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第五十九話 Its up to you

 ここは【箱庭】の地下室、

通称俗称ともに【コレクションルーム】は、久しぶりに人口密度が増していた。

外の積雪なんて地下室までは伝わらない。

まるで春の陽気の如き賑わいだった。

久方ぶりにコレクションルームでゲームが出来るぞ、

約一名からそんな空気を漂わせている。

女性陣はわいわいと何やら言い合いながら仮眠室の掃除をしたり、

ふむふむと何故か納得顔でコレクションルームに鎮座する

ディスクラックを掃除していたり、まるで飲み食いをしない女子会状態。

そんな中、一階の喫茶店スペースでオーナーたる竜二は、

お見合い相手の目の前で固まっていた。


「竜二さん?

 ど、どうしたんです、急に黙ってしまって。」

「……(かなりマズイ状況になってるよねこれ、気付かなかったよ)」

「あのー、竜二さーん?」


 目をカッ開いて固まっている竜二の前で、

パタパタと手をふり注意を引こうとする希亜。

だが、その苦労も空しく竜二に効かなかった。

普段、冷静に事を運ぶように心している竜二にとって、

今回の集団お泊まりイベントは、

取り返しのつかない致命的で軽率で無計画な展開だった。

いつものノリでうんと首を縦に振った事を後悔していた。

完全に希亜を連れてきていた事実を忘れ、

天気が普段と違い積雪レベルの雪模様である事を忘れ、

出来る事ならばこの場でうわぁ!と大声で叫びたかった。


「っていつまで固まってるんすか竜二さん!

 ……あー、ダメだこれ。」

「あ、あの、竜二さんどうされたんでしょうか。

 急に固まってしまって反応が無くなって……えーと、あの……。」

「……あはは、なんつーかメモリリークでも起こしたんじゃないすかね?

 色々な事があったけど処理しきれなくてーみたいな?」


 星一朗は希亜の疑問に適当に答えた。

星一朗は何となくだが竜二が固まってしまった理由を察していた。

あれだけ見合いをする前に、断りをいれるつもりだと宣っていたのに、

断りをいれる予定の相手を事情があるのせよ、自宅に宿泊させるのだ。

あながち竜二が固まってしまった主因は

メモリリークで間違っていない気がしていた。


「め、メモリリークですか?

 竜二さんって実は機械の身体を?」

「あ、いや、冗談ですよ。

 きっと疲れが一気に来たんじゃないですかね?

 ほら、普段はこの喫茶店からあんまり外に出ないから。」

「……あー、なるほど。

 人混みって慣れていないと酔いますもんね。

 ふふ、竜二さんって結構繊細なんですね。」

「とにかく、竜二さん!!

 お店は閉めちゃっていんですよね!?

 戸締まりとかしちまいますよ!」


 はっと、竜二は声を出して我に返った。

そして慌てて周囲をキョロキョロと見渡す。

ジト目で何をやってんですかと言いたげな星一朗と、

心配そうに顔を覗き込む希亜の姿が見てとれた。

竜二は心配げな希亜にすみませんと言って、

手近にあった空のグラスに冷水を注ぎグビッと一気に飲み干した。


「ああ、すまない。

 助かるよ。」

「大丈夫ですか?

 あの方が仰るようにお顔に疲労の色が……。」

「ま、まあ、多少なりの疲労感はあることは事実ですが……。

 こほん、ともかく、地下へ参りましょうか。」

「噂の【コレクションルーム】を案内して頂けるんですね!

