表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/90

第五十話 図書館の主

 学内の中でもトップクラスに変人・奇人と評判のトレハン部部長主催による、

宝物探しイベントは寒空の下、粉雪が舞う中で粛々と進んでいた。

お冠状態の眉間にシワを寄せた関係者一同は、

必死の形相で目当てのモノを探して指定されたポイントを目を皿にして探していた。

トレハン部部長率いるトレハン部員の仕業により

大学敷地内のどこかに隠された各部・各サークルのお宝を巡って、

まさかの寒中行軍ときたもんだ、と不満は積もっていくばかりである。

映像視聴研究会一同も捜索ポイントである図書館へ辿り着いていた。


「何だって俺まで……あ、先輩らの目が据わってる。

 わ、わかってますよ、今更逃げ出しませんて。」


 途中、星一朗に捕まって連れてこられた栗野は珍しく文句を言っていた。

ぶつぶつ言っていた文句も鈴成と星一朗の睨みと、

麗しの女神(栗野談)であるセシルの視線を感じたことにより

自重するしかなかったのだった。

栗野は星一朗に接近し、彼に聞こえる程度の小さな声で宣言した。


「先輩、あとで報酬を請求しますからね。」

「……む、どうせ暇だったんだろう?

 ロハでいいじゃねぇかよ。」

「暇じゃないっすよ!

 今から今日発売の雑紙とイラスト集を買いに行こうとしてたんですよ!

