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第五十三話 水魚の交わり

 年始早々に巻き起こった一部学生による暴挙は、

これまた学生有志達の活躍により解決を見たのである。

奪われた宝物は全て回収に成功し、

実行犯と目されているトレジャーハンター部は

当然のようにその責任を追及されたのである。

だが主犯であるトレハン部部長は当日以降全く姿を見せず、

他の部員の大半もやっぱり覆面部員ということで、現在逃亡中な者ばかりである。

新人と思われる顔割れした数名は、

大学自治会の下で厳しいお沙汰が下されたのだとか。

星一朗達が作成した自作映画については、

鈴成が保有権を主張、恵玲奈やセシルの返却要請に対して

ノーの返答を叩きつける一幕があった。

無論、ノーと言って引き下がる程呑気でないお嬢様二名は、

鈴成女史と数時間に渡る協議の末、

監視という名目の関係者がサークル室へ週に一度以上顔を出す事を条件に、

絶対に外部へ漏らさない事やサークル室から持ち出さない等の

内容を含んだ自作映画取扱に関する契約が取り交わされたのだった。

一部始終を遠くで見つめていた星一朗は語った。

恐ろしい世の中になったものだ、と。


 これらの喜劇、いや、この場合はただの騒動で構わないだろう。

これらの出来事を簡潔にまとめ、

星一朗は喫茶店【箱庭】の主の帰還に合わせて報告を行っていた。

身振り手振りを交え、時に派手な物真似をしながら約二十分にも渡った。

何故彼がここまで詳細に説明したのか。

無論、喫茶店の主が監督した作品である事と、

喫茶店の主の実家が絡んでいたのは言うまでも無いだろう。

事の顛末を聞き、ようやく安堵の表情を浮かべた喫茶店の主こと竜二は、

大きく深呼吸をするのである。


「……ふぅ~、最悪の事態は免れたようで助かったよ、

 これは恵玲奈ちゃんやセシルの頑張りが大きいみたいだね。」

「例の映画のディスクを持ち帰る事が出来れば最高だったんですけどねぇ、

 流石に相手も簡単には折れてくれなくて。

 間を取った妥協案で納得してくれて良かったです。」

「僕のいないところでトンだドタバタだったみたいだねぇ……

 逆にいなくて良かったよ。」

「居たら間違いなく巻き込まれてましたからね。」


 そう言って星一朗は竜二が煎れた久しぶりのコーヒーにやっぱ美味い、

と饒舌に語りながら舌鼓を打った。

インスタントとは違う、その辺りの店じゃ比較にならない、言いたい放題である。

幸い、今日の【箱庭】の客足は閑古鳥……最早懐かしい状態。

彼等以外誰も聞いていないのでセーフである。

【箱庭】の客足がそれなりに増えて幾星霜、たまには良いよねと思う竜二であった。

年が明けても相変わらず変わっていない様子。


「おかわりいるかい?」

「モチロンですとも。

 今日はゆっくりとコイツを飲むために来てんですから、

 野暮な事は聞かないでくださいよ。」

「あははは、それは嬉しいねぇ。」

「……はぁ~しかし、年明け早々恵玲奈達に振り回されるとは。

 黒瀬星一朗、不覚の致すところ。」

「まあ、大体どんな状況だったかは想像できるよ。

 星一朗君は彼女達に弱いからねぇ。」

「ぐうの音も出ない程に反論できない自分が最近悲しい。」


 竜二は、はははと笑いながら足りなくなっていたお湯を沸かす為、

ガスコンロに火を入れる。

この雰囲気、このやり取り、久しぶりの【箱庭】の情景に

星一朗は満喫せざるを得なかった。

大抵、このタイミングで恵玲奈だったりセシルだったり、

変化球で別の誰かが邪魔してくる事が多かった昨今。

今日は誰も来ずにマッタリ出来るぞ、まさに水を得た魚の如く、

生き生きとした表情を浮かべ星一朗はバッグから携帯ゲーム機を取り出すのであった。


「今は何をやっているんだい? このタイミングだと……。」

「ああ、えっと、これですよ。

 【レイトン教授と不思議の町】です、