 私、ずっと気になっていて。」

「あはは……。

 そうだ、希亜さん、一つお約束をして頂いても?」

「はい? なんでしょうか。」

「これから見る光景は、私の母や姉には内密にお願いします。

 恥ずかしながら完全なる趣味部屋みたいなものでして、

バレると小言が増える上にややこしい事になりますので。」

「はい、もちろんです。

 私からお義母様やお義姉様に告げる理由がありませんし。」

「おか、おね・・…あ、いや何でも無いです。

 では参りましょう……。」


 ふぅ……非常に深い溜息をついた竜二は、

こっちですとばかりに希亜の歩調に合わせて、

ご自慢の【コレクションルーム】へ至る階段へ向かった。


********


「セシルさん、ここの布団とか毛布とかって3組あれば十分ですよね?」

「ひぃふぅ…・…みぃ……でも5人いるよ?」

「あのお兄ちゃんと竜二さんが、

 せっかく巡ってきたこの機会に、

 ゲームする時間を惜しんで寝るとお考えですか!?」

「んー、愚問でした。」

「まあ、竜二さんは今日の疲れもあるだろうから、

 寝たいって言うかもですけど、

 ここ自宅ですし自室へ行ってもらいましょう!」

「だね~。

 それにしても皆で泊まることになるなんて……あ、前にもあったかな?」

「だいたいお兄ちゃんのせいです。

 あの人、人類みなゲーム好きとか絶対に考えてる。」


 セシルと恵玲奈は仮眠室で寝具の確認や部屋の掃除をしていた。

何やかんやと星一朗に対する手厳しい意見が飛んでいるが、

それも親しい間柄ならではだろう。

仮眠室に常備されていた寝具は全部で3組分。

竜二の話では他に後2組分はあるらしいのだが、

どこかにある寝具を探すのが面倒になって、

これで十分だと恵玲奈は口走ったのかもしれない。


「ありえるー、チェスター君ってそういうところあるよね。」

「ゲームという存在が無くなったら、

 どうなっちゃうんだろう……って妹ながらそこだけは心配するのです。」

「あ、そこはあたしも、かな~?

 結構、人生の中で大きなウェイト占めているし。」

「ある意味、羨ましいと言えば羨ましいですね。

 私はお兄ちゃんみたいな”ハマり”ってあんまりしないんです。

 兄妹のくせに似てないって思いますよー。」

「それでも兄妹仲良いんだから。

 ほら、あたしって一人っ子だから、兄妹って羨ましいの。

 それこそ年の近いお兄さん、

 あるいはお姉さんがいたらなーって小さい頃は思ってたから。」


 恵玲奈はぽんっと古典的納得表現で掌を叩く。

竜二さんという人がいるじゃない、と思ったのだが、

よくよく考えれば年が随分と離れていたことを思い出した。

セシルと恵玲奈はこう見えてかれこれ2年以上の付き合いがあり、

こうやって砕けた会話も出来るくらいになっている。

出会った頃のセシルは年下の恵玲奈に対しても丁寧語でしゃべり、

少し距離を置いたような感じだったのだが、

恵玲奈の助言もありちょっとだけ無理をしてお姉さんしているのであった。


「はぁ~……セシルさんが本当のお姉さんだったら良かったのに!」

「まあ、嬉しい。

 あたしも恵玲奈ちゃんが妹だったら嬉しいなぁ。

 こうやって毎日楽しくお喋りしたりお買い物にいけたり出来るし。」


 コンコンッ、

仮眠室のドアがノックされていたことに気付いた恵玲奈は、

はいはい、と言いながらドアを開ける。

そこにはちょっと疲れた顔をした竜二と、

目をキランキランに輝かせて

うわーうわーと感嘆をあげ続けている希亜の姿があった。

竜二が彼女を連れてコレクションルームを案内しているようだ。


「うわーっ!

 この部屋なんですか、なんですか?

 あたり一面、ゲームソフトばっかり、ゲーム機ばっかり、

 ゲーム周辺機器ばっかりっ!

 天国ですか! 竜二さん、一体何者なんですか?

 きゃあっこれって伝説のレアゲーじゃないですかっ!

 すごい、始めて現物見ました!」


 まるでお上りさんである。

キャーキャー言いながらそれはもうコレクションルームの衝撃を楽しんでいた。

ちなみに過去に彼女と同じような反応をした人物は2人いる。


「ここが仮眠室だよ。

 まあ、見ての通り仮眠する為の場所だから、寝具以外は基本的にないけどね。

 えっと……今日はここで休んでもらう感じだよね?」

「はい、あたし達と同じ場所で申し訳ないですけど。」

「いえいえ、こちらこそお邪魔してしまって。

 私、ちょっとワクワクしているんですよ?

