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道化師は笛を吹く EPILOGUE 「私は元気です」

この物語は【箱庭でかく語りき】本編のストーリーとは一切関係ありません。

【箱庭でかく語りき】の登場人物である「鷲谷悦郎」が製作している

ゲームシナリオがこちらになります。

 サーカス団”道化師の夜”は大盛況で千秋楽を迎え、

その実力と人気を確固たるものにしていた。

拍手万雷が結果を評価するように大成功の舞台、

そしてカーテンコールに備え観客に対して

最高の礼を持って応えるキャスト一同。

失踪事件が解決したとの発表が警察・調査室合同で

公式にあってからというもの、街は明るさを取り戻していた。


 サーカス団の裏手、今はまだ公演中だという事もあり人の姿は無かった。

支配人専用のボックスカーの中で、

次の公演のスケジュールを確認していた支配人フレデリック・グロスマンは、

車の外で眠そうな目をしている女性に話しかけていた。

ちらりとのぞく赤い髪が風に揺れる。


「良かったのですかな、随分と彼等に入れ込んでいたようですが。」

「ぶっちゃけて言えば彼等のことアタシは大好きでしたから。

 良いか悪いかで答えるならば悪いに決まっています。

 もう二度と彼等の瞳に映る事は難しくなったわけですし。」


 車の外にいた女性、それはエンリカだった。

現在、目下指名手配中で数万シェリアの懸賞金が掛けられている。

普通の人間の目には映らない隠形の秘術を用いているようで、

エンリカの双眸は妖しく赤く煌めいていた。

念には念を入れ、目立たないよう目深にフードを被り

顔を完全に隠すことも忘れていない。

フードを被りながらエンリカはフレデリックの顔色を伺っていた。

思ったよりも実入りが少なかったのか、

誰でも分かるくらいに不満が顔に出ていた。

また太い指には妖しく佇む真紅の宝石がはめ込まれた指輪を身に付けていた。


「しかしまさか二度連続であの一族に邪魔されるとは……

 一度目は彼等の両親に、二度目は兄の手によって始まり妹の手で邪魔される。

 まさかセリオさんがこちら側についてくれるとは思わなかったものですから、

 今回は成功するだろうと思っていたんですがねぇ。」

「セリオさんはこういう結末を望んでいたんでしょう。

 アリシアさんの監視にアタシを派遣したり、

 自分が犯人と思わされるようなファイルをわざと残していたり。」

「まんまと我々は利用された、ということですかな。

 フォックス氏も良い人材を見つけたと喜んでおられましたのに。」

「途中から暴走していましたからね、

 セリオさんの意識が最期まで保っていたのは奇跡みたいなもんです。」

「漆黒の艶やかな色味を帯びた鋭利で心地良い復讐心をお持ちだったが、

 如何せん、性根が優しすぎるお方でしたからなぁ。

 特に妹さんに対する想いは相当なものでした。

 まあ、その部分が原因で自らを破滅させてしまったわけですなぁ。」


 エンリカは無表情に頷いた。

こう見えて人間という種を評価しているエンリカは、

どこか憧れにも似た不思議な感情を抱くようになっていた。

その事に気づき今ではその感情を楽しんでいる。

だが、今回の一件はエンリカにとって不本意な展開でもあった。

利用し利用される、エンリカが住まう世界ではよくある話なのだが……。 


「ここでの商売はもう諦めたらどうです?

 実入りも少ないでしょう。」

「ふーむ、とはいえこの土地は古くから

 高純度の人間の精神(モノ)が手に入るのです。

 アリシアさんさえ葬ってしまえば、この妙な因果も断ち切れるのでは?

