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第六十六話 生姜湯と悪趣味なジョーク

「【デモンズソウル】はなかなか骨太なスタイルなのはいい、

 だがしかし、今日はちょっと疲れた……。」

「ちょっと……ってどのくらい遊んでたんですか?

 見たところ1時間や2時間じゃすまなそう。」

「セシルの休憩が終わった後からずっと。」


 星一朗の答えに竜二とセシルの顔がこわばる。

竜二は壁掛け時計に目を移してしまう。

ざっと考えて5時間弱はプレイしていた計算になるわけだが、

言葉の割に元気そうに見えた。

普通の人間ではとうの昔に集中力は途切れてしまっていることだろう。

若さを通り越して最早執念に等しいんじゃないかなぁ、と

漠然に星一朗のゲーマー魂に平伏していた。

ゲーマーという人種を理解していない普通の人は呆れて物も言えないだろう。


「身体が休憩を欲しているんだろうね。

 それはともかく1時間毎くらいに1回は休憩を入れておいた方が良いよ?」

「あれ、竜二さんもそんなウチの母さんみたいなことを言うんですか?」


 まさか竜二からゲームについて注意を受けるとは思っていなかった星一朗は、

口をとがらせて言葉を返す。

セシルも竜二の言動が気になったのか、あのおじさまが、と回答を待つ。


「人生の先輩として経験したから言える注意だよ。」

「……そ、そういうことなら。

 少しは考慮してみたいと思います。」

「……(こんな迫力満点なおじさま初めて見た。)」


 思った以上に竜二の言葉には実感がこもり異様な迫力があった。

何かあったのだろうと、

そうとしか思えない迫力に星一朗は善処すると答えるので精一杯だった。

竜二は星一朗に忠告した後、

1階の喫茶店スペースから持ってきていたコーヒーカップなど、手際よく片付けていた。

セシルが手伝うと申し出たが、一人で十分だよと言ってさっさと持っていったのだった。


********


「ふぅ……あの2人を騙すみたいで少し気が引けるけど、

 まあ、たまにはどっきりがあってもいいよね。

 セシル大丈夫だよね……星一朗君いるしね。」


 竜二はそう小さく漏らし、約束通りに店の裏口のドアの鍵を開ける。

準備が整ったら店の裏口を開ける手はずになっており、

寒空の下で震えながら待機していた悦郎と泪はその様子を確認し、

なるべく物音を立てないようにそーっと、だが迅速に店内へ転がり込んだ。

竜二はその流れで一気にコレクションルームへなだれ込むだろうと思っていたのだが、

2人は店内に入るやいなや捨てられた子犬のような目で竜二の顔をのぞき込む。

その様子を見て竜二は即刻理解した。彼らが求めているものが何なのかを。


「あ、あたたかいものを……。」

「そりゃそうだね。

 すぐに用意するからカウンター席にでも座っててよ。」

「……お、恩に着ます竜二さん。

 こう言うのもなんですが、お、お早めに。」

「……手がかじかみすぎて、感覚がなくなりそうなんですけど……

 ちょっと悦郎君、この作戦、ダメダメだったんじゃないかしら!?」

「何を言う!

 この寒さだからこそ相手は油断するのだろう!