 今までこうやって家族以外と一緒に寝る機会なんて

 あんまり無かったものですから。」


 ずずいっと恵玲奈が竜二の背後に立ち、

竜二にしか聞こえない程度の音量で口を開く。

恵玲奈の小悪魔的側面がチラリ、何やらニヤニヤと表情が緩んでいる。

これは今の状況を楽しんでいる顔だ。


「竜二さん、事後処理大変そうですね。」

「……そう思うんなら恵玲奈ちゃんも何かあったら協力してくれよ。」

「えー……もう、いい加減、ハラを括ったらどうですか?」

「……最近、恵玲奈ちゃんの口調が星一朗君そっくりだよね。」

「うぐッ……気のせい……と思いたいのに!」


 恵玲奈は少しむっとした。気にしない、気のせいだ、これは夢よ!と

自分に言い聞かせてきたのだが、ついに他人からも言われてしまった。

そうなのだ、いつの間にか兄のような口調で話してしまう時があり、

こっそりと悩んでいた。

この妙な因果関係は兄妹ゆえの宿命なのか、溜息こそしないものの、

克服するには時間が掛かるんだろうなぁと。


********


「何のゲームをしようか。」


 突然、星一朗は言い放った。

一通りの準備を追え、夕食まで少し休憩しようと

全員がコレクションルームの中央にあるソファーに腰掛けたタイミングだった。

まるでこの時を待っていたかのように嬉々とした感じにも受け取れた。

普段ならばここで竜二が話に載ってくるのだが、今日は勝手が違う様子だ。

チラっと星一朗は妹を見やるも、

妹はべーと舌を出してプイっとそっぽを向いた。

ならばとゲーム仲間であるセシルを見やる。

ここはある意味で星一朗のゲームの女神、

ニッコリと微笑んでうーんと言って濁した。

星一朗が俺の味方はここにはいないのかと、

次の行動へ移ろうとした瞬間、思わぬ所から声があった。


「ゲームをするんですか!?

 いいですね、どんなのをやるんですか!?」

「おおおおおおっ!

 雨倉さん、貴女はイイヒトだ!」


 希亜の声は弾んでいた。やる気満々のようだ。

まるで水を得た魚のように活き活きとした瞳に星一朗は涙を禁じ得ない。


「これだけの人数がいるんだ、何かないかね……

 く、こんな時に限って何も思いつかねぇ!」


 星一朗は悔しそうにしながら、

ソファーに置かれてあるクッションをぼふっと叩く。

ここでボードゲームやらトランプやら、

いわゆる一般的なパーティーゲームを星一朗が出すわけもなく、

都合の良い楽しめるビデオゲームのタイトルを必死に脳内検索しているのだろう。


「……やっぱ私達も参加するんかい……。」

「諦めましょう恵玲奈ちゃん、

 チェスター君、希亜さんという味方を得てテンション上がっちゃってるし。」

「フルスロットルな星一朗君に後は任せるよ、

 僕は夕食の準備でもしてくるからさ。」


 竜二はそう言うと一人で一階の喫茶店スペースへ向かった。

竜二は階段を昇りながら考え事をしていた。

そう、この場はどうとでもなるとして問題は明日以降だと。

もう後戻り出来ないのではないか、

外堀が気付いたら埋まっているのではないか、

最早竜二の脳内はカオス化していた。

もうお判りかと思うが、今頃あれこれ考えたところで

結果は変わらないのである。


 しばらくしてセシルと恵玲奈もすくっと立ち上がり竜二の後を追う。

仮眠室の準備中、二人は相談していた。

緊急時とはいえ、厚意でスペースを貸してもらっているのだから

手伝うくらいの事は、と。

キッチンで食料の在庫を確認していた竜二を見つけ、

二人は今日は全て私達にお任せくださいと言って、

竜二をコレクションルームへ戻したのだった。


「あれ?

 竜二さん、戻ってきたんですか?」

「あ、うん、何かセシルと恵玲奈ちゃんが来てさ

 ”今日は私達にお任せあれ”だってさ。」

「優しい姪御さん達ですね、私も行ってこようかしら。」

「あ、いや、大丈夫ですよ。

 今日、希亜さんはお客様なんですから、ゆっくりしていてください。」

「アイツ等……憎いことしやがる。」


 星一朗は腕組みしながら上階を見て言った。


「今日はあの子達の厚意に甘えるようかなって……。

 今の恵玲奈ちゃんの料理の腕も量っておきたいからね。」

「たまにはいいんじゃないすか?

 これまで結構、俺達は世話んなってるし。」

「そうかな……?」

「そうっすよ、俺だってちゃーんと感謝してんだから。

 まあ、お礼とかは他のタイミングで。」


 竜二は少し照れくさそうに鼻頭をかく。

星一朗の珍しい一言で反応に困っていた。

そんな珍しい事を言った星一朗は、

じゃあ俺はゲーム探しにいくんでとその場を後にしたのだった。

竜二は気付いていないが、希亜の優しげでありながら、

どこか尊敬の意を含んだ澄んだ瞳は、じっと竜二を見つめていた。

そんな希亜の好意の視線なんて知りませんとばかりに、

遠くから空気を読まない星一朗の声が響き渡る。


「ファイアーエムブレムとかしますー?」

「いや、それ皆で遊べないから。」

「じゃあ、ティアリング・サーガってーのは……あ、だいたい一緒か。」


続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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