第六十四話 カードは行く末は神のみぞ知る
「じゃああたしはここでワイルドドロー4を使います♪」
「やめて。」
「いやです♪」
セシルは笑顔で手札からワイルドドロー4のカードを場に送り出し、
宣言したカラーはグリーン。場におけるカードはグリーンのみとなった。
星一朗は渋々山札から4枚のカードをドローして手札へ加える。
幸いにも色々あって手札は実に豊富、
カラーの一つや二つ何度も変更されたところで、
痛くもかゆくもない、屁のカッパなのである。
星一朗はちょっと悩みながらも、攻撃の一手に出た。
彼が場に出したカードはグリーンのドロー2。
次のプレイヤーに対して強制的に2枚カードをドローさせるものである。
「えー、ここでドロー2?……いじわるです、チェスター君は」
「いじわるとは人聞きの悪い。
これは勝負だ、勝負に手加減はない。
ほらさっさと山札からカードを引きたまえ。」
「いいですよ、別に。
カードの2枚くらい。
はい、グリーンのスキップ、からのグリーンのドロー2です。」
「またかよっ!」
攻撃に出たはずの一手はあっさりと挽回され、物の見事に返り討ちにあった。
おかしな話である。
ドロー2で強制的に2枚引かせたはずなのに、
セシルの手札はプラスマイナスゼロで星一朗は1枚増えてしまった。
ぐぬぬと声を挙げるので精一杯な星一朗をよそに、セシルの手札は残り2枚、
ゲームのルール的には上がり一歩手前となっていたのだった。
「グリーンの9な」
「はい、ブルーの9でUNOです!」
【UNO】とセシルは宣言した。
これはいわゆる麻雀で言うところのリーチ、
スポーツでいうところのマッチポイントである。
残る手札は後1枚。これを場に出されてしまうと星一朗は敗北と言うことになる。
ちなみに公式ルールでは残り手札2枚の状態で1枚場に出す際、
UNOと宣言しなかった場合は、勝利が認められず山札から追加で
2枚ドローしなければならない。
とあるローカルルールでは、UNOと宣言する前に他のプレイヤーが
指差しでチェックと宣言すればUNO失敗と見なされたりするものもある。
「後1枚とか……ここで読み違えるわけにはいかんな。」
「さてあたしは何色のカードを持っているでしょうか?」
セシルはカードを胸の前で隠し、楽しそうに星一朗に問いかけている。
ジロリとなめ回すような視線をセシルに向け、
何とかカードの中身を透視出来ないか目を細めてみた。
結果、無駄なのは分かっているがこれはもう気分の問題だ。
星一朗の異様な視線に気づいたセシルは、
思わず自分の胸を手で隠すような仕草を取った。
「ちょっと!
だ、黙ったまま、じ、じっと見ないでください!」
「いや、カードの中身を透視できんかなーと思ってね。」
「出来ませんっ!」
「そこをなんとか。」
「いいから、カードを置いて!」
セシルの勝利条件は、場に出ているカードの数字か色が一致すれば、
そのまま場に出して上がり。
数字が一致する確率は低いが、カラーに関しては単純に考えても
25%の確率でヒットしてしまう。思った以上に高い数字だと言える。
よく2割、3割は低い確率だと言うことが多いが、
ヒットをよく打つ野球選手の打率は高くて3割5分あたり、
つまりは35%ということである。
こう考えると決して低いとは思えない不思議。
「こう、手札が多いと何色でもどの数字でもおけて便利だよな。」
「早くカードおいてチェスター君。」
「ええいままよ!
俺は自分のカード運を信じる!
逆転への大いなる一手、青天にありし八雲よ! ブルーの8だ!」
「きゃーっ!
チェスター君ありがとうございます。
あたしの持っていたカード、レッドの8だったんですよ。
まさか数字ぴったりなんて、すごいラッキーかもですね!」
敗北であった。
25%の確率よりもさらに厳しい数字の一致を引き当てるセシルの幸運に乾杯、
そして負の方向で数字を一致させてしまった哀れな星一朗に合掌。
まさかのUNO初心者に大敗してしまった星一朗はがっくりと肩を落としながら、
場に散らばっていたカードを回収して綺麗にシャッフルを始めたのだった。
「神様は分かっていたのだな……こうなることが。」
「何の話ですか?」
「何でも無い。」
「チェスター君ってカード捌き上手ですよね。
練習とかしてるの?」
「昔取った杵柄ってやつよ。」
意外とこのシャッフルという行為、
それなりの訓練とそれなりのセンスが必要である。
不器用な人間がカードシャッフルを行うとほぼほぼの確率で事故になる。
シャッフルしていたはずのカードはさっぱりシャッフルされておらず、
シャッフル途中でなぜかバラバラとカードを落としたりするのである。
そう、星一朗の妹・恵玲奈のように。
「俺は色々あって練習量はまあまあだと自負してるが、恵玲奈がなぁ~……。
語り尽くせぬくらいに下手なんだ。」
「へぇ~、なんか意外ですね。
恵玲奈ちゃんこういうの苦にしなさそうなのに。」
「全然ダメなんだよこういうの。
トランプのシャッフルなんてやらそうもんなら、
52枚のカードが空中分解して拾うところからゲームスタートしちまう。
家族間でやるときは絶対に恵玲奈にはシャッフルをさせないね。
我が家の厳しいルールの一つだ。」
黒瀬家の厳しいルールの一つがここで判明した。
恵玲奈にはシャッフルさせない。
セシルは恵玲奈のむくれ顔を想像して思わず弁護したくなった。
「あ、あはは……それはそれで少しかわいそうかも。」
「いいんだよそれくらい。
そん代わりポーカーは異様に強えんだ……。
何だよ5カードって……ロイヤルストレートフラッシュより