 売り切れてたら先輩のせいっすからね!」

「それを世間じゃ暇だっつーんだよ。

 ……分かったよ、あとで何か飯でも奢ってやっから。」

「男と男の約束っすからね!」


 意外と細かい男・栗野である。

その性格ゆえ、様々なところで活躍出来るんだろうなと思う星一朗であった。

栗野は密約を取り付けた後、セシルや恵玲奈に挨拶をする為、

その場を後にしたのだった。

二人の様子を後ろで見ていた鈴成は、

くくくっと何かを企んでいそうな笑い声をあげてポンと星一朗の肩を叩く。


「奢るのは結構だが、彼女達に聞かれないように注意するんだな。」

「……鈴成さんの耳は地獄由来ですかね。」

「風の悪戯だよ、と言うわけだ気が向いたら私も誘ってくれたまえ後輩君。」

「普通、こういう時苦労を労って奢ってくれるのは先輩の方じゃないんすか?」


 鈴成はにこにこと笑みを浮かべ星一朗の肩を再びポンポンと二度軽く叩く。

反論は聞かないよという意思表示、分かっているだろうねという威圧要素、

聞かれてしまった不幸を呪う星一朗であった。


 映像視聴研究会一同の通う大学の図書館は、

街でもトップクラスの蔵書数を誇っている。

学生以外の一般市民へも利用開放されており、

指定の手続きで貸出カード発行後、

年間利用料500円を大学に支払えば一年間借り放題である。

ちなみに学生達は在学中に限り無料である。

徴収した利用料は蔵書の購入費や施設内機器の維持費に充てられている。

CDやDVDといったメディア関連も、指定されたもののみ貸出可能であるが、

こちらは有料かつ学生のみとなっている。

貸出料は街のレンタルショップと変わらない価格である為利用率は高くはない。


「”木を隠すなら森の中”ですか。」

「私、あんまり図書館こないからちょっと新鮮。」

「あたし達が探すものは”DVDメディア”です、

 何かの間違いでデータベースに登録されていないか見てみましょうか。」


 セシルはたたっと図書館の1階中央に設置された読書スペースへ走り出す。

そこには学内蔵書をまとめたデータベースへ接続されてある端末が設置されてあり、

蔵書の検索や蔵書の配置の確認が行えるのだ。

後を追って恵玲奈も私も行きますと追従する。

データ上で目当てのものが見つけられるとは思わないが、

万が一という可能性もあるし、灯台下暗しなんて言葉もある。

セシルの意図はそんなところだろうと、鈴成と星一朗は思っていた。

取り敢えず星一朗と鈴成と栗野は図書館の受付で仕事をしていた司書に

何か知っている事は無いか聞く事にした。


「こんにちわー、桃さん。」

「どうした星一朗、お、千郷もいるじゃねぇか。

 ん? なんだがん首揃えてまさかの勉強会か?」


 ぺこりと会釈する鈴成。それを見て栗野も反射的に会釈する。

桃さんと呼ばれた男は、よぉっと片手を上げてニコっと人懐っこい笑みを浮かべる。


「んなわけないっしょ。」

「トレハン部のせいでここに用がありましてね、お邪魔しますよ桃さん。」


 司書の名前は桃山ももやま、年の頃は三十代後半の男性で、

顎にうっすらと見える無精髭を生やし

ハーフフレームのやや色のついた眼鏡を掛け、髪は天然なのかパーマ状態。

衣服も年中着古したワイシャツにハーツパンツと

司書とは思えない姿格好である。

なのに靴はちゃんとした革靴を履いているのだから、

最早突っ込みも追いつかない。

仲の良い学生達からは”桃さん”と呼ばれているようで、

星一朗と鈴成とは顔馴染みの様子だ。

意外な人脈に栗野は驚きの顔を隠せなかった。


「はぁ~?

 トレハン部がここにお宝を隠したから探させてくれだと?

 いいんじゃね? 好きにやんな。

 どーせ今日も利用者なんてこねーだろうし。」


 そう言えば、と三人は図書館内を見渡した。

大学が冬期休暇中という事も有り、桃山の言うように利用客の姿はほぼなかった。

星一朗は桃山の返答に感激した様子で質問を続ける。


「さっすが桃さん、話が早い。

 そうだ、今回の件で何か知ってねぇすか?

