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第六十五話 塔の騎士に迫るボロ雑巾の戦士

 現在の時刻は午後5時を廻ったところ。

喫茶店の客足も減り店内業務から解放されていたセシルは、

地下の【コレクションルーム】で一人ゲームをしている

星一朗の元へ馳せ参じていた。

星一朗がゲームに熱中している姿はどこか安心感を覚える。

つまり周囲を取り巻く環境が変わらず平和だという証左なのである。


ガタガタガタッ


 【コレクションルーム】に備え付けてあるテーブルの上に置いていた

星一朗のスマートフォンがブルブルと音を立てて振動している。

普段からマナーモードにしているようで、

音楽の趣味がモロバレせずに済んでいた。

ほぼプライベート空間なのに何故マナーモードなのか。

恐らく通常モードとマナーモードの切り替えが面倒なだけなのだろうが。

パブリックな空間なのにマナーモードにもせず、

堂々と趣味全開のBGMを着信音にしている輩と比べれば何と慎ましいことか。


それはともかく、マナーモードとはいえ

堅い物体の上に乗っていたりすれば振動でガタガタと音を立ててしまうのは明白。

その音が気になって仕方が無いセシルは、

チラチラと星一朗のスマートフォンを見たり、

星一朗自身を見たり、どうしようどうしようと何故か1人で慌てていた。


「あ、あのっ」


 星一朗はセシルの声に気づいて視線をセシルに移す。

セシルは必死にテーブルの上でガタガタやっているスマートフォンを指差していた。

口で言えばいいのにという話だが、、やや混乱していたのだろう。

彼女の指差しに従い改めて視線を動かし、

テーブルの上のスマートフォンに気づいた。

振動の回数から電話ないことは分かっていたこともあり、

星一朗は落ち着いた様子でスマートフォンを手に取りロックを解除する。

そしてメールの差出人の名前を見るやいなや、

”げっ”と声を挙げて面倒くさそうな表情を浮かべた。


「何のメール、だったんですか?」

「泪から。」

「泪ちゃんかぁ、最近会ってないなぁ~……。」

「さぁて、それはともかく、続き続き。」


 そう言って星一朗は再びスマートフォンをテーブルの上に戻し、

ゲームパッドを手に持ち一時的に止めていたゲームを再開した。

一体何のゲームをやっているのかと思えば、

硬派な雰囲気を醸し出しているファンタジーもののアクションゲームだった。

ゾンビ兵のような敵と相対しており、

盾を構えて隙を伺いながら長剣を振り回していた。

何やら操作が難しいのか、それとも星一朗のセンスがないのか、

たまに妙にジャンプしたり転がっていたりしていた。

セシルはその様子を見ながら、冷や汗を流して1人そわそわしていた。


ガタガタガタッ


 再びテーブル上のスマートフォンが暴れ出す。

星一朗は今度は素早くスマートフォンを手に取りまたもや

”げっ”と声をあげそのままスマートフォンを元に戻した。


「……やかましいのでスルー。」

「そんなこと言わず見てあげればいいんじゃ……。」

「どうせ内容は面倒ごとに決まっているって。」

「いや、でも……。」


 セシルは途中で言葉を継ぐんだ、

何故ならば星一朗の顔はそれどころではない、と間違いなく語っていたからだ。

セシルが画面の方を見やるとそこには

ボスと思しき巨大な重装備の騎士姿の敵キャラクターの映像が映し出されていた。

星一朗が操る主人公の体躯の何倍もあろうかという巨体に、

セシルは思わずごくりと唾を飲み込んだ。

隣でコントローラパッドを握る星一朗の手にもチカラが入っているようだった。


