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第六十三話 アナログゲーム

 時を遡ること数ヶ月、つまりはまだまだ寒さが厳しい2月上旬のある日のことだった。

いつものように喫茶店・【箱庭】のほぼ専用と言っても過言ではないカウンター席で、

この物語の主人公は、何の代わり映えもしない

”いつもの”ホットコーヒーを美味しそうすすっていた。

美味い、となかなか口には出さないがすぐ考えが表情に出る男である。

オーナーや常連客は彼の性格を把握しているのだろう。

ゆえに無理に感想は聞かないのだった。


 そんな彼は暇さえあれば必ずこの喫茶店に顔を出していた。

もはや日課、いや、ライフワークに等しい状態である。

喫茶店に行くのが趣味ではないはずなのだが、

たまに来店するそこそこ常連客は彼のことをやや誤解していた。


「……(喫茶店マニアかな?)」


 若い女性の従業員が彼の隣に立ち声を掛ける。

追加のオーダーはしていなかったようで少し困惑していた彼だったが、

何やら顔見知りのようで会話が弾んでいた。

長い黒髪にスラリとした体躯、

仕草一つ一つに彼女の性格が現れているようだった。

彼と話す彼女の優しげな眼差しや楽しそうに微笑む姿は、

彼女を知らない人間もその姿を見れば思わず見とれてしまうことだろう。

彼女ははっと我に返り、

トレイに乗せていたビターチョコレートケーキを彼の前にコトリと置く。

どうやら頼まれものを運んできただけだったらしい。

俺はケーキなんて頼んでねぇぞ?と

疑問符を浮かべながら彼はオーナーの方を見やる。

オーナーは味見よろしくねと言う意味で、うんうんと頷いていた。


「なるほど……新作か。」


 慣れない手つきでフォークを操り、

ケーキを小さく食べやすい大きさにカットする。

ケーキを食べる時、フォークを使った経験の浅いのだろう。

きっとおそらくたぶんほぼ確実に箸で食べるタイプなのだろう。

余談だが彼には妹がいる。最愛の、がつく妹だ。

彼の妹曰く、お兄ちゃんは何でも箸。

少しは食器の存在意義を考えた方が良いよ、だそうである。


 カウンター席の彼、すなわち黒瀬星一朗は久方ぶりのケーキを楽しんだ。

自分から買う機会ゼロの人間にとってはありがたい厚意でもある。

ちゃんと感想言おうと思った星一朗であった。

ケーキを運んできた人物はオーナーの姪っ子である本条セシル、

星一朗の学校の同級生であり仲間である。


「甘過ぎないのがいいな。

 竜二さんに言っておいて、もしかしたらこれ結構男受けもいいかもよって。」

「はーい。

 あたしもこれくらいが丁度良いかなーって思ってました。」


 星一朗はくるり後ろを向き店内を見渡す。

奥のテーブル席にスーツを着たサラリーマンが一人、

窓際のテーブル席に年配の女性が二人いるだけだった。

久しぶりに感じたこの閑散とした懐かしい雰囲気に、

失礼と思いながらも星一朗は口元が緩んで仕方が無かった。


「それはそうと、今日はわりと暇そうだな。

 ここ最近、ずっとなんじゃかんじゃと忙しい感じだったみたいじゃん?」

「おかげさまで♪

 おじさまは口では暇が欲しいって愚痴ってばかりですけど、

 これはこれで感謝しているみたいです。」


 ほんとかよ、と星一朗はオーナーの方を再び見やる。


「まあ、お店が繁盛するには悪いことじゃないよな。

 ここ無くなったら俺生けていけんし。」

「……あ、あはは……。

 あ、そうそう恵玲奈ちゃんは今日は何してるんですか?」

「あいつはお料理教室行ってるよ。」

「へぇ~お料理教室ですかぁー、いいですよね、

 美味しいお料理を自分で作れたらどんなにいいか……って、ええーっ!?

 どうして恵玲奈ちゃんがお料理教室に?」

「そんなに驚くことか……。」


 予想だにしなかったセシルの挙動に星一朗が驚いた。

そんなに意外だったのだろうか、

恵玲奈よお前どういうイメージのされかたなんだ、と思っていた。


「驚きますよ!

