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第五十六話 我、友軍艦見ユ

 主の居ない喫茶店にて、

常連客という免罪符と主の姪という立場を背に

星一朗とセシルは【箱庭】へ来ていた。

もちろん入口は施錠されており、

本日は臨時休業という無骨な手書きの看板が掛けられている。

臨時休業の理由は分かっている、

むしろその現場を確認してから今に至っているわけで。

星一朗はセシルを見て、後はよろしくとだけ言った。

セシルは少々気乗りしないながらもバッグから銀製の鍵を取り出した。

妙に凝ったデザインの鍵で、もしかしたら何かモチーフがあるのかもしれない。

ちなみにこの鍵は竜二がセシルに渡している合い鍵である。

念のため、という事でかねてよりセシルに手渡していた様子。

セシルは鍵を鍵穴に差し込んで回す。

ガチャリと音を立てて【箱庭】は開け放たれたのだった。


「でもいいんでしょうか、勝手に入ってしまって……。」

「ヘーキ、ヘーキ。」


 二人は店内に入る。

基本的には臨時休業だと思い出し、星一朗は看板はそのままにしたのだった。

店内と外気の差はほぼ無いに等しい、急ぎセシルは裏に回りエアコンを点ける。

暖まるまで少し時間が掛かりそうだったので、

星一朗は厨房に回りお湯を沸かし始めた。

随分勝手にやっているように見えるが、

これはセシルがこの場にいるからであって、

星一朗一人では絶対にやらない、はずである。


「業務用エアコンは違いますね、もう暖かくなってきました!」


 セシルはそう言いながらハンガーにコートを掛ける。

星一朗も店内の暖まり具合を感じ取りコートを脱ぐ。

そしてカウンターに置いたのだが、

セシルが気を利かせて星一朗のコートも取り丁寧にハンガーへ掛けた。


「あとでおじさまにメールしときますね。お店使ってますって。」

「そうだな、流石に黙っておくのは失礼だよな。」


 自分達以外誰もいない喫茶店、

数ヶ月前まではここに竜二がいるだけで、見慣れたはずの光景だった。

数ヶ月前はこれが普通で、

今みたいに脚が途絶えることのない喫茶店では無かった。

ふぅっと星一朗は一息入れてセシルに注文を聞いた。


「ご注文はお嬢様?」

「えっと、ブレンドで。」

「はいよ。

 あ、そうだ、申し訳ないが、味は期待しないでくれよ。

 竜二さんには及ばないからな。」

「ふふふ、気になんかしませんよ。」


 見よう見まね、見取り稽古とでも言おうか。

星一朗は竜二のコーヒーの煎れ方をずっと見ていた。

お湯の温度、コーヒーの豆の量、そして手を入れるタイミング。

そしていつしか自宅で家族に提供するようになり、

自分なりに美味しき飲める煎れ方をマスターしていた。

堂々と披露することは無かったが、

こうやって非公式な際に竜二の代わりに

キッチンを借りてコーヒーを煎れていたのだった。


「さてさて、竜二さん上手くやってんのかなー。

 あ、この場合、お断り前提だから上手くやっちゃいかんか。」

「確かにお断りするみたいなことをおじさま言ってましたけど、

 実際に会ったらまた変わるんじゃありません?」

「それはあり得るかもな、結構綺麗な人だったし、

 優しそうな感じもしたしなー。」

「アマクラさんでしたっけ。

 大上さんの学生時代の後輩さんなんですよね、

 何だか世間は狭いというか何というか。」

「ほら、ご注文の品。

 まだ熱いから気をつけなよ。

 そして俺はエスプレッソと。」

「チェスター君凄い!

 いつの間にエスプレッソなんて作れるようになったの?」

「んー? 去年末くらい?