「セシルさんセシルさん、こいつに俺は勝てますかね?」

「うーん……これまでのチェスター君の腕から察するに、

 善戦すれば良いところまでいけるかもしれなくもない、です。」

「つまりは勝てるかどーかは、負けよりだけどメイビーってか。」

「正直に言えば。

 ただこのボスの動きは単調と言えば単調なので、

 パターンさえ見切ってしまえばお茶の子さいさいですよ!」

「俺はそのパターン見切りってのが苦手なんだよなぁ、

 お願いセシルちゃん、手伝って。」


 星一朗は調子の良いことを言いセシルに助成を請うのであった。

ちなみに星一朗がプレイしているゲームは【デモンズソウル】という、

硬派で名を馳せたアクションRPGである。

高難度で知られ、死んで覚えるゲームと言われており繰り返しプレイすることで、

クリアへの光明が見えるとか見えないとか。

キャラクターのステータスや装備を整えても

プレイヤーの成長が無ければクリア出来ないというわけである。

彼が挑んでいたのは序盤の【ボーレタリア】の【塔の騎士】である。

ステージ突破で結構時間が掛かってしまっていたようで、

ボス戦と言うこともあり少し緊張していたのだろう。

珍しくデモンズソウルの経験値が豊富なセシルを頼っていた。

アクションゲームそのものは好きな星一朗のことである、

時間はかかるかもしれないがきっと近い未来に全ステージクリアすることだろう。

先達であり、このゲームソフトの持ち主であるセシルは、

一緒にその光景を見れたらいいなと思ってもいた。


********


「星君から全然返信来ないんだけど!」


 メールの送り主である泪は【箱庭】に向かう道すがら、

前を歩く悦郎の背中をバンバンと叩きながら文句を言っていた。

どうやら星一朗から連絡がないようで、

泪の虫の居所があまりよろしくないようだった。

触らぬ神に祟りなしとばかりに、

悦郎は特に反論することもなく泪の好きにさせていたのだが、

どんどん背中を叩くチカラがエスカレートしてきたので、

くるりと向き直り文句を言おうとしていた。


「オレに八つ当たりしながら言うのはやめてくれないかな。

 ストレス発散は当人にやってくれたまえ。」

「一体何通メールしてると思ってんのよ!

 いい加減電話した方が早いかしら……。

 かといってここで電話したら何か負けた気がするし……ねぇ!

 悦郎君、どう思う?」


 泪が怖い顔をしていた。

悦郎が思わず目を背けてしまうくらいに。

こうなっては一蓮托生、少しでもこの場でストレス発散をしておかないと、

とばっちりで痛い目を見てしまう。

そう感じた悦郎は必死に疲れていた頭脳を回転させ妙案を探った。

そして一つ、これは泪も納得するだろう妙案を閃いたのだった。


「ふ、それよりももっといい手がある。」

「なに? その何か企んでそうな顔は。

 まあいいわ、アンタの手に乗ってあげようじゃ無いの。

 私の連絡をスルーするなんて覚えてなさいよ星君!!」

「まあ何てことは無い案だが、

 完全スルーを決め込んでいる奴には効果的だろう。」


 悦郎の案を聞いてみるみるうちに表情を変え悪戯っぽく笑みを浮かべる。

確かにそれは妙案だわ、と言って泪は別の人物に連絡を取り始めた。

悦郎は、はぁぁぁっと深くため息をついて小さくもらした。


「……(わかってはいたが、流石は星一朗のイトコだ……。)」


********


「お疲れ様、飲み物持ってきたから、一息入れたらどうだい。

 特に星一朗君はずっとゲームしっぱなしだろう?」

「あ、おじさま!