 いやーたまにはこういうアドベンチャーもいいですね。」

「そ、そうだね(星一朗君に時節は関係ないんだった)。

 謎解きが難しくてね、僕はクリアするのに時間かかって大変だったよ。」


 【レイトン教授】シリーズとは、

ニンテンドーDSでリリースされた謎解きアドベンチャーゲームである。

架空の英国を舞台にしたファンタジー要素を含むミステリーもので、

ゲーム本編だけでも6作品リリースされている。

星一朗がプレイしている【不思議の町】はリリース順では第一作目、

シリーズの時系列では四番目にあたる。

本作の肝となる”ナゾ”の多くはストーリークリアには必須でなく、

ミニゲーム的な要素として活躍している。

難易度は低いものから高いものまで多種多様。

得意な人はとことん得意なジャンルではないだろうか。

主人公である【エルシャール・レイトン】と一緒に冒険をしながらナゾを解き、

物語の真相を解明していくミステリー風味なストーリーも魅力的である。

余談ではあるが、ゲーマーとして

この散りばめられた”ナゾ”を放置してゲームクリアをするなど言語道断と、

星一朗は妹・恵玲奈に対して宣言した後に

このシリーズをやり始めたのだった。

星一朗は何だかんだで、毎回恵玲奈に宣言しているような気がしないでもない。


「どこらへんまで進んだんだい?」

「半分くらいですねぇ。

 このヒントメダルを一枚も使わず全拾いしていくスタイルは崩しませんよ!」

「ヒントメダルって、ナゾのヒント開示に使うアイテムだったよね。

 ちょっとした縛りプレイみたいなもんだね。」

「まあ考えれば何とかなる事が多いので、

 最悪どうしても分からなくなったらメダルを使ってヒントを頂き、

 あとはぽちっとリセットをば……フフフフフフ……。」

「ま、まあ、星一朗君が納得すれば良いと思うよ? うん。」


 リーサルウェポンであるリセットを、

この手のジャンルで使う事にプライドはどうなのと

突っ込みを入れたくなった竜二だったが、

それもまた彼のプレイスタイルなのだと思い踏みとどまったのであった。

ゲーマー的に有りなのか、なしなのか、その答えはきっと永遠に出ない気がする。


「コーヒーを飲みながらならば、

 少しは頭のキレも良かろうと思ったけど、

 そう世の中上手くは出来ていないらしい。」

「当たり前だよ……これ一杯でクリア出来るんなら、

 クリエイターは商売あがったりだよ。」

「ほら、眠気さましや気合い入れに大活躍じゃないですか。」

「個人的にはコーヒー効果は眉唾だけどね。

 僕はコーヒーとか飲んでも関係なく寝れるし。」

「それは喫茶店のオーナーからは、

 たぶん出てはいけない発言の類ですなぁ~。」


 そう言えば竜二さんが何か飲んで粗相をしただの、

やんちゃをしたエピソードは聞いたことがないと星一朗は思い返していた。

ふむ、と納得した後、

手が止まっていた【レイトン教授】の謎解きに挑戦をする星一朗であった。


 コツコツ、耳を澄ませば聞こえてくる地下から鳴り響く靴音。

ゲームに興じている星一朗には当然聞こえていない。

だがその音はゆっくりと着実に上階を目指していた。

ガスコンロでまったりとお湯を沸かしている竜二にも

お湯の沸き立つ音でもちろん聞こえていない。

その靴音の主は身体をゆらゆらと揺らしながら

地下と地上を繋ぐドアのノブに手を掛けた。

ゆっくりとドアが開き、ゾンビのようなぼーっとした動きで姿を現した。

その姿を見た主に星一朗は自分の目を疑った。

黒く艶やかな長い髪、華奢な細い指先、

そしてふんわりと柔らかな物腰は、その存在の可憐さを際立たせる。

だがそれよりも目立っていたのは、

その存在の目の周りにくっきり現われたクマである。

それに格好も印象が宜しくない。

紺色の地味なジャージと藍色チェック柄の半纏を身につけていた。

星一朗は恐らくそうだろうと思い当たる人物の名前を呼んだ。


「せ、セシル……だよな?