 家で恵玲奈に頼まれて作ってみたら出来たというね。」


 星一朗はブレンドコーヒーのコーヒーカップをセシルの前に置く。

湯気が立ち昇り香ばしい独特の香りを放っている。

セシルは熱々のコーヒーカップに口をつけ味を確かめる。

両目を閉じてしっかりと味わっているようで、

ほんのり頬が紅く染まっているように見えた。

星一朗はそんなセシルの様子をまじまじと見ながら思っていた。

やっぱりセシルって美人だよな、と。星一朗の居ないところで、

セシルは結構大学の男連中に声を掛けられているようで、

その様子を何度か目撃もしていた。

ただ毎度断っているのだろうか、

誰かと一緒に歩いていた的な噂は聞くことは無かった。

余談ではあるが、

星一朗がセシルと一緒によくいる事についてはしっかりと噂にはなっている。

が、その事を本人達は気付いていないのであった。

なんだかんだ言いながら結構一緒に居る事が多い彼女、

何だって俺みたいなゲーマーバカと遊んでくれるんだろうなと考えたが

一瞬で改めた。


「ゲーマー仲間でしたわな。」

「はい?

 なんですかチェスター君。」

「箱庭七不思議の一つの謎について考察してただけだよ。」

「????」


********


「へっくしょっ……

 あ、すみません……いやぁ誰か噂でもしているんですかね?」

「うふふ、人気者ですね竜二さん。」

「人気者、かどうかはわかりませんが、

 きっとあの二人が色々言っているんですよ。」

「あの二人……ああ、入れ違いで出ていったあの学生さん達ですか?」

「あー、うちの姪とその友人なんですけどね……うちの常連客なんです。」

「まあ♪ そうなんですね。

 ……常連? お店を経営されておられるんですか?」


 お見合いは粛々と続いていた。

今は竜二と希亜の二人だけで歓談中の様子。

両親一同はすでに席を外しており、

今頃当人達の居ないところで盛り上がっているんだろうと竜二は予想していた。

相槌笑いを浮かべながら竜二は冷水に口をつける。

何とかここまで話を続けてきたが、

話の内容と言えば当たり障りの無いものばかり。

もう少し踏み込んだ話を本来ならばするべきなのだろうが、

お断り前提の今回のお見合い、気乗りしないは言うまでもなかった。


「自営業をされているとお伺いしていますが、

 具体的にはどのようなお仕事を?」

「え、あー何と言いますか趣味の延長という感じでして……。

 まあ何と言いますか、小さな喫茶店を細々と……。」

「まあ! 素敵!

