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第五十五話 出会いは突然に?

 運命の日、ビシッとダーク系のスーツを着込み、

普段持たない革製の鞄を手に持ち、

無精髭をそり落とした竜二がお見合い会場となる市内の料亭の前に姿を現した。

料亭の入口付近には竜二の母親であるひかりと、

どこで場所を聞きつけたのか星一朗とセシルの姿もあった。

星一朗とセシルの姿格好は、

いわゆる休日に余暇を楽しむ開放的な格好では無く、

一応勉学に勤しむ学生らしい大人しめな服装をしていた。

大学からの帰りだろうか。

星一朗は手に飲みかけの紅茶のペットボトルを握りしめている。

その様子を見て竜二は少しだけむっとしていた。

若い二人の……いや、お気楽学生二人の表情が

ニヤニヤと笑っているように見えたからだ。


「ちゃんと時間通りに来ました竜二、そこは大人になりましたね。」

「ははは、もちろんですよ母さん。」

「やあ竜二さん。

 俺達も気になったので様子見に来ました。」

「ごめんなさいおじさま、学校でおじさまの事を話していたら、

 いてもたってもいられなくて。

 ね、チェスター君。」

「セシルはともかく、星一朗君は絶対に面白半分だろう?」

「なーに言ってんですか、

 世話になっている人の一大事、駆けつけるに決まってんじゃないっすか!」


 モノは言い様である。

竜二はふぅっと大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

そうだ、これから対峙する相手は

星一朗やセシルのように見知った相手ではない。

初めて顔を合わせ、色々話した挙げ句お断りを申上げる事になる相手なのだ。

そう考えるとやはり落ち着かないのであった。

会う前から既に気が重い。


「俺さっきまで気付かなかったんですけど、

 光さんにとってセシルはお孫さんにあたるんすよね。」

「ええ、そうですね黒瀬さん。

 孫がいつもお世話になっていますね。」

「いえいえ、こちらこそ。

 竜二さんともどもお世話になっておりますよ。」

「そういう会話は僕が着く前にやっておいてくださいよ……。」


 そう言って竜二は腕時計に目を移す。

約束の時間20分前、そろそろ中へ入って待っておくべきだろう。

念のため手持ちの鞄に忍ばせていたお見合い写真を改めて開く。

写真に映し出されているのは二十代後半の控えめな笑みを浮かべ、

優しそうな眼差しをした黒髪の女性だった。

これから会う人物の顔を見間違うわけにはいかないし、

何より名前を間違えてはいけない。

彼女の名前を見た時、

ふと竜二は数日前に阿里沙が口走った言葉を思い出していたのだった。


――この人、誰かと思ったら私の学生時代の後輩じゃない――


「世間は狭いって、実感するねぇ……。」

「どうしたんですか、突然。」

「ほら、この前阿里沙姉さんが言っていたじゃないか。

 私の後輩だって。」

「ああ、そう言えば。

 お祖母さま、お相手の方は一体どのような経緯で?」

「昔のコネ、とでも言いましょうか。

 知人の娘さんでね、結婚適齢期にもかかわらず色恋沙汰の話を聞かないからって。

 取り敢えずお会いしましょうという事で、お話を頂いてね。」

「なるほど、丁度良い機会だったんですね。

 竜二さん、よく言うじゃないですか、

 こういう人生の転機はタイミングだって。」

「君だって僕と似たような人種なのに……よく言うよ。」


 中へ入ろう、竜二は母・光を促す。

竜二はやれやれと思いながら、

乗り気でない事をなるべく出さないよう気を引き締めた。

性格上、思っている事が表情に出るタイプではない為、

自分でもそこは大丈夫と思っている竜二だが、

無意識下において言動に漏れ出てしまう可能性がある。

その一点だけ注意しコントロール出来れば、

取り敢えず失礼にならず澄むだろう。

後で断りを入れるにせよ、今日ばかりは気持ちよく過ぎ去りたいものである。

料亭の戸に手を掛けた瞬間、

竜二は背後に残る二つの気配を感じ取ったのだった。


「……君達、どこまで着いてくるつもりなのかい?」


 あはは、と笑って済ませようとした二人だったが、

そう簡単に問屋は卸さなかった。

竜二は真顔で二人に向き直り確認を取る。


「同席出来ないからね?

 セシルはともかく、星一朗君は絶対に無理だよ?」

「そんなの分かってますよー、お相手の顔を見たら帰りますから。

 な、セシル。」

「えへへ、あたしもそのつもりです。

 写真では見ましたけど、やっぱり会ってみたいじゃないですか。」

「君達ねぇ……。」

「それに言われてるんですよ阿里沙姉さんに。

 会えたらよろしく言っておいてって。」


 もうここで問答を繰り広げていても変わりない、

そう思った竜二は邪魔だけはしないでくれよと思いながら

料亭の中へ入っていったのだった。


********


 今回セッティングを行ったのは先方だった。

元々、光が準備を請け負うつもりだったようだが、

先手を打たれ今日に至ったようである。

当初格式あるホテルの一室でいいだろうという話だったが、

流石に気が引けるとのことで(談・竜二)、

高級ではあるものの庶民に優しい雰囲気を醸し出す料亭へ決定したわけである。

足取りが重くなるのは変わらないが、要は心的負担の問題である。


 料亭の中へ入ると、まるで待っていたかのように

今回のイベント担当者と思われる男が立っており、

竜二達を確認すると一礼して丁寧に挨拶を始めた。

そして面々を面会場へ案内し始めた。

後ろにつっついてきた学生二人について確認されたが、

光が孫ですのでと言い放ち、たった一言で一蹴したのだった。

担当者の苦い顔をしていたのは言うまでも無い。


「まさか許可されてしまうなんてね……。」

「部屋の前で待ってもらうわけにもいきませんから、

 隣の部屋にいてもらいます。

 私も先方へご挨拶した後にそちらへ参りますし。」


 既に隣室は光によって押さえられていたようで、

竜二の疑問は杞憂に終わったのだった。


「あれですね、後は若い人達だけで……というやつですね!」

「お祖母さま、ありがとうございます。」


 担当者はそそくさと部屋の戸を開け竜二を招き入れる。

光は部屋の前で立ち止まり、学生二人へ向き直り


「貴方達、分かっていると思いますけど、

 竜二さんの邪魔にならないよう静かにお願いしますよ?

