が右往左往している光景を星一朗は容易に想像できた。
「へぇ、そいつは楽しそうだな。
つってもどこ行くんだよ、まさかの海外か?」
「いいや、そんな金はどこにもない。
ゆえに隣町だ。」
「近ぇなっ!
まあ、旅行だからってわざわざ遠方へ足を伸ばす必要はないけどよ……
隣町か……あそこって何かあったっけか?」
「隣町とはいえ、異なる土地だ。
新鮮な要素も多かろうさ。」
「まあ頑張って取材してこいよ。
帰ってきたら写真でも送ってくれ。」
すると何故か不思議そうな顔をする悦郎。
何を言っているんだと本気で不思議がっている顔をしていた。
額にうっすらと脂汗が浮かぶ。
これは面倒くさい展開だと星一朗の直感が囁いている。
しばらく状況を飲み込めなかった星一朗だったが、
悦郎が言わんとすることをようやく理解した。
そして何故悦郎がわざわざ帰省して顔を見せに来たのかも理解した。
「……あー、俺も着いて来いってことか?」
「ふ、旅は道連れ世は情けというではないか。
一人旅も悪くないがそれはまたの機会だな。」
「ヤロウ二人旅かよ……。」
「そうは言っていない。」
そう言って悦郎はチラチラとコレクションルームの奥を見やる。
分かりやすいヤツめと言おうと思ったが
星一朗は自ら提案した体にすることにした。
「どうせならアイツ等も誘うか暇してそうだし、あと恵玲奈も。」
「お、おう、構わん。
女性陣がいると華があって良い。」
「……いい加減慣れろよ……初めましてじゃあるまいし。」
何だかんだかと話がまとまった頃、
コレクションルームの散策からセシルと泪が戻ってきた。
セシルの手にはゲームソフトが握られている。
泪がチラチラと星一朗に鋭い視線を送りつけてくる。
どうやらセシルに随分と振り回されたらしく、
何だかかなりお疲れのご様子である。
久しぶりに合ったこともありセシルも楽しかったのだろう。
「セシルと泪、来週空いてる?」
「どうしたんですかチェスター君、改まって。」
「……その口ぶり、なぁに? 何かの悪巧みかしら。」
「俺じゃねぇって、悪巧みはこいつだこいつ。」
そう言って悦郎の背中を押す。
「いやさっき星一朗と話してな、オレ達と取材旅行に行かないかとな。」
「あら、それは楽しそう。
でも随分急じゃないの。」
「場所はどこだと思う?」
「どこなんですか?
首都ですか? まさかの海外とか。」
思考回路は俺と一緒だな、と星一朗はセシルの答えを聞いて思わず一笑する。
「隣町だ。
近すぎて行ったことがないし、存外に良い影響を受けるやもしれん。」
「だそうだ。
良かったら二人も来ないかなと。 日帰り旅行だけどなー。」
「行きます!!
隣町ってあたしも行ったことがないんで気になっていました!」
「いいわよ、恵玲奈も誘うんでしょ?
来週は珍しく予定少ないし、日帰りなら問題ないしね。」
セシルと泪の即答に思わず拍子抜けをする星一朗。
もっと予定がどうの、スケジュールを確認してから
返事するだのと言う回答をどこかで期待してただけに、
あまりにもあっさり過ぎて驚いていた。
「君達、随分アッサリと了承すんのね。」
「なに?
焦らされて欲しかったの?」
「そんなんじゃねぇよ。
お兄さんは心配しただけだ。」
「誰がお兄さんよ誰が。」
コホンと咳を一つ入れる。
「それはともかくだ、隣町行ったこと無いヤツ多すぎ!
俺なんて人生のうち2回しか隣町に行ったことねぇがな!」
「と言うわけで丁度良い機会になれば、オレとしても幸いである!
取材旅行の体なので遊びでない事を強調しておこう。」
隣町とは星一朗達が暮らす都市の隣に位置する、
人口3万程度の小都市のことである。
ベッドタウンとして賑わっていたこともあったが、
今では人口流出に歯止めが効かない状態であり、
最盛期と比べて小学校が3校廃校になり、
高級マンションが建設されなくなった。
よくある過疎化現象が始まっているのだが、人口3万を切ることはなかった。
扇状地に当たる土地柄、手頃感のある自然がそこそこ残されていることもあり、
自然を求めて転入してきた人間もいなくはないのだろう。
「じゃあ決まりな。
来週のこの日この時間で。」
「雑すぎ!
悦郎君、後で全員にリマインドメールしておいてね。」
「了解した。
あ、そう言えばセシルさんの連絡先をオレは知らない。」
「あ、教えますよー。
えーと……。」
「む、メールではないのか?」
何故か低姿勢でセシルの連絡先を聞く悦郎の図。
「さっさと聞いておけよな……っと恵玲奈には俺から言っておくわ。」
「じゃあ今日のところは私帰るわね。
何だか色々あって疲れちゃって……。」
「おう、また来週な。
俺はもちっと竜二さん達と語り合う事があるから。」
「竜二さんも仕事で疲れてるんだから、適当なところでお暇しなさいよね!」
「わかってるってば。」
ほんとに分かってるのかしら、
と疑いの目を向けられる星一朗だったが下手な口笛を吹いて誤魔化そうとしていた。
あまりにも古典的な行動だった為、セシルは笑いを堪えるので必死だった。
この後、悦郎と泪は竜二に挨拶をして今日は帰ると話した。
もう少し残っていけよと星一朗は悦郎に言ったが、
他にも寄るところがあると言って断ったのだった。
「じゃあな星一朗。
あとで連絡する。」
「じゃあねセシル。
貴女もゲームばっかりしてちゃダメよ、
そこのゲーム馬鹿みたいになっちゃうかもしれないから。」
「うるせぇよ!」
「あ、あはは、またね泪さん。」
星一朗とセシルは口うるさいまるで姉のような泪と、
用件が全て済んで何故かすっきりとした表情の悦郎を見送ったのだった。
二人を見送って改めてコレクションルームへ戻ってきた時、
星一朗の腹の虫が一斉に鳴き出した。
そう言えば悦郎達の乱入があったせいで食事することを完全に失念していた。
時計を見れば20時を廻ろうかという頃合い、
通りで一向に腹の虫が泣き止まないはずだ、と一人星一朗は納得していた。
「お腹空きましたね。」
「これは危険水域だわ……
さっきからぐーぐーぐーぐーと五月蠅いのなんの。」
「おじさまが用意してくれてるみたいなので、上に戻りましょう!」
「ありがたき幸せ!」
続く
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。