 だってお料理教室なんて通わなくても色々作れるじゃないですか!」


 なんだと少しガッカリとした表情で納得の声を挙げる兄。


「うーん、何で通い出したのかは俺も知らん。

 自分で稼いだ金で通っているみたいだし、好きにさせとけばいいんじゃね?

 ってのが俺の意見。

 あいつの料理の腕が上がったら、ちょいと難しい料理を作ってもらおう。」

「お兄さんいじわるっ。」

「最愛の兄からの愛の鞭ということだ。」


 変態と誤解されかねないタイミングで彼は口走った。

その言葉を聞いていた後方の客から冷ややかな視線が彼に突き刺さる。

唯一の味方であるこの店のオーナーは案の定、彼の名前を呼んで苦笑い。


「俺は間違ったことは言っていないぞ!?」

「チェスター君、時と場合、TPOですよぉ……。」


 さてさて、と星一朗はいつものバッグから何やらゴソゴソと取り出す。

新作のゲームかなと思いセシルも顔をのぞかせるが、

そこにあったのはアナログゲームと呼称されることもある

電源不要のゲーム諸々であった。

ボードゲームのセット、カードゲーム用のカードデッキ、

テーブルトークRPG用の道具、

コンピュータゲームに心酔しているはずの星一朗のバッグから

出てきたとは思えないものばかりだった。

誰もが通った道・トランプや花札に双六、海外製のゲームもチラホラと。


「どうしたんですか? チェスター君が買ったの?」

「まさか。」

「じゃあ一体どこからこのアイテムを?」

「達也さんだよ。

 知ってるだろ? 白鷺達也さん。

 あの人から突然荷物が届いてたさ、

 一体何事かと思って届いた段ボール開けたらこれが詰まってた。」

「ああ、あの方ですか。」

「電話で送りつけてきた理由を聞いたところ、

 とある出張先で安く売ってたらしくて思わず大人買いをしたらしい。

 そんで、ちょっと多すぎたからってお裾分けで送ったらしい。

 達也さんとこにはこれの数倍はあるらしいぜ……。」

「そ、そうだったんですね……(何を考えてこんなに買ったのかしら)」


 白鷺達也はこの喫茶店の元常連客の一人だが、

最近は仕事の都合でめっきり顔を出せなくなっていた。

営業職のようであっちこっちに出張しているようだが、

時折、常連客の中でも仲の良い星一朗や

オーナーの竜二には連絡をよこすようである。

ただ今回のように段ボール一箱(50センチサイズ)レベルの物が

届いたことは無かった為、最初はかなり星一朗も動揺していた。


「それで、どうしてここに? 