下手すりゃレート高いっつうの。
……マジであのとき小遣い掛けなくてよかったぜ……ぶつぶつ……。」
「兄妹って大変なんですねぇ……。」
星一朗は恵玲奈にしてやられた過去のトラウマがフラッシュバックしていた。
どうして同じ血をわけた兄妹というのにここまでカード運が違うのかと。
最近ではこのカード運を利用して
ポーカーのあるゲームは恵玲奈にプレイさせて活用はしているようである。
ちなみにポーカーは言うまでも無くトランプを使用して遊ぶゲームの一つで、
カジノなどで利用されているシーンが思い浮かぶだろう。
親の手札の役と子の手札の役を比べて、
より高いレートの役を揃えた方が勝ちというルールである。
ローカルルールも様々あり、ジョーカーを含める場合もある。
星一朗がよく遊んでいたルールでは、ジョーカーを含めていたようで、
5カード(同じ数字のカード4枚+ジョーカー1枚)は
そのルールの元でのみ達成可能な役の一つであり、
ロイヤルストレートフラッシュよりも難易度は上と言われることもある。
ロイヤルストレートフラッシュは、
全て同じ柄で10、J、Q、K、Aを揃えた役のことで、
基本的にはジョーカーを含めない為、事実上の最高ランクの役になる。
「えーと、あたしそろそろ戻らないと。
長居しているとおじさまが大変なことに。」
「マジかって……結構時間経ってたのか。」
星一朗は部屋の時計を見て時の進む早さに驚愕した。
ちょっとだけ遊んでいた感覚だったが、ゆうに1時間近く遊んでいたようなのだ。
そして気づいてしまった。
同じ体勢をずっと取っていたので、全身の血の巡りが悪くなっていたことを。
セシルは立ち上がるとプール授業の前に行うような準備体操を始めた。
これからは客商売、機敏に動けないと迷惑になるということであろう。
俺も少し身体をほぐすかね、と星一朗も立ち上がり
某ラジオの体操うろ覚えバージョンを披露していた。
「そういや久しぶりに悦郎から数日前だけど連絡があったんだけどさ。」
「悦郎……ああ、鷲谷さん?」
「あいつそんな苗字だっけ?
って冗談はおいておいて、近々こっちに戻ってくるらしい。
まあ、冬季休暇中だし例のゲームコンテストの結果でも出たんじゃねーかな。」
「そう言えばどうなったんでしょうね。」
「あいつのことだ、例え優秀賞とか取っても連絡なんて寄越しはしないさ。
妙にかっこつけて、こういう事は口で直接報告するもんだろう?
とか言うに決まってる。」
「あ、あはは……そこまで知っているわけじゃないけど、
彼ならそう言いそうかも。」
「でも戻ってくる日は言ってなかったなぁ……
いきなり来てもタイミング合わなかったら意味ねーだろうがよ
……何考えてんだあいつ。」
セシルはそう言って喫茶店へ戻っていった。
休憩時間だったはずだが、思い切り遊んでしまった件について
星一朗は少しだけ反省していた。
身体を休めたかったかもしれないのにと。
********
街の繁華街にある駅構内にて、鷲谷悦郎は久方ぶりの帰郷を果たしていた。
あまり似合っているとは言いがたい黒の中折れハットに、
これまた黒のトレンチコートを着込み、わざとらしくため息を入れる。
内胸ポケットからスマートフォンを取り出し、知人に電話を試みていた。
だが相手は電話に出なかったようで、
悦郎は目頭を押さえながらスマートフォンをコートの内胸ポケットに戻した。
吐く息が白い。
すると今度はコートのポケットの中に入れていた缶のブラックコーヒーを取り出す。
どうやら暖を求めて買っていたようだ。
「駅に着いたら連絡を寄越せと言ったのは自分だろうに、なぜに電話にでん。」
「アンタの姿が見えたから出る必要がなかっただけよ。」
悦郎に辛辣な言葉を浴びせるのは真野泪、星一朗達のイトコでもある。
今日、悦郎と約束をしていたようでこの寒空の下わざわざ迎えに来ていたのだった。
少し前まで泪はベリーショートに近いくらいまで髪を短く切っていたようだが、今では随分と伸びてきており、ショートボブと言えるくらいまで復活していた。
「……や、やぁ、泪さんお久しぶり。 一瞬誰か分からなかったよ。」
「ったく幼馴染みくらい顔で判断しなさいよ。
ところで悦郎君さ、親切で言ってあげるけれど……
その思わせぶりなかっこつけ?かなんかわかんないけど、止めた方が良いわよ。
正直、知り合いレベルで何とか話しかけても良いかなレベルで気持ち悪いから。」
「……いや、別にかっこつけているわけではなくてだな、
これがオレのスタイルというか。」
「そんなのはさっさと捨てなさいな。」
「……。」
この2人、忘れがちではあるが歴とした幼馴染み同士である。
たいていここに星一朗や恵玲奈が混じっているので、
この2人だけだと違和感があるのは仕方が無いことでもある。
それにしても泪は相変わらず手厳しい様子。
悦郎はこうやって突っ込まれることを幸せに思った方が良いだろう。
「それはそうとちゃんと星君達に連絡はしたんでしょうね?」
「ふ、オレがあいつにそんなみっともない連絡するわけ無いだろう。」
「……知ってた。 確か星君は今日、というかほぼ毎日だけど
【箱庭】にいるはず。
私から連絡しといてあげるから、そこでじっとしてなさい。」
「……オレを一体何だと思っているんだい?」
続く
ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。
一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。