 おっと声が大きかった。」

「はぁ……もうなんでもいいわ。」


 竜二は2人のやり取りを見て寒さで体調を崩していないことを確認し、

生姜湯を手早く作りカウンター席においた。

カップから立ち昇る湯気は、生姜のほろ甘い香りが鼻を刺激する。

見るからにほっと安心感を覚えそうな雰囲気すら漂わせていた。

2人は思わず竜二の顔を見てお礼を言った後、

大事そうにカップを持ち冷ましながら少しずつ喉に通した。

冷えた身体に染み渡る生姜湯。

五臓六腑に染み渡るという言葉がはっきりと理解できた瞬間である。

思わず涙がこぼれそうになりながら、2人は竜二の心遣いに感謝しきりだった。

ちなみに【箱庭】のメニューの中に生姜湯は存在していない。

どうしてメニューにない生姜湯を竜二がすぐに用意することが出来たのか、

その答えは本日料理教室へ行っていた恵玲奈が握っていた。


―うちで良く使っている生姜湯買っといたので、調味料棚に置いておきますね。

 これは私たちの休憩用です!―


「ふぁああああ~っ……おっと失礼。

 いいですねこういうのも……なんだか安心しました。

 あんまり生姜湯って飲まないんですけれど、

 こういう時に飲むと格別な安心感を感じます。」

「まさか【箱庭】で生姜湯が飲めるとは……しかしこの味は記憶にあるな。

 昔、星一朗の家で飲んだ時と同じような……。」

「そう言えば私も記憶があるわ。

 昔、黒瀬家へ遊びに行ったとき、この季節はよくおばさまが出してくれたわね。」

「流石、黒瀬兄妹の幼馴染みだね。

 この生姜湯、恵玲奈ちゃんが用意してくれていたんだよ。」


 2人は恵玲奈の仕業だと分かると、ああなるほどと納得顔だった。

通りで知っていた味だと思っていたからである。

幼い頃の記憶、特に味覚については脳よりも舌が覚えている。

体験記憶というものだろう。


「あとで礼を言っておこう。」

「急に私たちからお礼の連絡がきたら、あの子びっくりするわね……。」


 約10分、身体も暖まってきたところで予定していたミッション再開である。

体力や気力も生姜湯で一気に回復していた悦郎はやたらとテンションが上がっていた。

手持ちの道具をこれみよがしに眺めたり、カチカチと音を立ててみたり、

店内の鏡を見つけると身だしなみを気にしていたりと落ち着かない。

実のところ泪は、もうどうでもよくなっていた。

一度暖かい飲み物を飲んで落ち着いてしまったこともあり、

再び同じノリに戻れないでいたからである。

横目で悦郎のテンションを見て、大したものねと感心すらしていた。


「さぁ泪さん、突入開始だ。

 準備はいいかい?」

「はいはい、準備OKよ。

 それはそうとあの寒さで湿気ってないでしょうねぇこれ。」

「……メイビーオーケー。」

「ま、まあ怒られない程度に頑張っておいで。」


 竜二の優しげな視線に見送られなが、

2人は装備を整え星一朗とセシルが居るコレクションルームへ向かったのだった。


********


「さて、チェスター君何か別のゲームでもしますか?」

「うーん、そうねぇ、せっかくだし何か対戦系か協力系しようぜー。」

「ゲームしようって言ったあたしが言うのもなんですけど、

 帰らなくてもいいんですか?」

「いいのいいの。

 朝からお袋は仕事の追い込みだからって帰り遅いみたいだし、

 恵玲奈は何か学校の友達とカラオケ行くとか言ってたし。」


 星一朗は事も無げに言い放った。

星一朗のご家庭事情もある程度知ってきたセシルはそうだったんですね、と返すだけだった。

すると星一朗は財布から1000円を取り出して、これが今日の夕飯代だと言ったのだった。

見かねたセシルは一つ提案をする。


「じゃあ、あとでおじさま達と夕ご飯ご一緒しましょうか。」

「マジで?

 助かるわぁ~カップ麺覚悟してたから、

 ご相伴にあずかれるならば食事レベルが天地の差だぜ。」

「あ、あはは、料理覚える気ないんですね……。」

「なくはないです。

 まあ、覚えなきゃならん感じになったら嫌でもやるだろー。」


 その時だった。コレクションルームの重い扉が勢いよく開け放たれたのは。

冷たい空気と同時になだれ込んできたのは、

黒で統一された服を身に纏った怪しげな二人組だった。

思わず立ち上がった星一朗とセシルだが、

目の前で展開されている状況に戸惑っているのか少し冷静さを欠いてしまっていた。

怪しげな二人組は目だし帽で顔を隠し、

その手にはハンドガンに見える武器を握っている。

歩く仕草や背格好から一人は中肉中背の男、もう一人は女性のように見えた。

反射的に星一朗はセシルを自分の背に隠すように動く。

視線はガッチリと侵入者を見据えて動かさない。

ゆっくりと警戒を続ける星一朗とセシルに近づき、

怪しげな二人組は銃口を二人に向けた。


「Hold up!」


 女性と思わしき侵入者が景気よく乗り気で英語で叫んだ。

その叫び声に何やら違和感を抱く星一朗。

だがすぐにその違和感に対する答えは見つからず、

その言葉に従い星一朗とセシルは両手を挙げた。

すると怪しげな男は、星一朗の肩をぽんぽんと叩いて再び銃口を向けこう言った。


「くくくっ……良い格好だな!

 だが貴様の運もこれまでだ!」


 男の声に聞き覚えがあったのだろう、星一朗は怪しげな二人組を交互に見て訝しむ。

女の方もセシルに近づき耳元でささやく。


「How have you been?」


 女の言葉と同時に怪しげな二人はトリガーを弾いたのだった。

思わず目をつむるセシル。明らかに気の抜けた顔をする星一朗。

そしてパーン、パーンと渇いた破裂音が2回なったのだった。

銃口から飛び出したのはもちろん銃弾などではなく、

クラッカーの紙と火薬の煙である。

良くあるパーティー用のジョーククラッカーであるが、

見てくれのデザインは本物と銃とよく似ていた。

正体晴らしとばかりに被っていた目だし帽を取り、身に纏っていた衣装を脱ぐ。

そこにはニヤニヤ顔の悦郎と、やれやれと言った様子の泪の顔があった。

途中から怪しげな二人組が誰かのか察知していた星一朗は、

頬を引きつらせながら口を開く。


「お前等なぁ……何やってんだよ!

 ほらセシル、大丈夫だから目を開けな。」

「だ、だ、大丈夫ですか!

 今、パン!って音が鳴って……ってアレ?」


 セシルはおそるおそる目を開けると、

そこには悪戯っぽい表情を浮かべた悦郎と泪が立っていた。

二人の顔を見て安心したのか、セシルはどさっと腰が抜けたように座りこんだ。

そして深くため息をついて、良かったと小さくもらしたのだった。


「悪趣味だぞ悦郎。」

「ふ、何故オレの案だと分かった。」

「こんな手を考えるヤツは一人しか知らねぇからだよ!

 お前、セシルにちゃんと謝っておけよな!」


 何故か星一朗しかいないと思っていた悦郎は、

思わぬゲストの存在に突入した瞬間驚いていた。

だが途中で止めるわけにもいかず今に至る。

悦郎はへたり込んでいるセシルに対して土下座の謝罪をするのだった。


「ってか泪、何でお前まで悦郎の案に乗ってんだよ!」

「ご、ごめんなさい……なんとなく面白そうだなって思ってしまったのよ。」


 泪も今日ばかりは素直に怖がらせてごめんなさいと謝罪したのだった。

セシルは二人に対して最初は驚いたけど今は大丈夫だから気にしないで、と

笑顔で答えたのだった。


「それはそうと来るときくらい連絡しろよ。」

「ふ、今来るぞ。」

「お前の日本語、変だぞ……。」


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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