さしもゲーマー黒瀬星一朗を持ってしても持てあましたのかな?」

「あ、竜二さん……いやー、貰ったのはいいんですけど、

 ほんとどうしたもんかって……。」

「持ってくるのは結構だけど、カウンター席に広げるのは勘弁してよ。

 下で広げるぶんには存分にどうぞだけどね。」


 それもそうだ、とポンっと手を打ち広げた荷物をいったん全てバッグへ戻した。

そしてカウンター席に置いてあった飲みかけのコーヒーを一気に飲み干す。

そしていつの間にかに平らげていたケーキ皿と共に

”トレイ返却”スペースへ持って行った。

竜二は片付けはこっちでやっておくのに、と言いたげだったが、

星一朗はすでに階段を降りていたのだった。

ちなみに客である星一朗が食器の片付けを行う必要はないのだが、

いつしか星一朗達常連の行為を見てか、

他の客達も見よう見まねでセルフサービス的に

食器をそのスペースへ返すようになっていた。


********


 地下の【コレクションルーム】にて、

テーブルとソファーがあるスペースで星一朗は持ってきた荷物を再び広げていた。

まだ全部を見たわけでは無いようで、

取りあえず段ボール箱からいくつか放り込んできたのだろう。

未開封品ばかりだった為、

星一朗はひとまず中身を見てみようと言うことでパッケージの開封を始め、

辺りに散乱するビニールのゴミ、プラスチックのケースが転がりだした。

出すところに出せばもしかしたら結構びっくりするお値段がつくものが

実はあったのかもしれないが、時すでに遅しである。


 一つ一つ丁寧に内容を見ていった星一朗だったが、

やはり慣れないゲームには苦労していた。

カードゲーム系は何となく内容が想像はついた。

スターターセットやらトライアルセットらしきパッケージの中には、

ファーストガイド的なゲームの説明書が入っていたし、

カードに記載されている内容からだいたいのルールは把握出来たからだ。

しかし専門用語も多く細かいところまでは苦戦した。


 TRPG系のゲームセットには、

ゲーム中で使用するアイテムのミニチュアが多く同梱されており、

ダイスやトークンなんかはゲームオリジナル仕様にもなっており目でも楽しめた。

ただ、ゲームそのものを理解するには少し時間は掛かるだろうなとは思ってもいた。

恐ろしい厚さのプレイガイドブック、ルールブックとも言うか。

ゲームの種類によって異なるのは間違いないが、

現在のコンピュータRPGの原型となったTRPG、

機会があればプレイしてみたいと思っていたが……。


「これは理解する為には覚悟が必要だな……。」

「チェスター君、広げるのは結構ですけど、

 ちゃんとお片付けしてくださいね。」

「分かってるよ、後で片付けるって。」


 散らかり具合を見て思わずセシルは言い放った。

やっと店の手伝いの休憩時間になったので様子を見に来たのだった。

転がっているゴミを拾い上げゴミ箱へ入れていく。

一通り周囲のゴミを片付けた後、

星一朗の隣に座り広がっているアナログゲーム群を見やる。


「カードゲームとか懐かしいですねぇ、

 小学校の頃、同級生の子達が集めてましたよ。」

「今も集めてるやつ多いよ。

 年季入ってるシリーズなんかは、

 もうほとんど初心者お断りみたいな雰囲気あるけど。」

「え? そうなんですか?」

「1枚数万円とかするカードもあるんだぜぇ?

 もうね、わけわかんねぇの。

 何回かその話を聞いてさ、カードの錬金術師になろうかと本気で考えた夜も……。」

「きっと物欲センサーが作動して、上手くいかないとあたしは思いますよ?」

「デスヨネー。」


 星一朗のこれまでの人生で、

我欲を満たす為だけで動いて成功した試しは一度も無かった。

宝くじを当てて一生働かなくていいようにしたい、当然のように外れ。

万馬券を当てて大儲けだ、当然のように外れ。

狙う的が小さすぎて、九分九厘結果は見えてしまう物ばかりではあるが。

妙に引きの良い妹の恵玲奈は、これまで何回か懸賞とかに当選した実績があり、

一度くらい俺も懸賞とか当たってみたいぜ、とその恵玲奈に愚痴っていたという。


「どれか遊んでみる?

 つってもまともにゲームルール把握しているのなんてあんまないけどさ。」

「じゃあ……これかな。」

「うお、UNO(ウノ・米国製のカードゲームの一種)かぁ。

 これは中学の時、昼休みとかクラスメイトとよく遊んだなぁ。

 高校の時はトランプの大富豪一択、

 今でこそ言えるが少額とはいえ賭けてたから、

 チカラの入れ具合も並じゃなかったぜ……」

「チェスター君……今でこそって言われても時効なんてありませんからね?」

「セシルの愛を信じる……お願い、恵玲奈にだけは言わないで。」

「……適当なこと言ってもあたし聞いちゃいましたからね。」


 少し動揺したのかセシルの声がうわずった。

敢えて何に動揺したのか細かく説明する必要はないだろう。

セシルは動揺を残しながらテーブルの上にある

UNOのカードデッキを拾い上げカードを取り出す。


「実はあたし見たことはあるんですが、遊んだことがないんです。

 だから、どんなルールなのかな~って。」

「へぇ~。」

「2人でも遊べるんですか?」

「出来なくは無いけど、このゲーム本来なら4人くらいで遊ぶのが丁度いいんだ。

 まあ、ルールくらいなら今すぐにでも教えてあげるよ。」


 そう言って星一朗はカードをセシルから受け取ると、

適当にカードをシャッフルして山札を作り上から順に7枚ずつ配った。

そしてあらかじめ抜いていた特殊なカードを1枚1枚、カードの挙動を説明したのだった。


続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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