 私、小さな頃から喫茶店でゆっくり本を読みながら、

 美味しいコーヒーを飲んでゆっくりすることが夢だったんです。」

「あ、あはは……それはそれは。」


 マズイ、竜二の脳裏に浮かんだ言葉だった。

思いがけぬところで好感度アップしてしまったような感じだったからだ。

だが希亜の発した言葉は何も珍しい話では無い。

良くある回答例の一つと考えれば大丈夫だ、

と竜二はあれこれ考えを巡らせていたのだった。


「いいですよね~、喫茶店。

 今の季節のオススメメニューとかあるんでしょうか?」

「えーと、最近はブレンドコーヒーとスパゲティ系が……暖かいメニューですね。

 そういう希亜さんはサポートセンター勤務なんですよね。」

「はい、コールセンターで毎日……

 あ、でもそろそろ退職するつもりなんです。」

「それまた……。」

「えーと……そのちょっと前に仕事が原因で体調を崩してしまい

 ……ストレスの少ない仕事のほうが良いのでは、と

 お医者様にアドバイスされまして。」

「そうだったんですか。

 コールセンターは大変なお仕事だと思います。

 生きる為に働いているのに、

 仕事で身体を崩しては本末転倒な気がしますよね。」


 ちらちらっと竜二に好意的な視線を送る希亜。

だが竜二はその視線に気付かずにいた。

竜二はぽりぽりと頬を数回掻いて、偉そうな事を言ってしまったなと思っていた。

何を隠そう、竜二は自分でそう言っておきながら、

体調不良で医者のお世話になる状態になった経験はなかったからだ。

ただストレスのせいで大変な目にあった知人もおり、

自分は決してそうなるまいと思ってもいた。


「私もそう思います。」


 希亜はニッコリと微笑んでそう言った。

でもその笑顔は、竜二からはどこか寂しそうにも見えていた。

これ以上、仕事に関する話題は避けた方がいいだろうと思った竜二は

誤って禁断の話題へ移す。


「話題を変えましょうか。

 うーん、そうですね。

 お約束で申し訳ないですが、ご趣味は? 」

「ええ、あまり身体が丈夫なほうでもありませんで、

 ”ゲーム”を少々嗜んでいます。」

「へぇ~、ゲームですか。

 バッグギャモンやモノポリーとかですか?」


 竜二の猪口才なすっとぼけ発言に、

希亜はふふふと小さく笑いながら、いいえと返した。

そして少し恥ずかしげに自身の長い黒髪を撫でながら言葉を続ける。


「あ、いえ、ビデオゲームになりますね。

 最近はスマホでもゲーム出来ますし、

 思わず熱中してしまってバッテリーが切れてしまう事もザラなんですよ。

 親にも呆れられています、いつまでもゲームやってるんじゃないって……。」

「へ、へぇ~それはそれは……何というか……運命に抗えない感じですね。」

「運命に抗えない?

 そうですね、止め時が分からなくなるくらいゲームは楽しいです♪

 それにゲームで遊んでいる瞬間、

 私は全てのしがらみから一時的でも解放されたような気分になるんです。」

「……確かに。」


 竜二は思った、今回のお見合いの結果について

冷静に考え直したほうがいいのではないだろうかと。

希亜がゲーム好きと判明した途端、

竜二の思考回路は見事な掌返しをしていたのだった。

竜二が結婚に対して億劫になっている理由の一つは、

ライフワークに等しいゲームを制限されてしまうことだった。

だが、彼女であればその難題は生じないのではないか、

実に都合の良い解釈をしてしまう自分を情けなく思いながら

大きく心は揺れていた。


「かくいう僕もゲームが趣味でしてね……。」

「まあ♪ それは本当ですか!?」


********


「……慢心はダメですよ、絶対に。

 ここは大人しく離脱すべきです。

 中破ならともかく一隻大破してるし。」

「あと1マスで突破出来る……!

 とはいえ撃沈は怖いので離脱するわ、うん。」


 星一朗はノートPCをカウンターの上で立ち上げて、

船を題材にしたブラウザゲームで遊んでいた。

セシルもプレイ経験があるようで、

一緒に画面を見ながらあーだこーだと言い合っている。


 本ゲームをプレイする上で最も重要な要素である資材。

これが星一朗のデータでは枯渇していた。

資材は時間経過で一定数値まで回復するものであり、

消費アイテムでも回復させる事も出来る。

リスクマネジメントを意識した上で通常運用する程度でならば

資材が枯渇することはほぼないと言ってもいいだろう。

だが、星一朗はギャンブル要素が存在する建造に資材を費やしていた。

目当ての艦船を入手する為に無理な建造を繰り返していたのだ。

大型艦船の建造ともなれば消費する資材の量も半端ではない。

結局、目当ての艦船を入手する事が出来ないまま、

資材が尽き今日になってようやく資材が遊べる程度に回復した為、

ゲームプレイを再開したのであった。


「寄港して一息ついた。

 よし建造をしよう。」

「ダメです♪」

「だって軽空母じゃ物足りないんだよ!

 正規空母が欲しい!」

「もう、少しは自重してくださいっ。

 また資材尽きて遊べなくなっちゃいますよ!」

「う……、分かったよ、

 第3艦隊と第4艦隊を遠征に出して資材貯めるか。」

「それがいいです。

 駆逐艦いっぱいいるんですから有効活用しないと。」


 そんな時だった、【箱庭】のドアが開け放たれたのは。

ドアに掛けてあった臨時休業の文字は見えなかったらしい。


続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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