 あたしやります、おじさまの方こそお疲れなのに。」

「今日はセシルが手伝ってくれたからね、いつもより楽だったよ。」


 竜二は三人分のホットコーヒーを持って降りてきていた。

どうせ星一朗君のことだ、水飲まずにゲームに勤しんでしまっていることだろうと。

冬だからと言って、のどが渇いていないとはいえ、

水分補給はきっちりと行うべきである。

あまり想像できないかもしれないが脱水症状になってしまうからだ。

さらに部屋はエアコンをつけ、乾燥してしまっている。


「あ、ありがとうっす竜二さん、マジ助かります。」

「君にゲームを止めてなんて言わないから、

 あらかじめペットボトルの水くらい用意しておいてくれよ。

 ここで倒れられたらこの場所自体が

 存在できなくなってしまう可能性もあるんだし。」

「わかってますって、忠告はしっかりと守らせてもらいますよ。

 ここが無くなっちまったら俺は生きていけん。」

「……あ、あはは、チェスター君のその言葉、

 全然冗談に聞こえないです……。」


 ソファーに腰を下ろしふぅっと一息をついて

ディスプレイに映し出されているゲーム画面を見やる。

あぁ【デモンズソウル】かとつぶやき、

星一朗の隣に座っているセシルに進行状況を聞いた。

苦戦しているのは見ていれば分かるが、

プレイヤーの練度から進行度は推し量れなかったのだろう。

自身のプレイ経験を思い出しながら、かつての道を辿る友人の姿と重ねていた。


「苦戦しているようだね。

 難しいのは分かっているから存分にやられて、存分にゲームを楽しむと良いよ。

 ドラゴンのブレスに焼かれて、突然のギミックで谷底に落とされて、

 赤く目が光る来訪者に蹂躙されて、

 何故か足を踏み外して落下ダメージで苦しみながら学ぶゲームだからね。」

「そこだけ聞いているとトンでもないゲームですよね……。

 あたしもよくクリア出来たものだと思ってますし。」

「ある意味でその難しさや理不尽さがこのゲームの肝でもあるよね。」


 経験者二人は共にうんうんと頷く。

何だこの似たもの家族はと思いながら

星一朗はテーブルの上に置かれた湯気立ち上るコーヒーカップを手に取り、

冷ますような素振りも見せず一気に口へ運ぶ。

コーヒーの温度という重要なファクターを無視して。


「ぷはぁっ!!

 うめぇコーヒーめちゃうめぇっ!

 ブラックが胃に染み渡るぜ!」

「!!??」


 星一朗は竜二が持ってきたまだ熱いと呼べる温度のホットコーヒーを、

熱いの言葉も無くゴクリと一気に飲み干した。

あわわわわとセシルが何故か慌てて声をあげ星一朗の背中をさすり、

竜二はあまりの衝撃に目を大きく見開き驚きを隠せなかった。


「あ、熱くなかったかい?

 下に持って行くつもりだったから、

 いつもよりほんの少しだけど熱めにしていたんだけど。」

「あ、そういやまったく気にならなかった……

 よほど身体が水分を欲していたのだろうなぁ。

 うん、我ながら信じられない経験だった。」

「もう二度としちゃダメですよ!

 チェスター君はよくても周りが落ち着きません!」


********


「……ねぇ……ここ寒くないかしら。」

「寒いぞ。」

「無愛想に言わないでっ!

 で、いつ乗り込むのよ。」

「そろそろ協力者から連絡があるはずだ。

 それを確認して一気になだれ込む。

 ところで泪さん、そいつの扱いは大丈夫だろうな?

 荷が重いってんならこっちと変えるかい?」

「んまっ馬鹿にしてくれちゃって。

 どこをどうしたらどうなるかくらい理解しているわよ。」


 冬の暮れは早い。空を見れば夕闇が支配しようとしていた。

場所によっては夜と変わらない暗さになっている。

二人が待機している場所は建物の影になっており、周囲よりも暗い。

そんな中、悦郎の提案で闇に紛れやすい格好になった悦郎と泪は、

怪しさ抜群のいつ通報されても不思議で無い状態だった。


「悦郎君……アンタの手に乗った私が言うのも何だけどさ。

 アンタの趣味って通報されそうなところを狙ってやってるの?

 このタイミングで黒系衣装を纏うとか、

 闇の中で目立たないようにしている人間にロクな人間はいないと私は思うわ。」

「失敬な。

 作戦を成功させるためだ、我慢してくれたまえ。」

「私の幼馴染みは、中2病が長引いている。」


 すると急に悦郎が泪の口を手で塞ぐ。

急なことで驚いた泪だったが、何か動きがあったのだろうと

瞬時で落ち着き周囲に気を配らせる。

泪にはその瞬間は分からなかった合図と思われる動きは感知出来た。

悦郎はこの宵闇の中、すぐに反応し動き出していたのだ。

泪は少しばかり悦郎を感心したが、すぐさまその考えを改めた。


「……(最早変態技能よね、これ)」


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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