 セシル、待っている間何かモノを頼んでも良いですが、

 お酒はダメですからね。」

「お昼から飲みませんってば!

 ね、チェスター君!」

「健全にソフトドリンクだけにしておきます!

 麦の炭酸とか飲みません!」


 光はコホンと咳を一つ入れ釘を刺したのだった。


「お酒は絶対にダメですからね?」

「冗談だってば。」


********


 決戦の舞台へ突入した竜二は、

手持ちの鞄から例の写真を取り出しテーブルの上に置く。

溜息交じりに既に準備されていたお茶の入った湯飲みを手に取り口へ運ぶ。

少し熱かったが、普段熱いコーヒー相手に商売している身、

この程度で熱いなんて言っていられないと

変なプライドを覗かせる竜二であった。


「……はぁぁぁ……母さんと姉さん、なんでああも強引なのかなぁ……。」

「強引ではありません、貴方のためを想い代わりに動いているだけです。」


 母親の声に驚き慌てふためく三十代半ばの男あり。

思わず振り返ると光が少しむっとした表情で竜二を見つめていた。

どうやら強引という言葉がお気に召さなかったようである。

取り敢えず竜二は正座に座り直し、

余っている湯飲みにお茶を注ぐのであった。


「ま、まあ、一杯どうです母さん。

 飲みますか?

 料亭のお茶だけあって凄く良い茶葉を使っていますよ。」

「……いくつになっても貴方は……。

 竜二さん、お立ちなさい。」

「はい!」


 母親に言われてすくっと立ち上がる三十代半ばの男ここにあり。

そんなやり取りの中、光の後ろから見知らぬ若い女性が現われた

……否、生では初めてだが写真で見た事がある女性が現われたのだった。

竜二が口を開くよりも早く彼女からの自己紹介が始まった。

女性は写真とは違い少しはにかんだような笑顔を浮かべている。

白系統の清楚なブラウスに少し丈が長めのスカート、

そして可愛らしいデザインのヒールを履いていた。

長い黒髪は手入れが行き届いているようで、どこか艶やかだった。


 写真のイメージ通りで竜二が無意識にほっとしていた。

この場で全く異なる姿格好だったらどうしようと内心思っていたからだ。

年齢は二十代後半とプロフィールにはあったが、年齢より少し若く見える。

ちなみに竜二から見れば二十代はみんな若い、

という身も蓋もない突っ込みは禁句である。


「あ、あの……お忙しいところ申し訳ありません。

 この度、お会いすることになっておりました

 ”雨倉あまくら 希亜のあ”と申します。」

「……ああっこれはご丁寧に!

 あー、えっと……岩雄竜二と申します。」

「希亜さん、年の割に落ち着かない息子でごめんなさいね。

 さ、中へどうぞ。」

「はい、失礼致します。」


 ふと竜二は視線を察知した。

反射的にその視線を追うと、案の定、

星一朗とセシルがそれはもうニヤニヤと良いモノを見たという表情をしていた。

そして星一朗が何やら妖しげな手の動きをしてメッセージを送ってきた。


「……(ブロックサインのつもりかい?

 そんなの打ち合わせしていないよね、星一朗君。)」


 メッセージを送って満足したのだろう、

星一朗はふぅっと額に汗を浮かばせながら

親指を立ててニッカリと歯を見せて笑う。

セシルも何だか良く判らないけど、

星一朗の真似をして親指を立ててウィンクしていた。


「……(何を言っているが本当のところは分からないけど、

 ”目的果たしたから俺達帰る、竜二さん頑張って”というところかな。)」

「あ……あの、りゅ、竜二さん、どうされました?」

「い、いや、なんでもないですよ。

 さ、こちらへどうぞ。」


 竜二の戦いは始まったばかりである。

果たして竜二はこの縁談を無事断る事が出来るのだろうか。

確率的に言えば五分五分まで持ち込まれたのは言うまでも無い。

しばらく竜二・光・希亜の三人で簡単な自己紹介の後、

歓談をしていると希亜の両親と思われる初老の男女が現われた。


「いやー申し訳ない、10分前に到着するつもりだったんですが、

 電車が遅れてしまいまして。

 父の”雨倉あまくら 隼人はやと”です。」

「申し遅れました、希亜の母で”雨倉あまくら 絵里えり”です。

 岩雄さん、本日はよろしくお願い致します。」

「良かった無事到着できて。

 メールしたのに全然返事こないんだもん。」

「いいえいいえ、遠くからお出で頂き有り難う御座います。

 ささ、こちらへどうぞ、

 丁度お嬢様からお二人のことをお伺いしておりましたのよ。」


 竜二はずずっとお茶を飲む。

横目で光のやり取りを見ながら、希亜の両親を確認していた。

二人とも五十代半ばといったところで、ごく普通の優しそうな人達に見える。

親子仲も悪くはないようで、両親に接する態度がそれを物語っている。

そして竜二は改めて思っていた。

こんなにいい娘さんはもっと若くて

将来性のある人間と一緒になったほうがいいと。


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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