 小さな変化とか違和感とかでいいんんすけど。」

「つってもなぁ~司書の俺でもよ、

 こっそりと本棚の中に紛れ込まされてたらわからんぜ。

 毎日蔵書全部を確認してるわけじゃねぇしな。」

「ふむ、そう簡単に手掛かりは手に入らんか。

 まあ、例のヒントを参考に地道に捜索を始めるしかないな。」

「ですねぇ、つーわけで作戦会議だわ。

 栗野、悪いがあっちで何か楽しげにしてる二人を呼んできてくれい。

 捜査指針を決めようと思う。」


 栗野は左手で敬礼の真似事をして駆け足でセシル達のもとへ向かった。

知っていると思うが敬礼は右手でするんだぞ、と突っ込みを入れる暇も無かった。


********


「おい、黒瀬兄。

 お前の背中に貼り付けられている紙はなんだ?」


 全員が集まりこれから作戦会議だと意気込んだ丁度のその時、

鈴成は星一朗の背中の物体に指摘を飛ばした。

間抜けな声をあげ星一朗はくるっと回り、

鈴成の言葉に星一朗以外の全員が一斉に彼の背中へ注視する。

はっとなった星一朗は慌てて自身の背中へ手をやる。

鈴成の言うように紙らしき何かがいつの間にか背中に貼り付けられてあった。


「ぬおっ!? なんじゃこりゃ!」

「先輩、剥がしますから動かないで!」

「こえぇぇ! 誰がやったんだ?」


 栗野は丁寧に星一朗の背中から紙を剥ぎ取っていく。

剥がれやすい接着剤を使われていたらしく、

剥ぎ取りに時間はそこまで掛からなかった。


「酔狂というか、幼稚というか、大胆というか。」

「全然気づかなかったよ、お兄ちゃん一体誰にやられたの?」

「あたしも気づきませんでした。」


 栗野はそう言って星一朗の背中に貼り付けてあった紙を剥ぎ取った。

その紙には、何やら思わせぶりな文言が並んでいる。

恵玲奈は剥ぎ取られた紙を見て書いてある文章を音読した。


「……ご丁寧に水に濡れても滲まないレーザープリンターで印字してあるな。」

「えーとなになに……


 ――故国の道程を知りし者より、太平の世を築き神君を見よ――


 だってさ、何これ、謎かけ?」


 星一朗と鈴成はお互いを見て頷いた。

トレハン部部長が言っていたヒント、”木を隠すなら森の中”の意味を理解し、

新たに現われたヒントらしき文章で確信を得たからだ。


「つまり、私達の宝物(映像DVD)は図書館の”蔵書の中”にあるということ。

 施設内のどこかではなく、この膨大な蔵書庫の中だってことだね。」

「ええ、そうですね。

 そして、今回のコレは暗号の一種。

 恐らく文章の指し示す場所に何かまたあるんでしょうね。」


 暗号と聞いて目の色を変えて紙を見つめる女性陣、

その後ろからまじまじと見つめる栗野。

女性陣達は何やら意味ありげな単語を言いながら

あーでもないこーでもないと言っていた。

故国の道程を知りし者とは、太平の世を築き神君とは、

栗野も同じように顎に手を当てて考えている。

星一朗はというと、欠伸を入れながらグータラ司書の桃山と駄弁っていた。


「おい、星一朗、お前は謎解きに参加しなくていいのかよ。」

「あんなもん解るヤツが答えを出してくれたらいいんですよ。」

「なんでぇ、ここで駄弁ってるからテッキリもう謎が解けたんだと思ったぜ。」

「うははは、俺にそんな能力があるわけないじゃないすか、

 やだなー桃さん。」


 ふと星一朗は、桃山の近くで山積みになっている本の山が気になった。

返却スペースではないところに本の山、何か桃山が調べ物をしていたのだろうか。

風体からそういう風に見られないが、

桃山自身は読書家で調べ物大好きなんだと豪語していた。

たぶん桃山を知る学生達は誰も信じてはいないだろう。


「何か調べものでもしてたんすか?」

「おうよ。

 最近、ドラマの影響で織豊時代(安土桃山時代)に興味を持ってな、

 教科書じゃ分からない歴史を調べていたわけよ。

 ほら、面白そうな本だろ?」

「”関ヶ原は燃えているか”に”明智血風録”だぁ?

 なんだか危ないタイトルだなぁ……。」

「これなんて一押し、すげぇ面白かったわ~。」


 そう言って桃山は星一朗にちょっと古めの歴史解釈本を手渡した。

殺風景な表紙に聞いたこともない著者、ページ数はそこまで多くないが、

パラパラとめくれば文字がびっしりとあった。

書いてある内容は、徳川家康が幕府を開くまでの歴史イベントを時系列に並べて、

事細かに説明したものだった。

桶狭間の戦いや関ヶ原の戦い、

大坂の陣など有名なものは一通り見受けられた。


「”東照神君の軌跡”……?

 ああ、なんだ、徳川家康公のことか。」

「すげぇよな、幕府を開くなんてどうやんだって話よ。

 エピソードてんこ盛りで、涙がとまんねぇよ。」


 星一朗は渇いた笑いを浮かべて桃山の話を聞いていたが、

視線はずっと本の表紙に注がれていた。

さっきから星一朗の頭の中でチラチラと何かが浮かんで何かが消えていった。

例えるならば喉に刺さった魚の小骨が気になって仕方が無いといった具合だろう。


「ちょっとお兄ちゃん!

 駄弁ってないで一緒に考えてよ!」

「チェスター君、どうしたの?

 何か考え事?」


 セシルの語りかけに星一朗は手をあげ、つかつかと輪に戻っていった。

暗号と思われる紙の前に立つと胸ポケットからボールペンを取り出し、

関係者に対して集まるように言った。

そして星一朗は、分かりやすく紙にラインを引き、

身振り手振りで説明を始める。


「もしかしたら解けたかもしれん。

 この暗号らしき文言なんだけどさ、

 ”故国の道程”を単純に日本史と考えると、

 ”故国の道程を知りし者”=日本史辞典。

 ”神君”は偉大な君主という意味もあるんだけど、

 太平の世を築いた神君は、この場合は徳川家康公しかいないんじゃねぇかな。」

「つまり……どゆことっすか先輩?」

「そういうことか。

 妙に勘がいいじゃないか黒瀬兄。」

「あ、そっか、あたしも分かったかも。

 流石ですチェスター君、やっぱりちゃんと考えていたんですね!」


 鈴成は何か察したようでふふっと笑みを浮かべる。

セシルもしばらく自分で考えた後、納得の表情を浮かべた。

恵玲奈と栗野も何となく分かったような顔をしている。


「日本史事典の徳川家康公のページを見てみろ、ってことじゃねぇかな?」


 星一朗がもっともらしく説明した事も有り、

 これが正解のように思える映像視聴研究会一同は、

 星一朗の言葉が終わると同時に目的の場所へ向かったのだった。


「辞典関連は2階のBブロックだぜー、

 日本史事典もいくつか種類あっから、まあ頑張れ。」



続く!

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