 なんつー顔でなにやってたんだ?」

「きゃっ……ちぇ、チェスター君?

 う、うぁ……み、見ないで!

 もぅ、おじさまのいじわるっ!」

「なんで僕が責められるんだい?」


 そう言ってセシルはくるっと後ろを向き座り込んだ。

どうやら星一朗の存在は予想していなかったらしく顔を紅潮させ困惑顔になっていた。

少し涙を浮かべてもいる。

姪っ子の悲劇を苦笑いでスルーしている竜二は、

コホンと咳を一つ入れると何やら彼女の耳元で囁いた。

セシルはうんうんと頷き、一目散に地下へ戻っていったのである。


「セシルですよね、今の。

 何やってんですかってここの地下でやることはゲームしかないけど。」

「うーん、僕から説明していいもんか。

 プライベートな事だしねぇ。」

「いや、無理に聞く気はないですけど……

 それにしてもあんなセシル初めて見た。」

「彼女らしからぬ、かい?」

「ええモン見たなぁ、と。」


 しばらく音沙汰が無かったが、コーヒー用のお湯が沸き、

カップに入れたコーヒーが少し温くなるくらいの後、

キッチリといつものように清楚な出で立ちで

身嗜みを整えたセシルが決まりの悪そうな顔で戻ってきた。

竜二は待っていたよ、とばかりに

星一朗の隣の席に煎れたてのコーヒーカップを置いた。

まだ少し動揺しているようでぷいっと顔を背けたまま椅子に座り、

置かれたコーヒーカップを手に取り熱さを確認せずに口につけた。

中身はまだ熱いに決まっているので、

その後のセシルのリアクションも予想通りだった。

その様子に思わず吹きだしてしまった星一朗に涙目で抗議するセシル、

最早お約束になりつつある光景である。


「お、お見苦しい姿を見せてしまいました。

 本条セシル一生の不覚、後生ですのでどうかこのことは他言無用のこと。」

「誰にもいいやしないけどさ、

 セシルの愉快な姿を見られてボクは満足さ、はははっ☆」

「うぅっ~~~~っ、もうっもぅっ!」


 ぽかぽかと、無駄な殴打を繰り返す。


「若いっていいなぁ……年寄りには堪えるねぇ。」

「竜二さん、何黄昏れてんですか。

 竜二さんだってまだそんな事を言う歳じゃないでしょうが。」

「フォローありがとう星一朗君。

 でもね、ほぼ十代みたいな君達と三十路半ばの僕とじゃやっぱり違うんだよ。

 ふぅぅぅぅぅ……やれやれだね。」


 いつもの竜二さんと何か違う、そう判断した星一朗はセシルに耳打ちする。

今日の竜二、実は星一朗が店へ来たときから既に妙な様子だったという。

妙に溜息が多く、たまに明後日の方を見て意識が飛んだようになっていたのだとか。

気になってはいたものの、一人では指摘する勇気がなかった。


「……(どったの竜二さん、いつもと様子違くねぇ?

    ここ来たときからこうなんだよ。)」

「……(実は本城家から帰った時から様子がおかしんですよね、

    あたしも何でか知らないんですよ……。)」

「はぁぁぁぁぁ……なんだって僕が……そんな柄じゃないのに……。」

「すんごい溜息ですね、マジどうしたんですか?」

「おじさま、あたし達で良かったら相談とか乗りますよ?

 いつもお世話になっているわけですし、何かの力になれるかもしれませんし。」


 竜二は二人の輝くような視線に参ったのか諦めたのか、

そうだね、と言って何やら語り始めた。

竜二の苦悩の原因は正月に本城家へ帰った時まで遡る。


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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