 これは良い考えだ、さっそくフォックス氏へ了承を取り配下の者を仕向けましょう。」


 突然、エンリカは手を鋭利な剣に変質させると、

フレデリックの喉元に突きつける。

そしてこれまで見せたことがないくらいな冷徹な声で言った。

陽気に話していたフレデリックの額に汗が浮かぶ。

彼には分かるのだ、エンリカの目が冗談を語っているものではないことは。


「アリシアさんに手を出したら、例外なく滅しますよ?」

「じ、冗談ですよ。

 これ以上、実入りのないこの街には用はありません。」

「そーいう冗談は嫌いです。」

「ふ、ふぅ……すみません、調子に乗ってしまいました。

 と、ところでエンリカさんはこれからどうするのですかな?」

「逃亡生活を楽しみますよ、滅多にない機会でしょうし。」

「フォックス氏はしばらくこの街に滞在するとのことですが……

 いやはや研究者としての面が強すぎる方というのは全く。

 偽物(イミテーシヨン)とはいえ、”忘却の翠火(すいか)”を

 人間達の前で公開するなど一体何をお考えのやら。」

「その辺りで止めておいた方が賢明ですよ、フレッド。

 過ぎた考えは滅びを招きます。」


 そう言ってエンリカはフレデリックを戒める。

彼等の中で己よりも上位存在に対して、

公然と不平不満を漏らすのは自分を滅ぼされても

文句は構わないという宣言となり得るからだ。

エンリカは空を見上げた後、ゆっくりと歩きはじめた。


「行かれますか。」

「一人旅というのも悪くはないでしょう。

 各地の名物甘味を食するのも一興かと。」

「まるで人間のような言い種ですなぁ。」

「人間のような、ですか。」


 エンリカはそう呟くと、まるで霧のように姿を変質させ風景に溶けていった。


********


 市立特別調査室・室長のグレッグは失踪事件の報告書を見つめていた。

ここ一週間は、事後処理に追われ、平均睡眠時間は4時間を下回っていた。

日々部下から上がってくる様々な報告書に目を通し、

警察や報道機関への対応など忙殺という言葉では生易しいくらいだった。


 グレッグが今手にしている報告書は、アリシアが主に纏めたものだ。

意外にも内容に私情は含まれておらず、

第三者視点による客観的且つ正確なものだった。

報告書の指導をしたマルティンの影響もあるだろうが、

彼女の性格や顛末を知っているグレッグにしてみれば不思議でならなかった。


【アエル集団失踪事件・報告書】

--------------------------------------------------------------------

被害者41名、生存者無し。

主犯は当調査員により射殺。共犯者は逃亡、現在目撃証言なし。

本件は主犯と共犯者がおり、

主犯の指示によって共犯者が実行していたと思われる。

殺害方法については証明が非常に難しいが、主犯による証言によれば、

空間に隙間を作りそこへ被害者を無理矢理放り込む、とのこと。

放り込まれた先では人間は生存できないようである。


動機については主犯の個人的な怨恨が原因。

綿密な調査により被害者をリストアップしている。

このことから本件は突発的なものではなく、

計画的に且つ水面下で密かに企てられていた事は明白である。

--------------------------------------------------------------------


 トントンと誰かが優しく室長室のドアをノックする。


「室長、お呼びですか?」

「アリシアか入れ。」

「失礼します。」


 ショートカットに切り揃えられた金色の髪が揺れる。


「……? あ、ああ何だ髪を切ったのか。

 一瞬、お前の母親に見えたよ。」

「昔、母が私は短い方が似合うと言っていたので思いきって。

 ところでご用とは?」


 アリシアはセミロングの髪をばっさりと半分以上切っていた。

グレッグがもらしたようにその容姿はアリシアの母にそっくりだったという。

兄のことがあってケジメのつもりなのだろうとグレッグは考えていた。


「国の捜査機関からの依頼でな、

今回の失踪事件によって明るみに出た”化物”について聞きたい事があるのだそうだ。

報告書は提出してはいるが、直に当事者達に聞きたいんだとよ。

 他にも似たような事例がノースェラリア国内でもあるらしくてな、

 今回の事件は最重要参考案件扱いだそうだ。」

「他の場所でも……。」

「俺はまだ信じられん、化物もそうだがセリオの事もそうだ。」

「……そうですね、私だって今でも信じられないです。」

「じっくりと聴取したいらしくてな、数日かかる見込みだそうだ。

 ちなみに俺と情報屋も呼ばれている。面倒だが仕方あるまい。」

「はい。」

「……正直、今回の出向についてお前は辞退しても構わんと俺は思っている。

 先週病院から退院したばかりなんだ。

 捜査機関ではまた事件の事を思い出さなくてはならん。

 辛い思いをすることになるんだぞ。」

「覚悟の上です。

 私は今回の事件から絶対に逃げてはいけないんです。

 家族だった私が兄に対して何もしてあげられなかった事への償いの一つですから。

 頼ってばかりで兄に甘えることしかしてこなかった私への贖罪なんです。」

「そうか、なら俺ももうとやかくは言うまい。 出発は来週の月曜だ、遅刻するんじゃないぞ。」

「はい!」

「情報屋は……そういやまだ病院だったか、何でも良く抜け出しているらしいな。」

「みたいですね。

 そうだ、ディックさんには私から連絡しておきます。

 近所のおばちゃんからお見舞いでもらったフルーツが余ったので

 お裾分けに行くつもりでしたし。」

「頼む。」


 アリシアは室長室のドアで立ち止まると、

くるりと振り返り心配そうに眺めていたグレッグに向かって言った。


「室長、私は元気です。」

「……そうか。」

「もう兄の事で泣いたり落ち込んだりしません。

 吹っ切れたとまでは言いませんが、

 この十字架を背負って生きていくという大事な使命が出来ました。

 へたっている余裕なんかありませんよ。」


 ほんの少しだけ強くなったアリシアに、

グレッグは年甲斐もなく涙腺が緩んでしまったという。

こうしてアエルで起こった集団失踪事件、

通称”笛吹き男事件”は幕を閉じたのだった。


終わり

これでこの「道化師は笛を吹く」は終了です。

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